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第3章

結婚式です

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「娘達の晴れ姿を楽しみに待っているよ」

 お義父さまはそう言い、部屋を出て行きました。



「──では、失礼します」

 使用人の方々は早速動き出しました。
 私の周りを囲み、簡単な化粧をした後、ウェディングドレスを手際よく着させてくれます。

 気分は着せ替え人形です。

 準備はあっという間に終わりました。
 ぼーっとしている間に全てを終わらせてしまうのですから、流石はプロだなぁと他人事のように思ってしまいました。

「……………………」

 衣装を纏い、鏡の前に立ちます。
 自分のことながら、凄く綺麗ですね。

 まさか、本当にこれを着られる時が来るなんて……夢にも思いませんでした。

 恋愛の『れ』の字も無いまま命を落とし、この世界に馴染んだ頃には普通の恋すらも諦めていました。
 アカネさんとの婚約が決まった時も、私は男装でとのことだったので、もうウェディングドレスは一生お目にかかれないんだろうなぁ……と何処かで思っていました。

 意外と思われるかもしれませんが、ウェディングドレスには憧れがありました。

 私だって女の子なんです。
 だから、こうして着られたことを、本当に嬉しく思います。

「とてもお綺麗です。……本当に、お美しい」

「ありがとうございます。皆さんのおかげですよ」

 使用人たちは感嘆の息を漏らしていました。
 中には頬を赤く染め、熱のある目線でこちらを見つめる人もいます。

 …………なぜか、この世界に来てから同性に好かれる機会が増えましたね。

 好かれるのは嬉しいのですが、私にはウンディーネとアカネさんがいます。
 これ以上は愛する二人を心配させてしまうので、彼女の視線は気づかなかったことにしましょう。

「それでは、そろそろお時間です。リフィ様、こちらへ…………リフィ様?」

 扉が開かれ、私を誘導するように使用人が並びます。
 …………もう、本番ですか。

「ええ、行きましょう」

 私は歩き始め、「その前に」と使用人に振り向きます。

「一つ、訂正をお願いします」

 ──私は『リフィ』ではありません。

 もうその名は必要無くなりました。
 だから私は、改めて名乗ります。

「私はリーフィア。
 リーフィア・ウィンドです」



          ◆◇◆



 煌びやかな会場、着飾った参列者。
 参加者はアカネさんのご家族と、ミリアさんのみ。騒がしいのは好きじゃありません。大切なのは私達が結ばれること。両者で話し合ってこれを決めました。

 私は一足先に、会場へ入ります。
 ミリアさんは私の姿に少し驚いた様子でしたが、すぐ笑顔になって拍手を贈ってくれました。

 残すところは、花嫁のみ。
 アカネさんの準備が整うまで、今か今かとその時を待ち望みます。

 そわそわし過ぎたのでしょう。ミリアさんには笑われてしまいましたが、いつにも増して全身を強張らせて、当人たちよりも緊張している魔王にだけは笑われたくないです。


『──花嫁の登場です』


 会場の扉が開かれ、お義父さまと並んだアカネさんが入ってきました。

 アカネさんの花嫁衣装は和服でした。
 白と赤を基調とした麗しいその姿は、彼女のことを見慣れている私でも思わず感嘆の息を漏らしてしまうほどに綺麗でした。

 本音を言えば、彼女のウェディングドレス姿も見てみたかったのですが……やはりアカネさんには和服が似合いますね。

 もうすでに彼女の虜になっている私ですが、今日の晴れ姿を見たせいで余計にのめりこんでしまいそうです。

 ……冗談ではありませんよ。
 本気でそう思ったから、今すぐに彼女を抱きしめたくなりました。



「──っ!」

 あ、驚いていますね。

 お義父さまったら、最後の最後までアカネさんに何も言わなかったんですね。
 私に全てを打ち明けた時は楽しそうにしていましたが、アカネさんから今まで隠し事をされていたことへの仕返しなのでしょうか。彼の厳格な態度の裏には、してやったりと言いたげな含みのある笑みが見え隠れしていました。

 アカネさんは一瞬立ち止まりましたが、即座に気持ちを切り替え、ゆっくりと私の元へ歩いてきました。

 お互い触れ合える距離になったところで、私は口を開きます。

「アカネ、綺麗ですよ」

 変に着飾った言葉を並べるのは苦手です。
 アカネさんは私の気持ちを察してくれたのか、苦笑していました。

「リーフィアに言われたくない。お主の方が、ずっと素敵じゃよ。……本当に驚いた。父上め……意味深な言葉を呟いていると思ったら、そういうことだったのじゃな」

「……あはは……まぁ、そういうことです。彼らは私のために用意してくれました。どうか怒らないでくださいね?」

「…………勿論じゃよ。リーフィアの顔を見ればわかる。秘密にしていたのはお互い様……じゃが、多少の小言くらいは言わせてほしいな。一瞬、夢を見ているのかと思った」

 その様子を見ていれば、相当驚いているなと分かりました。
「ほどほどにお願いします」と笑いつつ、私たちは正面を向きました。

 もっとアカネさんのことを見つめていたいところですが、そろそろ式を続けなければいけません。

 告げられる聖句。
 互いの誓いの言葉を交わし、私たちは再び向き合います。

「誓いの口付けを」

 その言葉に従い、アカネさんの唇に──────



『ちょぉっと待ったぁああああああああああ!!!!!!!』

 静寂に包まれた会場に、そのような叫び声が響き渡りました。

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