上 下
9 / 31
本編

橘 清春

しおりを挟む

次の日一時限から講義に行くと、講堂の前で知らない人に話しかけられた。

「こんにちは、神崎 百合亜ちゃん」

高い身長だけどその顔は柴犬みたいなクリクリした目をしていて、年上の女性から好かれそうな顔立ちだ。

「こんにちは・・・えぇっと、貴方は・・・?」
「俺、橘 清春たちばなきよはる。万ちゃんに頼まれて君の護衛を頼まれました~」
「万ちゃん?護衛??」

意味がわからないと困惑の表情を浮かべる私に橘くんはニパッと笑った。

「万ちゃんは皇 万里ね。俺万ちゃんの“お付き”なんだぁ。護衛っつーのは君、学内の女子に嫌がらせされてるんでしょ?俺といればもう大丈夫だから!」
「は、はぁ・・・?」
「でも俺は経済学部で常に一緒は無理だから。て、事で連絡先交換しよ?」

??
なんでこんな見ず知らずの人に連絡先を教えなきゃいけないの?
そんな心の内が顔に出ていたのか橘くんは続けた。

「何かあったら助けにこれないでしょぉ?万ちゃんは学内では近寄れないから俺がその変わり。はい、スマホ出して」

イマイチ納得できないけど、ノロノロとバッグからスマホを取り出しロックを外す。すると橘くんはひょいっと私のスマホを取り、自分のスマホにQRを読み込ませているようだった。

「ーーよし。これでOK。あ、昼は俺と食べようね。迎えに行くから待ってて。それじゃあね~」

私の手にスマホを握らせると橘くんは言いたい事を言って風のように去っていった。

「なんなの・・・いったい・・・」

緑のSNSには柴犬のよろしくねスタンプが送られていた。



✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼



二時限の時、偶然未央ちゃんに会った。
未央ちゃんもこの講義を取っていたらしく、仲良く隣に座り講義を受ける。
今までこんな風に大学ですごした事がなかったから、それだけでなんだか嬉しくなってしまった。

講義が終わり、ランチの時間になった。
橘くんは迎えに来ると言っていたけど、ここにいればいいのかな?とスマホを念の為見てみる。タイミング良く橘くんから連絡が来て、ここまで来てくれるようだ。

「百合亜、外のお店に一緒にランチ行かない?」
「あっごめん!今日は約束してて・・・」

まさか未央ちゃんが誘ってくれるとは思わず・・・あぁ未央ちゃんとランチしたかったなぁ。

「あら、誰と?」
「俺とだよ」

連絡を取ったのはついさっきなのに既にそこには橘くんがいた。

「橘様と・・・?」

未央ちゃんの眉間には皺が寄っている。
なんで?橘くんって何者??

「そ。藤井さんは外へどーぞ。じゃ百合亜ちゃん行こっか」

にっこりと微笑んではいるけど、問答無用と言わんばかりに橘くんは私の腕を掴んだ。

「ちょ、ちょっと待っーーー」
「でしたらわたくしもご一緒させていただきますわ」
「藤井さんも?」

笑っていた橘くんの表情が一瞬強ばったように見えたのは気のせいだろうか。

「なんで?」
「百合亜とお友達になったからよ。お友達と一緒に食事するのに理由がいるかしら?」
「・・・・・・まぁいいけど。百合亜ちゃんは学食だよね?行こ?」

私に向き直った橘くんはさっきと同じように笑っていた。




学食は大勢の生徒たちでガヤガヤと賑わっている。
麺が大好物な私は上海風焼きそばをチョイスした。

「もうすぐ夏休みだね。百合亜ちゃんはどっか行くの?」

橘くんは大盛りの親子丼にしたらしい。さすが男子。ガッツリだ。

「う~ん、私はみんなと違って一般庶民だからどこにも行かないかな。あ、短期のバイトしたいなぁなんて」
「まぁバイト?百合亜凄いわ!」
「凄くなんてないよ。来年スペインに行きたいからお金が必要なだけ」

