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第3章
ようやく、ですね
しおりを挟む事件から一週間が経ちました。
ようやく復興も落ち着き、人々は少しずつ日常へと戻りつつあります。
そんな平和が戻ってきた日のこと。
私の周りではお世話役の方々が忙しなく動き回っていました。
朝からずっとこれが続いています。周りでああだこうだと騒がれては、流石の私も落ち着いて眠れることは叶わず、仕方がないので使用人の中心にいるアカネさんのことをボーッと眺めます。
「アカネ様。来賓の件でご相談が」
「それは問題ない。そのまま予定通りに進めてくれ」
「アカネ様。こちらの人手が足りず、準備が滞っています」
「あと数分で仕事が終わる班があるはずじゃ。そちらに言伝を出しておく」
「アカネ様」
「アカネ様」
「アカネ様」
揃いも揃って、皆がアカネさんに相談をしに来ます。
そのせいで今日は彼女とお話しできていません。……しかし、これは仕方のないことなのです。彼女たちは今、目の前にあるイベントを成功させるために一致団結をしているのですから。
失敗が許されない、人生で一度だけのイベントです。
時計を確認します。
そろそろ昼に差し掛かろうとしている頃。私は立ち上がり、アカネの元へ歩きます。
「アカネ」
「ん、ああリフィか。どうした?」
「そろそろ時間です。残りの準備は使用人の方に任せて、貴女も準備をしてください」
「……む。もうそのような時間だったか。ではお前たち。すまないが妾も準備に取り掛かる故、後のことは頼んだぞ」
「「「「「はい! 行ってらっしゃいませ!」」」」」
皆は笑顔でアカネさんを送り出しました。
……本当に、慕われていますね。
「待たせたな、リフィ」
「いいえ、私たちのためなのです。気にしていませんよ。むしろ、お力になれず申し訳ないと思っていたところです。ありがとうございます」
「良いのじゃ。妾がそうしたいから、やっているだけのこと。それでリフィも喜んでくれるのであれば、尚更嬉しいな」
──嬉しいに決まっているでしょう。
嫁が私を喜ばそうと随分前から頑張ってきたことなのです。その気持ちだけでも十分嬉しいです。人目がなければ今すぐにでも抱きしめていたところです。
いや、もうすでに何度かやってしまっているので、もう手遅れでしょうか?
だったらもう我慢しなくても良いかなと思ってしまいますが、アカネさんからは「恥ずかしいからやめろ」と釘を刺されていますからね。この感情は、二人きりになった時に発散するとしましょう。
「リフィ? どうした?」
「……いえ。楽しみだなと思いまして」
「妾も同じ気持ちじゃよ。心から待ち遠しかった。間も無く妾たちは正式に……」
今日、私たちは重要な式典を行うことになっています。
私とアカネさんの────結婚式です。
民が混乱している時に行うのは不可能と判断し、仕方なく予定を延期していましたが……ようやく復興も落ち着いた今、こうして結婚式を開くことができるようになったのです。
「アカネの花嫁姿。楽しみですね」
「うむ。期待していてくれ。……今日のために己を磨いてきたからな。他の者に目移りしないほど、綺麗に着飾ってやろう」
「……もう、なっていますよ」
「ん? なんじゃ、何か言ったか?」
「…………いいえ。何でもありませんよ」
アカネさんはもうすでに私の大切な方の一人です。
ウンディーネは勿論、アカネさんも決して離しはしません。
本音を言えば結婚式をせずとも私は彼女のことを『嫁』だと認識していますが、それではアカネさんのご両親が納得してくれないでしょう。
でもまぁ、法律の上で正式に婚姻を結ぶのも悪くありません。
口先だけの婚姻よりは、遥かにマシなのでしょう。
それに、アカネさんは結婚式を行うことを誰よりも楽しみにしていました。
表には出していませんが、彼女は純情な乙女なのです。そういうところがまた可愛くて、つい彼女の望む通りに動いてあげたくなっちゃいます。
と、二人で並びながら歩いているうちに目的地の式場へと到着してしまいました。
「ここで、一旦お別れだな」
「ええ、またすぐにお会いしましょう。……アカネ」
抱き寄せ、しばしの別れを惜しみます。
この間にアカネさんの感触を楽しみ、頬にキスを────
「次に会う時は花嫁衣装で、ね?」
そう囁き、体を離します。
アカネさんは何も言えずに立ち尽くし、顔を赤くして俯いていました。
ほら、そういうところが可愛いんですよ。
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