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8.誓いの言葉
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「俺が守るべき人はシェラローズ。──貴女だ」
「えっ……」
どう反応したらいいのか分からず、固まる。
騎士が守るのは心から忠誠を誓った相手のみ。
それは己が今まで磨いてきた剣の全てを捧げるのと、騎士としての人生を捧げるのと一緒で、だからこそ……その誓いを掲げるのは生涯で一度だけ。
大抵の騎士は、王族に向けて剣を捧げる。
でも、アルバート様は……私に騎士の誓いを立てた。
「で、でも……アル様は王族に仕える騎士で……」
今ではこんなに私のことを慕ってくれるアル様だけれど、最初は陛下の命令に従って仕方なく私を護衛していた。
あくまでも彼の主は王族であって、私ではない。
だから、私も彼に対してわがままを言わなかった。
だって、彼は私を護衛しているだけで、私は彼の主ではないのだから。
色々な考えが頭に巡る。
なのに、どうしたらいいのか迷って、いつまでも答えが出せないでいる。
でも、アル様はそんな私の悩みを一瞬で吹き飛ばした。
「騎士なら辞めてきた」
「はい!?」
思わず大声を出してしまった。
それと同時に、肺の中にあった空気も全部出してしまい、ふと我に返って激しく咳き込む。
「だ、大丈夫か!?」
「……だい、ケホッ……じょうぶ、です……ケホッ、あの、説明をお願いしても……?」
──騎士を辞めた。
とても単純だけれど、意味がわからない。
先日のラグーサ殿下の言葉といい勝負か、それ以上に理解が難しい言葉かも……。
「辞めてきた……というのは少し語弊があるかもしれないな。今回のことで騎士長と話し合い、永久休暇という形で城を出てきたのだ。今まで聖女の護衛として十分に働いた報酬としてな。もちろん俺と共にきた部下も一緒だ」
「アル様は、ご自分が何を仰られているのか理解しているのですか……?」
永久休暇と言い直したところで、それは辞職と同じ。
いっときの感情で下していいような選択ではない。
「もちろん。理解しているつもりだ」
なのに、それがなんだとアル様は言う。
「一度は不甲斐ない姿を見せた。だが、今度こそ俺の全てをかけて貴女様を守り抜くと騎士アルバート・グラウスが誓う。……受け取ってくれるか?」
一時の感情や、世迷言で言っている訳ではない。
疑う余地もないほどの、どこまでも真っ直ぐな彼の目を見れば、そんなことは明らかだった。
「ほんとう、に……?」
トクンッ、と胸が鼓動する。
この感情は何だろう……?
とても温かくて、とても甘くて……でも、ほんの少しだけ苦しい。
眠ること以外で、こんなにポカポカしたのは初めてだ。
初めてのことを前にして一歩踏み出すのは……怖い。けれど、それ以上に、彼から貰った言葉が嬉しかった。
「と、カッコつけてみたはいいが、今は永久休暇中の身だ。今の俺は騎士でもなければシェラローズと何の関係も持たない。ここらに無職の腕利きを雇ってくれるところがあれば嬉しいのだが……」
「……ふふっ、今更それを言うのですか?」
……ああ、そっか。
きっと、この感情は──彼が抱いているものと同じなんだ。
そう思っただけで、また胸が高鳴った。
なら、私の答えは────
「もちろんです。ずっと側にいてください」
未来なんて誰にも分からない。
誰もが予想できない事件が起こるかもしれないし、そのせいで忙しい日々が続くかもしれない。嫌なことにだって巻き込まれるかもしれない。
でも、これだけは絶対だと、断言できることが一つだけ。
それは、彼と一緒にいることが私にとっての幸せでもある、ということ。
「ありがとうございます。アル様」
私のために悩んでくれて。
私を守ろうと必死になってくれて。
「お礼を言うのは、俺の方だ」
「では、お互い様ですね」
お互いに笑う。
私も彼も、あまり笑う性格ではないからか、その表情は少しぎこちない。
でも、数え切れないほどに経験した彼との会話の中で、今が最も充実している時間だった。
「行きましょう。お父様が心配しています。……それに、色々とお話ししなければならないことができてしまいました」