うちは特に裕福でも貧乏でもない中流階級だ。海外旅行、しかもスペインとなると早々出せる金額ではない。

なんひぇスペインにゃの?なんでスペインなの

親子丼を口に頬張りながら喋る橘くん。お行儀悪いよ・・・それなのにお箸を持つ手と所作は凄く綺麗だなんて、不思議な人。

「私サッカー観戦が好きなの。好きなチームがスペインだから行きたいねって」
「百合亜はアクティブなのね!」

未央ちゃんは煮込みハンバーグをナイフとフォークで食べている。やっぱり所作が綺麗だ。
育ちというものをひしひしと感じた。

「ふ~ん。で、誰と行くの?」
「幼なじみと行こうって話してるよ。ついでに観光もしたいねって」
「女?」
「え?あ、男の子だけど・・・」

昨日遥ちゃんに言われた事を思い出し、そんな関係じゃないと言おうとしたけど、未央ちゃんの声に遮られた。

「まぁ!百合亜の彼氏?いいわねぇ彼氏とスペイン旅行。わたくしも何度か行ったけど、ピカソ美術館とカサ・ミラは絶対行った方がいいわ」
「カサ・ミラ?」
「えぇ、地中海をイメージした建築物でねーーー」

未央ちゃんはスペインに詳しいらしく、色んな事を教えてくれた。
話に夢中になっていた私は橘くんの冷たい瞳に気付くことは最後までなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

記憶のない貴方

詩織
恋愛
結婚して5年。まだ子供はいないけど幸せで充実してる。 そんな毎日にあるきっかけで全てがかわる

その日がくるまでは

キムラましゅろう
恋愛
好き……大好き。 私は彼の事が好き。 今だけでいい。 彼がこの町にいる間だけは力いっぱい好きでいたい。 この想いを余す事なく伝えたい。 いずれは赦されて王都へ帰る彼と別れるその日がくるまで。 わたしは、彼に想いを伝え続ける。 故あって王都を追われたルークスに、凍える雪の日に拾われたひつじ。 ひつじの事を“メェ”と呼ぶルークスと共に暮らすうちに彼の事が好きになったひつじは素直にその想いを伝え続ける。 確実に訪れる、別れのその日がくるまで。 完全ご都合、ノーリアリティです。 誤字脱字、お許しくださいませ。 小説家になろうさんにも時差投稿します。

彼の過ちと彼女の選択

浅海 景
恋愛
伯爵令嬢として育てられていたアンナだが、両親の死によって伯爵家を継いだ伯父家族に虐げられる日々を送っていた。義兄となったクロードはかつて優しい従兄だったが、アンナに対して冷淡な態度を取るようになる。 そんな中16歳の誕生日を迎えたアンナには縁談の話が持ち上がると、クロードは突然アンナとの婚約を宣言する。何を考えているか分からないクロードの言動に不安を募らせるアンナは、クロードのある一言をきっかけにパニックに陥りベランダから転落。 一方、トラックに衝突したはずの杏奈が目を覚ますと見知らぬ男性が傍にいた。同じ名前の少女と中身が入れ替わってしまったと悟る。正直に話せば追い出されるか病院行きだと考えた杏奈は記憶喪失の振りをするが……。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

甘い束縛

はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。 ※小説家なろうサイト様にも載せています。

お姉さまは最愛の人と結ばれない。

りつ
恋愛
 ――なぜならわたしが奪うから。  正妻を追い出して伯爵家の後妻になったのがクロエの母である。愛人の娘という立場で生まれてきた自分。伯爵家の他の兄弟たちに疎まれ、毎日泣いていたクロエに手を差し伸べたのが姉のエリーヌである。彼女だけは他の人間と違ってクロエに優しくしてくれる。だからクロエは姉のために必死にいい子になろうと努力した。姉に婚約者ができた時も、心から上手くいくよう願った。けれど彼はクロエのことが好きだと言い出して――

婚約者に好きな人ができたらしい(※ただし事実とは異なります)

彗星
恋愛
主人公ミアと、婚約者リアムとのすれ違いもの。学園の人気者であるリアムを、婚約者を持つミアは、公爵家のご令嬢であるマリーナに「彼は私のことが好きだ」と言われる。その言葉が引っかかったことで、リアムと婚約解消した方がいいのではないかと考え始める。しかし、リアムの気持ちは、ミアが考えることとは違うらしく…。

処理中です...