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本編
橘 清春
しおりを挟む次の日一時限から講義に行くと、講堂の前で知らない人に話しかけられた。
「こんにちは、神崎 百合亜ちゃん」
高い身長だけどその顔は柴犬みたいなクリクリした目をしていて、年上の女性から好かれそうな顔立ちだ。
「こんにちは・・・えぇっと、貴方は・・・?」
「俺、橘 清春。万ちゃんに頼まれて君の護衛を頼まれました~」
「万ちゃん?護衛??」
意味がわからないと困惑の表情を浮かべる私に橘くんはニパッと笑った。
「万ちゃんは皇 万里ね。俺万ちゃんの“お付き”なんだぁ。護衛っつーのは君、学内の女子に嫌がらせされてるんでしょ?俺といればもう大丈夫だから!」
「は、はぁ・・・?」
「でも俺は経済学部で常に一緒は無理だから。て、事で連絡先交換しよ?」
??
なんでこんな見ず知らずの人に連絡先を教えなきゃいけないの?
そんな心の内が顔に出ていたのか橘くんは続けた。
「何かあったら助けにこれないでしょぉ?万ちゃんは学内では近寄れないから俺がその変わり。はい、スマホ出して」
イマイチ納得できないけど、ノロノロとバッグからスマホを取り出しロックを外す。すると橘くんはひょいっと私のスマホを取り、自分のスマホにQRを読み込ませているようだった。
「ーーよし。これでOK。あ、昼は俺と食べようね。迎えに行くから待ってて。それじゃあね~」
私の手にスマホを握らせると橘くんは言いたい事を言って風のように去っていった。
「なんなの・・・いったい・・・」
緑のSNSには柴犬のよろしくねスタンプが送られていた。
✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼
二時限の時、偶然未央ちゃんに会った。
未央ちゃんもこの講義を取っていたらしく、仲良く隣に座り講義を受ける。
今までこんな風に大学ですごした事がなかったから、それだけでなんだか嬉しくなってしまった。
講義が終わり、ランチの時間になった。
橘くんは迎えに来ると言っていたけど、ここにいればいいのかな?とスマホを念の為見てみる。タイミング良く橘くんから連絡が来て、ここまで来てくれるようだ。
「百合亜、外のお店に一緒にランチ行かない?」
「あっごめん!今日は約束してて・・・」
まさか未央ちゃんが誘ってくれるとは思わず・・・あぁ未央ちゃんとランチしたかったなぁ。
「あら、誰と?」
「俺とだよ」
連絡を取ったのはついさっきなのに既にそこには橘くんがいた。
「橘様と・・・?」
未央ちゃんの眉間には皺が寄っている。
なんで?橘くんって何者??
「そ。藤井さんは外へどーぞ。じゃ百合亜ちゃん行こっか」
にっこりと微笑んではいるけど、問答無用と言わんばかりに橘くんは私の腕を掴んだ。
「ちょ、ちょっと待っーーー」
「でしたらわたくしもご一緒させていただきますわ」
「藤井さんも?」
笑っていた橘くんの表情が一瞬強ばったように見えたのは気のせいだろうか。
「なんで?」
「百合亜とお友達になったからよ。お友達と一緒に食事するのに理由がいるかしら?」
「・・・・・・まぁいいけど。百合亜ちゃんは学食だよね?行こ?」
私に向き直った橘くんはさっきと同じように笑っていた。
学食は大勢の生徒たちでガヤガヤと賑わっている。
麺が大好物な私は上海風焼きそばをチョイスした。
「もうすぐ夏休みだね。百合亜ちゃんはどっか行くの?」
橘くんは大盛りの親子丼にしたらしい。さすが男子。ガッツリだ。
「う~ん、私はみんなと違って一般庶民だからどこにも行かないかな。あ、短期のバイトしたいなぁなんて」
「まぁバイト?百合亜凄いわ!」
「凄くなんてないよ。来年スペインに行きたいからお金が必要なだけ」
うちは特に裕福でも貧乏でもない中流階級だ。海外旅行、しかもスペインとなると早々出せる金額ではない。
「なんひぇスペインにゃの?」
親子丼を口に頬張りながら喋る橘くん。お行儀悪いよ・・・それなのにお箸を持つ手と所作は凄く綺麗だなんて、不思議な人。
「私サッカー観戦が好きなの。好きなチームがスペインだから行きたいねって」
「百合亜はアクティブなのね!」
未央ちゃんは煮込みハンバーグをナイフとフォークで食べている。やっぱり所作が綺麗だ。
育ちというものをひしひしと感じた。
「ふ~ん。で、誰と行くの?」
「幼なじみと行こうって話してるよ。ついでに観光もしたいねって」
「女?」
「え?あ、男の子だけど・・・」
昨日遥ちゃんに言われた事を思い出し、そんな関係じゃないと言おうとしたけど、未央ちゃんの声に遮られた。
「まぁ!百合亜の彼氏?いいわねぇ彼氏とスペイン旅行。わたくしも何度か行ったけど、ピカソ美術館とカサ・ミラは絶対行った方がいいわ」
「カサ・ミラ?」
「えぇ、地中海をイメージした建築物でねーーー」
未央ちゃんはスペインに詳しいらしく、色んな事を教えてくれた。
話に夢中になっていた私は橘くんの冷たい瞳に気付くことは最後までなかった。
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