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リチャードの場合

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時は遡り三ヶ月ほど前。

リチャードは王城の庭園にある四阿でぐったりとしていた。
大臣である父親に書類を届けに来たら偶々居合わせた令嬢たちに追い回され、なんとかここまで逃げ延びてきたのだ。

「あ~しんど・・・」

自分の顔と公爵家という地位しか見ていない令嬢たち。
さっさと婚約者を決めろという両親。
あんな上辺しか見ていない令嬢たちからどうやって選べばいいのか。
リチャードは結婚という未来を絶念していた。


令嬢たちが居なくなったであろう時間まで四阿で時間を潰し、そろそろ屋敷へ帰ろうかと重い腰を上げた時ふと男たちの声がした。

「なぁ聞いたか?殿下とサーシャ嬢の話」
「あぁ婚約解消したんだってな」

ーーサーシャ嬢?第一王子の婚約者のあのサーシャ嬢か?

「それだけじゃないんだよ。新しい婚約者はサーシャ嬢の妹のナタリア嬢って話だぜ?」
「はぁ!?妹が姉の婚約者奪ったってことか?」
「詳しいことはわからないが、どうやらサーシャ嬢が身を引いたらしい」

四阿からチラリと顔を出し、話している男たちを確認する。
どうやら王城に出入りする商会の者のようだった。

「まじかよ。サーシャ様まじ天使だな」
「確かにナタリア嬢は美人だが、サーシャ嬢は可愛らしい上に優しいんだよな~俺なら絶対サーシャ嬢だな」
「俺も。あの慈愛に満ちた笑顔、堪んないよな~」
「まぁサーシャ嬢がフリーになったからって俺たちには関係ないんだけどな・・・」
「ほんとだな・・・」

肩を落としながら去っていく男たちの背を見つめながら、リチャードはサーシャのことを考えていた。

侯爵家のサーシャ嬢。
慈善事業に力を入れていてる可憐な令嬢と有名だ。
何度か挨拶だけはしたことがあるが、いつも殿下の斜め後ろに寄り添うように立っていたイメージだ。

妹に殿下を譲ったというのが本当なら、権力や地位に固執するタイプではないのだろう。
そして何より妃教育を終えている。
リチャードの妻となる公爵夫人は、王太子妃ほどではないがやはり聡明である方が望ましい。

ーーいた。理想の女性。

リチャードは急いで父である公爵の執務室へ戻り、サーシャへ婚約を申し込みたいことを伝えた。
最初公爵は驚いたようだったが、相手がサーシャと聞いて納得したのか快く認めてくれた。
すぐさま屋敷へ帰り釣書の用意をさせる。

ーーあのサーシャ嬢に婚約者がいないなどと話が回ったら申し込む者が後を絶たないだろう。
決まってしまう前に早く手を打たないと・・・!

そして顔合わせをしたいと返事がきた時、最悪権力で婚約を結んでしまおうと思っていた。


真面にサーシャの顔を見たのは顔合わせの時が初めてだった。
噂通り可憐だが、芯のある女性だと思った。
だが相手の意見を否定することもない。
話題も豊富なのに話を引き出すのも上手い。
思った以上に楽しい時間を過ごせてしまった。

屋敷に帰ったリチャードはこの先どうやってサーシャに婚約を了承してもらおうかと一人思案していた。

権力にも地位にも興味がない。
あの様子では妹に殿下を譲ったというのも本当のことだろう。
リチャードの顔を褒めてはくれたが、頬を染めるでもなく事実そうだから褒めた、という感じであった。
ということは見た目からという方法も却下だ。

この時リチャードは思った。

ーー今まで俺は顔や地位で判断されたくないと言っておきながら、それがなくなると何も残らないのでは・・・?


✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼


自分には足りないものがたくさんあると理解したリチャードは勉強に力を入れ、将来任される領地にも足を運ぶようになった。また、サーシャを見習って慈善事業に参加することにした。しかし慈善事業とはいっても何から手をつければいいのかさっぱりだった。

そんな時侯爵にバッタリ会った。
公爵の仕事を少しずつ手伝っていたため、その日は王城に来ていたのだ。

「あぁリチャード殿。先日は娘がお世話になりました」
「いえ、こちらこそ楽しい時間を過ごさせてもらいました」

ーーそうだ。侯爵に聞いてみたらどうだろう。

元々慈善事業はサーシャ個人ではなく侯爵家で力を入れているものだ。サーシャより侯爵の方が詳しいだろう。
そしてリチャードは教会のバザーを知った。


✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼


バザーでサーシャと会ったのは本当に偶然だった。
シスターと話す侯爵夫人とサーシャは親しげで、年月の長さを感じさせた。

リチャードがバザーに参加したことを自分ことのように喜び、寄付した品が多いだけなのに「素晴らしい」と感心するサーシャ。


見た目が良くて、勉強ができて、家柄がいいから人気があるわけではないと痛感した。
いや、それもサーシャの魅力の一つだが、サーシャの一番の魅力は人柄なのだと思った。

ーー俺は上辺しか見ない令嬢を嫌がっていたのに、その俺が彼女の上辺しか見ていなかったな。

サーシャに会う度に良い所を見つけてしまうリチャード。
次第にサーシャにも自分を見て欲しいと思ってしまっていた。
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