「ああ、そうだな」
私たちは歩き出す。
今度こそ、二人で並んで────。
「えっ……」
どう反応したらいいのか分からず、固まる。
騎士が守るのは心から忠誠を誓った相手のみ。
それは己が今まで磨いてきた剣の全てを捧げるのと、騎士としての人生を捧げるのと一緒で、だからこそ……その誓いを掲げるのは生涯で一度だけ。
大抵の騎士は、王族に向けて剣を捧げる。
でも、アルバート様は……私に騎士の誓いを立てた。
「で、でも……アル様は王族に仕える騎士で……」
今ではこんなに私のことを慕ってくれるアル様だけれど、最初は陛下の命令に従って仕方なく私を護衛していた。
あくまでも彼の主は王族であって、私ではない。
だから、私も彼に対してわがままを言わなかった。
だって、彼は私を護衛しているだけで、私は彼の主ではないのだから。
色々な考えが頭に巡る。
なのに、どうしたらいいのか迷って、いつまでも答えが出せないでいる。
でも、アル様はそんな私の悩みを一瞬で吹き飛ばした。
「騎士なら辞めてきた」
「はい!?」
思わず大声を出してしまった。
それと同時に、肺の中にあった空気も全部出してしまい、ふと我に返って激しく咳き込む。
「だ、大丈夫か!?」
「……だい、ケホッ……じょうぶ、です……ケホッ、あの、説明をお願いしても……?」
──騎士を辞めた。
とても単純だけれど、意味がわからない。
先日のラグーサ殿下の言葉といい勝負か、それ以上に理解が難しい言葉かも……。
「辞めてきた……というのは少し語弊があるかもしれないな。今回のことで騎士長と話し合い、永久休暇という形で城を出てきたのだ。今まで聖女の護衛として十分に働いた報酬としてな。もちろん俺と共にきた部下も一緒だ」
「アル様は、ご自分が何を仰られているのか理解しているのですか……?」
永久休暇と言い直したところで、それは辞職と同じ。
いっときの感情で下していいような選択ではない。
「もちろん。理解しているつもりだ」
なのに、それがなんだとアル様は言う。
「一度は不甲斐ない姿を見せた。だが、今度こそ俺の全てをかけて貴女様を守り抜くと騎士アルバート・グラウスが誓う。……受け取ってくれるか?」
一時の感情や、世迷言で言っている訳ではない。
疑う余地もないほどの、どこまでも真っ直ぐな彼の目を見れば、そんなことは明らかだった。
「ほんとう、に……?」
トクンッ、と胸が鼓動する。
この感情は何だろう……?
とても温かくて、とても甘くて……でも、ほんの少しだけ苦しい。
眠ること以外で、こんなにポカポカしたのは初めてだ。
初めてのことを前にして一歩踏み出すのは……怖い。けれど、それ以上に、彼から貰った言葉が嬉しかった。
「と、カッコつけてみたはいいが、今は永久休暇中の身だ。今の俺は騎士でもなければシェラローズと何の関係も持たない。ここらに無職の腕利きを雇ってくれるところがあれば嬉しいのだが……」
「……ふふっ、今更それを言うのですか?」
……ああ、そっか。
きっと、この感情は──彼が抱いているものと同じなんだ。
そう思っただけで、また胸が高鳴った。
なら、私の答えは────
「もちろんです。ずっと側にいてください」
未来なんて誰にも分からない。
誰もが予想できない事件が起こるかもしれないし、そのせいで忙しい日々が続くかもしれない。嫌なことにだって巻き込まれるかもしれない。
でも、これだけは絶対だと、断言できることが一つだけ。
それは、彼と一緒にいることが私にとっての幸せでもある、ということ。
「ありがとうございます。アル様」
私のために悩んでくれて。
私を守ろうと必死になってくれて。
「お礼を言うのは、俺の方だ」
「では、お互い様ですね」
お互いに笑う。
私も彼も、あまり笑う性格ではないからか、その表情は少しぎこちない。
でも、数え切れないほどに経験した彼との会話の中で、今が最も充実している時間だった。
「行きましょう。お父様が心配しています。……それに、色々とお話ししなければならないことができてしまいました」
「ああ、そうだな」
私たちは歩き出す。
今度こそ、二人で並んで────。
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