上 下
2 / 21

理想と現実

しおりを挟む

翌日にはマルセルとサーシャの婚約は白紙へ戻った。恐らく侯爵が陛下を脅・・・説得したのだろう。
後はナタリアとの婚約を結ぶだけだが、陛下がいい顔をしない。
そこで侯爵はマルセルと二人で陛下を説得することにした。

マルセルは如何に自分がナタリアを愛しているかということ、ナタリアの足りない部分は自分が補うと熱く語った。
そんなマルセルに陛下は不承不承ながら折れ、やっとナタリアとの婚約を結んだ。

ナタリアは大層喜び、未来の王妃だからと更に我儘三昧な日々を過ごしている。数日後には王城での生活が始まるのだ。このままではいけないとサーシャはナタリアを窘めた。

「ナタリア、貴女は妃になるのですよ?皆の見本になるよう振る舞いなさい」
「大丈夫よ、おねー様。マルセル様が守って下さるわ。それに私は王妃になるんだから、何も言われる筋合いはないわ!それはおねー様も同じよ!」

フンッと鼻を鳴らし部屋を後にするナタリアの背中をサーシャは淋しそうな瞳で見た。

ーー殿下、頑張って下さいましね。

その淋しそうに見えた瞳はマルセルへの同情の念だった。


✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼


ナタリアが予定通り王城へ上がり一ヶ月程経った頃、マルセルはイライラしながら執務をこなしていた。

「殿下!ナタリア嬢が泣き止みません!一緒に来て頂けませんか?」
「またか!今度は一体何なのだ!」

焦ったように叫ぶその女性はナタリアの教育係の一人だった。聞けばマナーの授業でカップの持ち方がなっていないと掌をペチンと叩いただけで痛い痛いと泣き出したそうだ。
泣きたいのはこっちだとマルセルは頭を抱えた。
この一ヶ月こんなことが毎日なのだ。
一緒に食事をする時もカチャカチャと音を立て、嫌いな材料が入っている品には手をつけず料理人に文句を言う。
おかげで料理は偏り、最近身体の調子があまり良くない気がするのだ。

マルセルは癒されるどころかストレスがどんどん溜まっていた。
しかし自分が言い出した婚約だ。ナタリアを立派な淑女にするほかない。
執務室からナタリアのいる勉強室に向かうと、まだナタリアは泣いていた。しくしくとではない。わんわんとまるで幼い子のように泣いているのだ。
顔はぐちゃぐちゃで鼻水まで垂らしている。
素直で表情がころころと変わるところが可愛いと思っていたマルセルも、さすがに少し引いた。

「ナタリア、何が気に入らないんだい?」

マルセルはそっとナタリアの肩に手を起き、なるべく優しく聞こえるように声をかける。

「気に入らないとかじゃないですわ!・・・ぐすっ。この人・・・暴力を振るうんですもの!」
「暴力と言っても鞭を使われたわけではないだろう?」

ナタリアの教育係は皆マルセルが幼い頃教わっていた者たちばかりだ。鞭を使ったり、汚い言葉などを使うことはないことをマルセルが一番理解している。

「鞭じゃなければ・・・ぐすっ暴力を振るってもいいと言うんですか!?」
「いやそうじゃない。ただナタリアは他の人より少し・・・頑張らねばいけないんだ。王妃になって私を支えてくれるんだろう?」
「うっうっ・・・はい・・・」
「じゃあもう少し頑張って。後で一緒にお茶をしよう」

宥め、なんとか泣き止んだナタリアを勉強室に残し執務室へ戻る最中マルセルは大きなため息を吐いた。

いつも笑顔だったナタリア。偶にしか会えないからこそその一面しか見えていなかった。まさかこんなにも癇癪もちで我儘だったとは・・・

婚約を結んでからまだたったの一ヶ月。
既にマルセルは自分の行動に後悔し始めていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

入学初日の婚約破棄! ~画策してたより早く破棄できたのであの人と甘い学園生活送ります~

紗綺
恋愛
入学式の前に校内を散策していたら不貞行為を目撃した。 性に奔放というか性欲旺盛で色々な店に出入りしていたのは知っていましたが、学園内でそのような行為に及ぶなんて――。  すばらしいです、婚約は破棄ということでよろしいですね? 婚約破棄を画策してはいましたが、こんなに早く済むなんて嬉しいです。 待っていてくれたあの人と学園生活楽しみます!  ◆婚約破棄編 5話  ◆学園生活編 16話  ◆番外編 6話  完結しました! 見てくださった皆様本当にありがとうございます!

【完結】白い結婚なのでさっさとこの家から出ていきます~私の人生本番は離婚から。しっかり稼ぎたいと思います~

Na20
恋愛
ヴァイオレットは十歳の時に両親を事故で亡くしたショックで前世を思い出した。次期マクスター伯爵であったヴァイオレットだが、まだ十歳ということで父の弟である叔父がヴァイオレットが十八歳になるまでの代理として爵位を継ぐことになる。しかし叔父はヴァイオレットが十七歳の時に縁談を取り付け家から追い出してしまう。その縁談の相手は平民の恋人がいる侯爵家の嫡男だった。 「俺はお前を愛することはない!」 初夜にそう宣言した旦那様にヴァイオレットは思った。 (この家も長くはもたないわね) 貴族同士の結婚は簡単には離婚することができない。だけど離婚できる方法はもちろんある。それが三年の白い結婚だ。 ヴァイオレットは結婚初日に白い結婚でさっさと離婚し、この家から出ていくと決めたのだった。 6話と7話の間が抜けてしまいました… 7*として投稿しましたのでよろしければご覧ください!

