彼の執着〜前世から愛していると言われても困ります〜

八つ刻

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本編

キェロ ベルテ

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「どしたの?さっきから顰めっ面しちゃって」

今日もいつもの三人でランチを食べてる最中、未央ちゃんは不思議そうに私の顔を覗いてきた。

「バイトがなかなか決まらないの」
「あら、決めかねているの?」
「ううん。面接を申し込んでも面接までして貰えないの」

私は焦っていた。
夏休みは来週から始まる。それなのにバイトが決まらないのだ。
スマホで良さそうな所を見つけ、申し込んでも定員に達したと言われてしまう。
そこまで高望みしてないけど、困ってしまった。

「俺が紹介してあげよっかぁ~?」

話を聞いていた橘くんが生姜焼き定食をつつきながら言ってきた。やっぱりご飯は大盛り。

「どういう事?」
「んーツテがあるからさ。百合亜ちゃんならそうだなぁ時給二千円出しちゃう!」
「え、高っ!」
「橘様、百合亜に何をさせるつもりですか?」

大学生の時給なんて千円ちょいが普通だろう。二千円も貰えるなんて嬉しいけど、未央ちゃんが言うように高いのならそれなりの事をやらされるはずだ。

「いやだな~変な事させないよ?百合亜ちゃん、TOEIC何点?」
「え、七百ちょっとだけど・・・」
「わお。優秀だね~それだけあったら十分だよ」
「?」

英語を使うバイトなんだろうか?
私は英米文学科だから、それを活かせるなら有難い話だ。

「橘様!勿体ぶらないでハッキリ言いなさいな」
「俺は藤井さんに話してないんだけど・・・まぁいいや。百合亜ちゃん、簡単に言うと英文メールを作成するお仕事ね」
「事務ですか?」
「まぁそんなもん。百合亜ちゃんなら時給二千五百円でもいいよ~」

二千五百円!?いくら何でもそんなに貰えない!

「えっと、どこの会社なんですか?」
「あ、大事な事忘れてた。万ちゃんのとこだよ」
「それって・・・」
「うん、皇コーポレーション」

・・・・・・皇コーポレーションって、皇グループの本社だよね?


実はあの映画館の後から私は皇くんとの連絡は極力避けている。
誘いも何だかんだと言い訳をしてお断りしてる状態だ。それなのにバイトをお願いするなんてできない。

橘くんは「他に決まらなかったらでもいいよ」と言ってくれたから、とりあえずは保留にして貰った。



どうしたものかと悩みながら、いつもの帰り道を歩いていると喫茶店が目に入った。
小さいけれど、外から見える店内はアンティーク家具で纏められていてとってもお洒落だ。
いつも通っている道なのに全く知らなかった。

大学生になってから人間関係で色々あって疲れていたからか、私は誘われるようにフラフラと入店していた。

店内はヨーロピアンアンティークの家具に、お洒落なシャンデリア、緑もあってまるでどこかの洋館のようだった。

「素敵・・・」

意識せず、つい呟いてしまった私にくすくすと笑い声が聞こえた。

「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ」

マスターだろうか。白髪を全て後ろに流し、ピッチリとセットしている男性は六十代くらいの優しそうな男性だった。

軽く会釈をし、折角だからと道沿いじゃない窓際の席に座る。
窓からは庭が覗けてたくさんの緑や花がが咲いていた。

「素敵なお店ですね」

お水とおしぼりを持ってきてくれたマスターらしき人に話しかけると、にこりと微笑んだ。

「ありがとうございます。私の長年の夢でね。昔からなぜかヨーロピアンな物に憧れを抱いてしまっていたんですよ」
「わかります!なんだか懐かしいんですよね!」
「おや、わかって貰えますか?嬉しいですね」

なんだか初対面という感じがしないマスターは、他にお客さんがいない事をいいことに色々話し込んでしまった。
頼んだコーヒーと手作りだというスコーンも凄く美味しい。

「実はパートさんが産休で今は一人でやっているんですよ。なのでなかなか接客まで手が回らなくて。偶に妻に手伝って貰ってるんですけどね」
「え・・・じゃ、じゃあバイトって募集していませんか!?」
「え、えぇまぁ募集はしてますが、なかなか申し込みがなくてね」

時給安いからかな、と苦笑するマスターにこれはチャンスだと畳みかける。

「あのっ!私今大学生で、夏休みの間バイトできないか探してたんです!私で良かったら雇って貰えませんか?」

高校生の頃バイトをしていたレストランで接客の経験はある。時給は安くてもバイトが決まらないよりかはいいだろう。
何よりこんな素敵な喫茶店で、優しそうなマスターとなら上手くやっていけそうだ。

「こちらは有難いですが・・・では、詳しい話をしてからにしましょうか」
「はい!お願いします!」

マスターは一瞬驚愕の表示を浮かべたけれど、すぐにまた穏やかな笑顔になった。


こうして私のバイト先は“カフェテリア・キェロ ベルテ”に決まった。
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