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本編
親切なお嬢様
しおりを挟む「貴女たち、見苦しくってよ」
その声がすると目の前にいる人たちの顔色がサッと変わった。
後ろを振り向くと、そこには一人の美女が立っていた。百七十近くありそうな長身で、染めている茶髪は下品にならない程度の色味に抑えてる。パーマをかけているのか、ロングの髪はふわふわとウェーブを描いていてとても柔らかそうだ。
「藤井様・・・」
顔色が悪い人たちのうちの一人がポツリと呟いた。
藤井“様”ってことは、この人もお嬢様か・・・
意思が強そうな猫目、腰に手を当てているのも典型的なお嬢様像だ。
その藤井さんはツカツカとヒールを鳴らし私の横まで歩いてくると、キッと彼女たちを睨みつけた。
「星蘭の恥になるような事をしているって自覚、おあり?事によっては許さなくてよ」
「しかし藤井様!彼女は皇様に・・・!」
リーダー格っぽい子は涙目になりながら訴えているが、藤井さんは目を細めるだけだった。
「それは皇様に頼まれたの?」
「え・・・いえ、そうではないですが・・・」
「では貴女たちが勝手にした事ね。これは皇様に報告させて貰います」
「そんな!」
「勝手に皇家の名を出さないように。いい事?話は終わりよ」
真っ青になった彼女たちはカタカタと震えながら去っていった。
その光景を呆然としながら眺めていた私を藤井さんは心配そうに顔を覗く。
「大丈夫?災難だったわね」
「いえ・・・。あの、ありがとうございました」
ガバリと頭を下げてお礼をした私に藤井さんはクスクスと笑った。
「いいのよ、貴女は被害者だもの。神崎 百合亜さん」
「え、私の名前・・・」
「勿論知ってるわ。貴女有名人なのよ?あの皇様に気に入られている女生徒って」
「そうなんですか・・・」
まさかこんな見ず知らずの人にまで知られているとは。これでは皇くんと接点が無くなっても私の平穏な大学生活は訪れないのかもしれない。
私はガクリと肩を落とした。
「貴女も色々大変ね。また困った事があったらわたくしに言えばいいわ」
にこりと笑う藤井さんはーーとてつもなく美しかった。話し方からしても良いところのお嬢様だろうし、性格も良くて美人とか・・・
こんな人が皇くんには合っているんじゃないだろうか。
「ありがとうございます・・・えっと、お名前を聞いてもいいですか?」
「あら、わたくしとした事が。ごめんなさいね。わたくしは藤井 未央」
「藤井 未央・・・さん」
「未央でいいわ。わたくしも百合亜と呼んでもいいかしら?」
「は、はい!是非!じゃあ未央ちゃんで・・・」
「うふふ、そう呼ばれるのは小等部以来ね。よろしくね、百合亜」
それから未央ちゃんと少し話し込んだ。
未央ちゃんは私が迷惑に思っている事をわかってくれていて、大学には敵しかいないと思っていた私の心に安らぎを与えてくれた。
✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼
「ただいまぁ」
誰もいない自宅に着き、課題をしようと自室へ向かう。
両親は共働きで元々忙しかったけど、最近お父さんが昇進したとかで更に忙しくなった。
お母さんもただの料理教室の先生だったのが、ここ最近は色々な依頼が増えたらしく私が帰る時に家にいる事は滅多にない。
最後に家族三人で夕飯を囲んだのはいつだろうか。
着替え終わりパソコンを開いてレポートを作成する準備をしようとした時、スマホが目に入った。
そういえばお昼からずっとバッグの中に入れっぱなしだったっけ。
念の為確認しておこうかな、なんて思ってスマホのロックを外す。
緑のSNSには新着が二件あった。
一つは小学校からの親友、如月 遥ちゃんだ。
今度の日曜にランチに行く予定でその確認だった。
私は大丈夫だよ、と返事をすぐに返した。
そしてもう一つは例の彼ーー皇 万里くんだった。
《今度の土日、どっちか暇?》
・・・・・・これはどこか遊びに行こうというお誘いの前触れだろうか?
極力関わりたくない私は連絡先交換というミッションは終えたのだからと、嘘をついた。
《どちらも予定があります》
実際には日曜の昼間しか予定は入っていないけど、それを皇くんが知る事はない。
用は済んだとスマホは投げ出し、レポート作成のためパソコンに向き直った。
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