上 下
1 / 48

プロローグ 下界に落ちました

しおりを挟む
 何もない空間に、光が生まれた。
 それは次第に大きさを増し、やがて一つの世界が形となった。

 その世界の名は『ガイア』という。

 その世界には大地が創られ、自然が溢れ出し、水が湧き、やがて生命体が誕生した。

 その生命体は様々な形をしていた。
 世界を創り上げた『創造神』ララティエルは、その生命体を『原初の民』と名付け、とある神託を授けた。

【錬金術を語り継ぎなさい。さすればこの世界は、永久に発展し続けるでしょう】

 原初の民は創造神に跪き、それぞれが世界の繁栄のために動き始める。

 生命の母から授かった『錬金術』を研究した。

 人の国を作った。

 錬金術を広めるためにララティエルが創った種族『魔族』と共に、原初の民『人間族』は繁栄を成し遂げた。
 それを天界から見届けたララティエルは、世界を創り出した疲れを癒すため、深く長い眠いについたのだった。

 それから──数千年の時が経った。



          ◆◇◆



 ──ドガァーーーーーンッ!

「いっっっだぁあああああ!?!?!?」

 突然、後頭部を襲った激しい痛み。
 それまで気持ち良く眠っていた私は、断末魔の叫びを上げて地面をのたうち回った。

「ふぐぉおお……いてぇ……めっっちゃいてぇええええええ」

 こんなに痛みを感じたのは、何年ぶりだろう。

 というか、なんで痛みを感じているんだろう?

「ここ……どこぉ?」

 知らない風景だ。
 私が住んでいた『天界』とは全然違う、不気味な森。こんな場所、基本真っ白な天界にはなかった。

「ってことは、ここは天界じゃないの?」

 少し集中してみる。


 ……。

 …………。

 ………………。


 感じない。

 あんなに沢山いた神々も、いつも天界を飛んでいた天使も、彼らの聖なる気を一切感じられなかった。
 逆に、何か淀んだ空気を肌に感じる。

「ああ、わかった……」

 とある可能性を察した私は、力なくその場に崩れ落ちる。

「ここ『下界』だ」

 人族や魔族、亜人族などが住む下の世界。それが下界。

「ふ、ふふ……」

 思わず、私の口からは笑い声が漏れた。

「ふふっ、ふははっ……あっはははは!」

 ──はぁ。

「なんでだーーーーーーー!!」

 私の絶叫が、その森に木霊した。



          ◆◇◆



 こんにちは、私はララティエル。この世界『ガイア』を創った創造神にして、最高神です。

 そんな私は今、人間たちが住む下界に来ています。……来ていますは、ちょっとおかしいですね。気が付いたら下界にいました。私の周りにクレーターが出来ていることから、どうやら私は天界から下界に落ちたのだと予想します。

 ……………………。

 やっちまったーーーーーー!

 私は地面に蹲る。
 ほんと、アホなことした自分を呪う。

 ──世界を創った後、疲れた私は人間たちにお告げをしてから、何千年という長い期間をずっと眠って過ごしていた。

 その間、この世界がどうなったのか知らない。
 だって見ていないんだもん。でも、ある程度の予想は出来る。

「きっと、錬金術のおかげで世界は栄えているんだろうなぁ……」

 錬金術は、卑金属を金属に精錬しようとしたことが根源となる。
 それからは金属に限らない様々な物質、挙句には人の体や魂さえも造り変え、錬成しようとしたところから、錬金術の歴史は始まった。

