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6.騎士がやってきました
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…………騒がしい。
屋敷の外から聞こえてくる音で、私は目を覚ます。
「ふざけるなっ!」
とても怒っているような声。
……お父様のものだ。
「出ていけ。そして二度とその顔を見せるな! 今度会ったら、揃いも揃った貴様らの顔を八つ裂きにしてやるからな!」
途中からしか聞いてなかったけれど、どうやら私のことで怒ってくれているらしい。
来訪者は……考えうるとすれば、王族の関係者? 二日前のことで謝罪しに来たところを、お父様が立ちはだかったのだろう。
でも、一体誰が……?
ラグーサ殿下の様子だと、第一王子派の人達が謝罪するつもりは微塵もないだろうし、それ以外の人も殿下の命令で私と会うことを禁止されているはず。
命令に背けば職を辞することになり、私と同じように、お城を追い出されてしまう。
そのような危険があるのに、それを理解しても尚、私に会いに来た人って?
気になったので彼らの様子を見ようと、お布団を被りながら窓際まで移動する。
背が小さい私用にと設置された踏み台に乗って、ひょこっと顔を覗かせると、屋敷の門のところに人集りを発見した。
「あれは、騎士団の方々……?」
見間違えるはずもない。
お父様の圧に負けじと抵抗している彼らは、王族に仕える騎士だった。
その先頭に立って、どうにかお父様に許可を頂けないかと説得しているのは────。
「っ、行かなきゃ!」
布団の代わりに大きめの上着を一枚羽織り、まだ寝ぼけている体を必死に動かして玄関先へ。
そのまま外に飛び出し、門へと向かう。
たどり着いた時には、もう我慢ならないと言った様子でお父様が剣を抜いていた。
昔は相当やんちゃしていたと噂のお父様。
頭に血が上るのはいつものことだとしても、激怒した時のお父様は暴走に暴走を重ねてしまい、止めるのに苦労する。そんな光景を何度も見てきた。
だから、また変なことをする前に止めなきゃ、と急いで駆けつけたのに……遅かったみたい。
「おとう、さま……!」
「私の邪魔をする、なっ──シェラローズ!? なぜここに!?」
「シェラローズ様! ご無事で……!」
「ええい! 貴様ごときが娘の名前を気安く呼ぶな! しかも、よりによって『ご無事で』だと!? 娘を守る気すらなかった貴様らが今更、娘を心配するな……!」
咄嗟に飛び出した騎士──アルバート様の言葉に、お父様は再び激昂した。
「バートンからの報告によれば、娘がこの屋敷に戻ってきた時、近くには誰もいなかったらしいな。そんな奴らがよくも娘の無事を祈れるものだ!
今まで魔物の脅威から貴様らを守ってくれていた貴き聖女を、恥知らずにも追放した貴様らが!? ──ハッ! 何が騎士だ。王族の命令に従うことにしか脳がない傀儡風情が、誇り高き騎士を名乗るなど、聞いて呆れる!」
「それはっ……く、その、通りだ。反論の余地も、ない……」
一瞬、反論しようと口を開きかけたアルバート様だったけれど、言い返す言葉が見つからなかったのか悔しそうに歯を食いしばり、顔を俯ける。
「思いがどうであれ、我々は彼女を見捨てた……それに、間違いはない。……真に彼女を心配していたなら、あれこれ考えず、すぐに手を差し伸べるべきだった」
「……ふんっ! 後悔しても遅いわ。娘はそのことで酷く傷ついた。貴様らがどのような態度で向かってこようとも、二度と娘を差し出すつもりはない!」
私を案じてくれるお父様の気持ちは、とても嬉しい。
でも、
「お父様。彼らとお話をさせていただけますか?」
「──なんだと!? だ、だが、この者達はお前を……」
「ええ、私は一度、城からの追放を言い渡されました。それは事実です」
私の言葉に、騎士達からは苦悶の声が漏れ出た。
「しかし、彼らは危険を犯してまで私に会いに来てくれました。……その気持ちを無下に扱いたくありません」
「…………シェラローズ」
「心配してくださって、ありがとうございます。ですが、私はもう……大丈夫です」
でも、と言葉を続ける。
「でも、それでも……やっぱり辛かった時は、また……お父様達の前で泣いてもいいですか?」
「っ、ああ、ああ勿論だ! 私達は『家族』なのだから、遠慮せずいつでも胸に飛び込んできなさい。毎日だって歓迎しよう!」
「毎日は流石に恥ずかしいです。……でも、ありがとうございます」
お父様の許可も出て、私はようやく、騎士団の皆さまと顔を合わせた。
「二日ぶり、ですね……アル様。……まさか、こんなに早く再会できるなんて思っていませんでした」
「ああ、元気そうで何より、と言える立場ではないが、最悪の事態になっていないようで、心から安心した。本当に……」
騎士の先頭に立つ彼は、心から安堵したような表情を浮かべた。
しかし、それはすぐに、見ているこっちまで緊張するほどの誠実な顔に切り替わる。
「シェラローズ様。この度は──」
「立ち話をするのも大変なので、まずは庭園に行きませんか? 久しぶりに私が帰ってきたから、庭師がとても綺麗な園芸をしてくれたみたいなんです。そこでゆっくり……お話ししましょう」
「…………ああ。シェラローズ様の仰せの通りに」
屋敷の外から聞こえてくる音で、私は目を覚ます。
「ふざけるなっ!」
とても怒っているような声。
……お父様のものだ。
「出ていけ。そして二度とその顔を見せるな! 今度会ったら、揃いも揃った貴様らの顔を八つ裂きにしてやるからな!」
途中からしか聞いてなかったけれど、どうやら私のことで怒ってくれているらしい。
来訪者は……考えうるとすれば、王族の関係者? 二日前のことで謝罪しに来たところを、お父様が立ちはだかったのだろう。
でも、一体誰が……?
