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本編
行き先は
しおりを挟む行き先もわからず、私は車の窓から流れる景色をボーッと眺めていた。
暫くすると住宅街へと到着した。
様々な家があるけれど、全体的に大きな家が多い気がする。
そんな中、一際大きい家が現れる。
長い塀に大きな門。
きっと住んでいる人は大金持ちなんだろうな、と考えていた時、車はその門の前で静かに止まった。
「降りて」
一言だけ皇くんは言うとサッサと車を降りていく。私側のドアを運転手さんが開けてくれ、私は戸惑いながら足を車の外に一歩踏み出した
回り込んで来た皇くんが手を差し出す。
これはエスコートしてくれる、という事なのだろうか?そんな事をしてくれなくても車は降りられるが、無表情の皇くんはそれを許してくれなさそうだ。
「あ・・・ありがとう・・・」
大人しく手を取り、促されるまま大きな門の前まで来ると門が開き、燕尾服に黒い蝶ネクタイをした老輩の男性が静かに頭を下げた。
「お帰りなさいませ、万里様」
「うん。父さんと母さんいる?」
「旦那様はまだお帰りになられていません。奥さまはいらっしゃいます」
「わかった」
それだけ話すと皇くんはスタスタと進んでいく。
老輩の男性は私にも頭を下げてくれたので、私も慌ててぺこりと下げ後を追った。
お父さんにお母さんって・・・ここ、皇くんの家!?
「あ、あの皇くん、ここって・・・」
「俺の家。気楽にしていいから」
一体全体、何がどうなって皇くんの家に来る事になったのかさっぱりな私は、とてもじゃないけど気楽になんてできなかった。
おそらく玄関に向かっているのだろうけど、その玄関がなかなか現れない。
様々な花が咲き、石畳でできた道は少し外国を思わせる雰囲気がある。
これは・・・庭なのかな?
規模が大き過ぎて私の脳がパンクする寸前になった時、やっと玄関らしき物が見えた。
玄関にはメイドのような格好をした女性が数人、やはり頭を下げて待っていた。
「「「お帰りなさいませ」」」
こんな状況に慣れていない私と違って、皇くんにとっていつもの事なのだろう。何もなかったかのように女性たちの間を進んでいく。
「酒井、客間に母さんを呼べ」
「畏まりました」
門の所にいた老輩の男性は酒井さんというらしく、ここまで後ろから着いてきたのだろう。全く気付かなった。
いつの間にかエスコートされていた手は握られていて、皇くんが進む方向へ私も進む。
家というより屋敷といった方が正しい気がする皇くんの家の中は、落ち着いた青と白を基調にされていてとても私が足を踏み入れていいような雰囲気ではなかった。
「ね、ねぇどうしてここに連れてきたの?」
グイグイと引っ張られる手を軽く引き戻しながら聞いた私をチラリと横目で見やる皇くん。
「リリィちゃんがあまりにも頑固だから強硬手段に出たの」
「え?」
どういう事かと聞く前に客間に到着したらしく、部屋の中に入れられソファに座らされた。
客間の中は玄関とは違ってトープを基調にした落ち着いた部屋だった。
すぐにメイドさんらしき人がお茶を淹れ、テーブルに置く。何も言わずそのお茶に口をつける皇くんと、どうしていいかわからずソワソワする私。
奇妙な時間が数分過ぎた頃、明るい声が部屋に響き渡った。
「お帰りなさい。あらぁ?万里、こちらのお嬢さんは?」
驚き顔を上げると二十代くらいの綺麗な人がにこにこと私たちを見ていた。
皇くんのお姉さんだろうか?皇くんとよく似ている。
「母さん、こちら神崎 百合亜さん」
「まぁ!彼女が噂の百合亜ちゃんね!こんなに早く紹介してくれるなんて嬉しいわ!」
お、お母さん?!
どう見ても親子に見えないその人はどうやら皇くんのお母さんらしい。
それより噂って・・・?
「は、初めまして。神崎 百合亜です。お邪魔しています」
慌てて立ち上がり頭を下げると、皇くんのお母さんは私に近付きガシリと手を握った。
「え?」
「まぁ~可愛い!万里ってばこういう子がタイプだったのね!初めまして。万里の母の菫です。万里と仲良くしてくれてありがとうね」
「い、いえ。私こそ皇くんにはよくして頂いていて・・・」
「謙遜しなくていいのよ。万里について困った事があったらいつでも私に言ってね?」
皇くんのお母さんは顔を少し傾け、伺うように顔を近付けてきた。
「は、はい・・・」
「母さん、近すぎ」
ベリッと引き剥がされ、皇くんの腕の中に閉じ込められる。何が起きたのか理解した途端、顔から火が出るかと思うほど熱くなった。
「ちょっと!皇くん!」
「こうしてないとまた母さんに取られるだろ」
「取るとか取らないとかじゃないから!」
離して欲しくて手をめいいっぱい伸ばしてみるけど、皇くんの腕はビクともしない。
そんな私たちを見て、皇くんのお母さんはくすくすと笑った。
「良かったわ~とっても仲良しなのね」
「うん、俺この子としか結婚する気ないから、母さんもそのつもりでいて」
・・・・・・はい?
結婚?
手に力を入れるのも忘れて私はポカンと皇くんを見上げた。
「まあまあ。わかったわ。早くお父さんにも知らせないとね」
「良かったら夕飯食べていってね」と言い残し、皇くんのお母さんは客間を後にした。
まだ固まったままだった私を見下ろしていた皇くんはニヤリと笑った。
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