 一つの世界で錬金術は『化学』として発展し続けた。
 それは様々な化学薬品を作り出し、人々の病を治す万能薬となった。

 また別の世界では『核兵器』として姿を変えていた。
 それは大地を砕き、世界を焼き、人々は核兵器を制御出来ずに──滅びを辿った。

 色々な世界で錬金術は、善にも悪にも変化し、多種多様な活躍をした。

 それを見ていた私は、ふと思った。

 ──錬金術は一体どれほどの可能性を秘めているのだろう? と。

 それから私は、様々な世界の錬金術を調べ上げ、研究した。
 人が沼にはまるように、私は錬金術という沼にどっぷりと浸かっていった。

 そして全てを創り出す神となり、実際に私は『ガイア』という世界を創り出すことに成功した。


【錬金術を語り継ぎなさい。さすればこの世界は、永久に発展し続けるでしょう】


 それが私が最初に与えたお告げだ。
 原初の民はそれを忠実に守り、次の世代にも受け継がれていることだろう。

「賢者の石くらいは造れるようになったかな?」

 賢者の石の錬成は、錬金術師たちの悲願にして最終到達点。
 真に極めた者にしか造ることが許されない、錬金術の極意のようなもの。

 それこそ神の御業とも呼べるものだ。
 賢者の石は、限界を超えた力を引き出す結晶のことを言う。

 人はそれによって、新たな未来を切り開くことが出来る。

 人の進化。
 世界の発展。
 全てを解決しうる力が、その結晶に込められている。

 もしそれが完成しているならば、神に届くことも不可能ではないだろう。

 けれど、まだ天界でそんな話は聞かない。
 ということは、まだ賢者の石は人の手によって再現されていないのだろう。

「せめて、ホムンクルス程度は造れるようになっていればいいんだけど……」

 人体及び魂の錬成。
 それを可能としていれば、及第点だ。

 ……まぁ、人々が発展する上で必要不可欠な種族『魔族』も与えたのだから、その程度は出来ているに決まっている。出来ていてほしい。

 魔族は、普通の人が保持する魂を、通常の何倍も強化させた種族のことだ。

 ホムンクルスを造り出すためには、その者の魂の質が良くなければならない。
 基礎となる者の魂が弱いのなら、体組織が世界の圧力に耐えられず、崩壊する。

 話はホムンクルスだけではない。

 錬金術を極めるとなると、魂の質が必ず関係してくる。
 そのため、魂の質が良い魔族の存在が必要不可欠なんだ。

 ──っと、錬金術の説明が長くなっちゃった。

 この話は一旦置いておこう。

 世界がどうなっているのかは気になる。

 でもその前に、私は天界に帰らなければならない。
 この世界を創って何年経っているのか、人々が錬金術とどう接しているのか。
 それは天界に帰ればすぐにわかることだ。わざわざ下界を出歩って見る必要はない。

「そう、なんだけど……」

 どれだけ待っていても、天界から迎えが来る気配がない。

「い、いやいや……! 流石にね、まだ気付いていないだけでしょ!」

 私はずっと寝ていた。

 最初の方は、私の部下とかが様子を見に来ていたけど、途中から面倒になったのか誰も訪ねて来なくなった。
 それはそれで静かに眠れるので、私はありがたいと思っていた。

 だから、まだ私が下界に落ちたことは知られていないんだ。

 そう思って、ちょっと待ってみることにした。

 一時間が経過した。
 まだ誰も来ない。

 二時間が経過した。
 ……まだ、誰も来ない。

 三時間が、経過した。
 外が暗くなってきた。

 半日が経過した。
 上を見上げると、空は真っ暗だった。

 私は神なので、暗闇だろうと問題なく周囲を見渡せる。
 なので、もう少し待ってみることにした。

 寝ていたら空が明るくなっていた。

 迎えは────。

 ……。

 …………。

 ……………………ぷっつん。

「何で、誰も、来ないんじゃーーーー!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

魔力吸収体質が厄介すぎて追放されたけど、創造スキルに進化したので、もふもふライフを送ることにしました

うみ
ファンタジー
魔力吸収能力を持つリヒトは、魔力が枯渇して「魔法が使えなくなる」という理由で街はずれでひっそりと暮らしていた。 そんな折、どす黒い魔力である魔素溢れる魔境が拡大してきていたため、領主から魔境へ向かえと追い出されてしまう。 魔境の入り口に差し掛かった時、全ての魔素が主人公に向けて流れ込み、魔力吸収能力がオーバーフローし覚醒する。 その結果、リヒトは有り余る魔力を使って妄想を形にする力「創造スキル」を手に入れたのだった。 魔素の無くなった魔境は元の大自然に戻り、街に戻れない彼はここでノンビリ生きていく決意をする。 手に入れた力で高さ333メートルもある建物を作りご満悦の彼の元へ、邪神と名乗る白猫にのった小動物や、獣人の少女が訪れ、更には豊富な食糧を嗅ぎつけたゴブリンの大軍が迫って来て……。 いつしかリヒトは魔物たちから魔王と呼ばるようになる。それに伴い、333メートルの建物は魔王城として畏怖されるようになっていく。

処理中です...