ラグーサ殿下の様子だと、第一王子派の人達が謝罪するつもりは微塵もないだろうし、それ以外の人も殿下の命令で私と会うことを禁止されているはず。
命令に背けば職を辞することになり、私と同じように、お城を追い出されてしまう。
そのような危険があるのに、それを理解しても尚、私に会いに来た人って?
気になったので彼らの様子を見ようと、お布団を被りながら窓際まで移動する。
背が小さい私用にと設置された踏み台に乗って、ひょこっと顔を覗かせると、屋敷の門のところに人集りを発見した。
「あれは、騎士団の方々……?」
見間違えるはずもない。
お父様の圧に負けじと抵抗している彼らは、王族に仕える騎士だった。
その先頭に立って、どうにかお父様に許可を頂けないかと説得しているのは────。
「っ、行かなきゃ!」
布団の代わりに大きめの上着を一枚羽織り、まだ寝ぼけている体を必死に動かして玄関先へ。
そのまま外に飛び出し、門へと向かう。
たどり着いた時には、もう我慢ならないと言った様子でお父様が剣を抜いていた。
昔は相当やんちゃしていたと噂のお父様。
頭に血が上るのはいつものことだとしても、激怒した時のお父様は暴走に暴走を重ねてしまい、止めるのに苦労する。そんな光景を何度も見てきた。
だから、また変なことをする前に止めなきゃ、と急いで駆けつけたのに……遅かったみたい。
「おとう、さま……!」
「私の邪魔をする、なっ──シェラローズ!? なぜここに!?」
「シェラローズ様! ご無事で……!」
「ええい! 貴様ごときが娘の名前を気安く呼ぶな! しかも、よりによって『ご無事で』だと!? 娘を守る気すらなかった貴様らが今更、娘を心配するな……!」
咄嗟に飛び出した騎士──アルバート様の言葉に、お父様は再び激昂した。
「バートンからの報告によれば、娘がこの屋敷に戻ってきた時、近くには誰もいなかったらしいな。そんな奴らがよくも娘の無事を祈れるものだ!
今まで魔物の脅威から貴様らを守ってくれていた貴き聖女を、恥知らずにも追放した貴様らが!? ──ハッ! 何が騎士だ。王族の命令に従うことにしか脳がない傀儡風情が、誇り高き騎士を名乗るなど、聞いて呆れる!」
「それはっ……く、その、通りだ。反論の余地も、ない……」
一瞬、反論しようと口を開きかけたアルバート様だったけれど、言い返す言葉が見つからなかったのか悔しそうに歯を食いしばり、顔を俯ける。
「思いがどうであれ、我々は彼女を見捨てた……それに、間違いはない。……真に彼女を心配していたなら、あれこれ考えず、すぐに手を差し伸べるべきだった」
「……ふんっ! 後悔しても遅いわ。娘はそのことで酷く傷ついた。貴様らがどのような態度で向かってこようとも、二度と娘を差し出すつもりはない!」
私を案じてくれるお父様の気持ちは、とても嬉しい。
でも、
「お父様。彼らとお話をさせていただけますか?」
「──なんだと!? だ、だが、この者達はお前を……」
「ええ、私は一度、城からの追放を言い渡されました。それは事実です」
私の言葉に、騎士達からは苦悶の声が漏れ出た。
「しかし、彼らは危険を犯してまで私に会いに来てくれました。……その気持ちを無下に扱いたくありません」
「…………シェラローズ」
「心配してくださって、ありがとうございます。ですが、私はもう……大丈夫です」
でも、と言葉を続ける。
「でも、それでも……やっぱり辛かった時は、また……お父様達の前で泣いてもいいですか?」
「っ、ああ、ああ勿論だ! 私達は『家族』なのだから、遠慮せずいつでも胸に飛び込んできなさい。毎日だって歓迎しよう!」
「毎日は流石に恥ずかしいです。……でも、ありがとうございます」
お父様の許可も出て、私はようやく、騎士団の皆さまと顔を合わせた。
「二日ぶり、ですね……アル様。……まさか、こんなに早く再会できるなんて思っていませんでした」
「ああ、元気そうで何より、と言える立場ではないが、最悪の事態になっていないようで、心から安心した。本当に……」
騎士の先頭に立つ彼は、心から安堵したような表情を浮かべた。
しかし、それはすぐに、見ているこっちまで緊張するほどの誠実な顔に切り替わる。
「シェラローズ様。この度は──」
「立ち話をするのも大変なので、まずは庭園に行きませんか? 久しぶりに私が帰ってきたから、庭師がとても綺麗な園芸をしてくれたみたいなんです。そこでゆっくり……お話ししましょう」
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