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第3章

企み

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「なんで、どうしてだ!?」

 ボクは叫ぶ。

 もう少しで計画は成功するところだった。
 どんなに足掻いたところで、あの女は何かを犠牲にしなければならない。プライドの高い女の鼻っ柱をへし折るチャンスだったのに……!


「神、かみ……かみぃぃぃ!!!」

 またしても、お前らはボクのことを邪魔するのか!
 お前らもあの女に味方をするのか!

「どこまでボクの邪魔をすれば気が済むんだ! どこまで、ボクを馬鹿にすれば気が済むんだ!」

 お前らさえいなければ!
 あの女さえいなければ!

 ボクは、この世界の主になれていたのに……!



 ──無様だな。



「っ、だれだ!」

 何もかもが『存在しない』空間に、聞こえるはずのない声が聞こえた。

 ──そう驚くな、小僧。

 侵入者だ。
 ボクが作った、ボクだけが存在できる空間に入り込んだ侵入者だ。

 それが出来るのは、ボクと同じか、それ以上の存在だけ。

 つまり────

「お前、さっきの神だな!? お前が邪魔したせいで、ボクの計画は台無しだ!」

 空気が揺れる。
 それは、声の主が笑っているように感じられた。

 ──貴様の目論見を、我らが見過ごすと思うか?

 内心、舌打ちをする。
 ボクの計画は、もうすでにお見通しってわけか。

 だからって焦ることはない。

 なぜなら、あいつらは手を出せないはずだから。
 むしろ、ボクの計画を邪魔した神の方が追い込まれているはずだ。

「ハッ! 狡猾なお前ららしい。だが、神が下界の人間に干渉するのは禁じられているはずだ! こんなことをして、タダで済むと思っているのかい!」

 ──それはこっちの台詞だ。

 ブワッ、と全身の毛が逆立つような感覚。
 首を締め付けられているように、上手く息が出来ない。手が震える。ボクが恐怖? そんなもの感じるはずがない。…………でも、これは一体。


 ──よくもやってくれたなぁ、貴様。
 ──面倒だからと放置していたが、もう好き勝手にはさせぬ。


「お、脅しのつもりかい? ボクを許さないと言っているけれど、そっちはもう何も手出しは出来ないはずだ。ボクの計画を邪魔するなんて、無理だろう?」

 さっきも言ったように、神は下界の者との関わりを禁止されている。

 今回はその制約に違反していると言っていい。
 あの女を助けるために、あの神は馬鹿なことをしたんだ。

 もう二度と下界に降りるどころか、近いうちに他との連絡手段を剥奪されるだろう。

 あの女にそれだけの価値はないはずだ。
 あれのために神であることを放棄するなんて考えられない。

 だから、馬鹿な神だとボクは罵る。


 ──何を勘違いしているのか知らんが、わしにペナルティーは無いぞ。


「……………………は?」

 ありえない。
 それは、絶対にありえないはずだ。

 あの頭の固い連中が、あの女を助けるためだけに例外を許すだって?


 ──貴様を止めるためだ。
 ──そのために彼女をこの世界に送り込んだ。
 ──もう二度と、貴様の好き勝手にさせないために。


「は、ははっ……あの女に、ボクの計画を止めるだけの力があるとでも?」

 確かに、あの女は強い。
 今までボクの邪魔をしてきた連中とは比べものにならないほどに、強い力を宿している。

 でも、それによってボクの計画が無駄になるかと言われたら……話は別だ。

 一度会ってみて、確信した。
 あの女に、ボクを止める力はない。

 今回は、以前に邪魔された腹いせにちょっかいを掛けたけれど、本当は無視しても構わない小さな存在だった。殺そうと思えば簡単に殺せる。……ただ、それをするのが面倒だっただけだ。


 ──そうだな、今のあやつにはちと厳しいかもしれぬ。

「『今の』、ねぇ……その言い方だと、いつかはボクを止められると言いたげだね?」

 ──その認識で間違いないだろうな。

 さも当然のように肯定されて、ボクは少しムッと表情を顰める。

 ──そう怒るな、小僧。
 ──貴様が何をしたところで無駄だ。
 ──いつか必ず、我らの希望が目を覚ます。

「希望? 何を言っているんだ?」

 ──我らは希望を欲している。
 ──それが自覚を得た時が、貴様の最後となるだろう。

「ふざけるな! ボクが負けるはずがない。次こそはお前らをその高みから引き摺り落としてやる! 必ずだ!」


 ──では、その時を楽しみにしていよう。


 ああ、そうしてくれ。
 どうかその余裕のまま、後悔して堕ちろ。

 あの時のように。


 ──さらばだ。

 その言葉を最後に、見えない気配は霧散した。
 同じくボクを縛っていた空気も嘘のように消え去る。


「あの女がボクの邪魔になる?」

 それこそ、あり得ない。
 …………あの言葉は、ボクを混乱させる嘘に決まっている。


「そうだ。ボクの計画はまだ終わっちゃいない」

 誰にも邪魔されない。
 もう誰にも邪魔させない。

 あの頭の固いジジイ共にも、あの女にだって……絶対に。

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