婚約破棄でみんな幸せ!~嫌われ令嬢の円満婚約解消術~

春野こもも
恋愛
わたくしの名前はエルザ=フォーゲル、16才でございます。 6才の時に初めて顔をあわせた婚約者のレオンハルト殿下に「こんな醜女と結婚するなんて嫌だ! 僕は大きくなったら好きな人と結婚したい!」と言われてしまいました。そんな殿下に憤慨する家族と使用人。 14歳の春、学園に転入してきた男爵令嬢と2人で、人目もはばからず仲良く歩くレオンハルト殿下。再び憤慨するわたくしの愛する家族や使用人の心の安寧のために、エルザは円満な婚約解消を目指します。そのために作成したのは「婚約破棄承諾書」。殿下と男爵令嬢、お二人に愛を育んでいただくためにも、後はレオンハルト殿下の署名さえいただければみんな幸せ婚約破棄が成立します! 前編・後編の全2話です。残酷描写は保険です。 【小説家になろうデイリーランキング1位いただきました――2019/6/17】

選ばれたのは私でした

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉様は、私が王太子妃になるのを横で指を咥えて見てるといいわ」 妹の趣味、姉を虐める事……。 姉アレクシアは、妹エルヴィーラの自尊心を満たす為だけに、侍女として付き添う事に。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 侯爵令嬢のアレクシアには、エルヴィーラという妹がいる。 「お姉様に、私が劣るなんてあり得ない」 妹の口癖だ。 妹は優秀で美しく、姉アレクシアは平凡で普通だと周囲からは言われた。 だが、それには秘密がある。 両親から溺愛される妹より優秀である事は許されいアレクシア。 妹よりも上手くダンスを踊れば、折檻される。妹よりもヴァイオリンを上手く弾けば、折檻された。 アレクシアはその為に、全てにおいて妹より劣って見えるように振る舞ってきた。 そんなある日、この国の王太子の妃を選ぶと伝令が出される。 妹は、王太子妃候補に選ばれ城へと赴く事になったのだが。その前夜アレクシアは、両親から衝撃の話をされる。 「エルヴィーラの侍女として、貴女も城へ行きなさい」 やがて、どうしても王太子妃になりたい妹は自滅して破滅の道を辿り、それに反するように姉アレクシアは、沢山の人望を集めて人々から愛されるようになり……。

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

奪い取るより奪った後のほうが大変だけど、大丈夫なのかしら

キョウキョウ
恋愛
公爵子息のアルフレッドは、侯爵令嬢である私(エヴリーヌ)を呼び出して婚約破棄を言い渡した。 しかも、すぐに私の妹であるドゥニーズを新たな婚約者として迎え入れる。 妹は、私から婚約相手を奪い取った。 いつものように、妹のドゥニーズは姉である私の持っているものを欲しがってのことだろう。 流石に、婚約者まで奪い取ってくるとは予想外たったけれど。 そういう事情があることを、アルフレッドにちゃんと説明したい。 それなのに私の忠告を疑って、聞き流した。 彼は、後悔することになるだろう。 そして妹も、私から婚約者を奪い取った後始末に追われることになる。 2人は、大丈夫なのかしら。

妻と夫と元妻と

キムラましゅろう
恋愛
復縁を迫る元妻との戦いって……それって妻(わたし)の役割では? わたし、アシュリ=スタングレイの夫は王宮魔術師だ。 数多くの魔術師の御多分に漏れず、夫のシグルドも魔術バカの変人である。 しかも二十一歳という若さで既にバツイチの身。 そんな事故物件のような夫にいつの間にか絆され絡めとられて結婚していたわたし。 まぁわたしの方にもそれなりに事情がある。 なので夫がバツイチでもとくに気にする事もなく、わたしの事が好き過ぎる夫とそれなりに穏やかで幸せな生活を営んでいた。 そんな中で、国王肝入りで魔術研究チームが組まれる事になったのだとか。そしてその編成されたチームメイトの中に、夫の別れた元妻がいて……… 相も変わらずご都合主義、ノーリアリティなお話です。 不治の誤字脱字病患者の作品です。 作中に誤字脱字が有ったら「こうかな?」と脳内変換を余儀なくさせられる恐れが多々ある事をご了承下さいませ。 性描写はありませんがそれを連想させるワードが出てくる恐れがありますので、破廉恥がお嫌いな方はご自衛下さい。 小説家になろうさんでも投稿します。

【完結】婚約者の好みにはなれなかったので身を引きます〜私の周囲がそれを許さないようです〜

葉桜鹿乃
恋愛
第二王子のアンドリュー・メルト殿下の婚約者であるリーン・ネルコム侯爵令嬢は、3年間の期間を己に課して努力した。 しかし、アンドリュー殿下の浮気性は直らない。これは、もうだめだ。結婚してもお互い幸せになれない。 婚約破棄を申し入れたところ、「やっとか」という言葉と共にアンドリュー殿下はニヤリと笑った。私からの婚約破棄の申し入れを待っていたらしい。そうすれば、申し入れた方が慰謝料を支払わなければならないからだ。 この先の人生をこの男に捧げるくらいなら安いものだと思ったが、果たしてそれは、周囲が許すはずもなく……? 調子に乗りすぎた婚約者は、どうやら私の周囲には嫌われていたようです。皆さまお手柔らかにお願いします……ね……? ※幾つか同じ感想を頂いていますが、リーンは『話を聞いてすら貰えないので』努力したのであって、リーンが無理に進言をして彼女に手をあげたら(リーンは自分に自信はなくとも実家に力があるのを知っているので)アンドリュー殿下が一発で廃嫡ルートとなります。リーンはそれは避けるべきだと向き合う為に3年間頑張っています。リーンなりの忠誠心ですので、その点ご理解の程よろしくお願いします。 ※HOT1位ありがとうございます!(01/10 21:00) ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも別名義で掲載予定です。

処理中です...