転生エルフさんは今日も惰眠を貪ります

白波ハクア

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第3章

圧倒的な力です

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「邪魔を、するなぁぁぁ!!!!」

 凄まじい覇気が漆黒の魔力と合わさり、大気中の空気が大きく震えました。

 これはヤバイやつです。
 肌がピリピリします。



 だからって、引くわけにはいきません。



 アカネは私の大切な婚約者です。

 危険?
 ヤバイ相手?

 ──それがなんですか。
 アカネを守るためならば、私は喜んで彼女の前に立ちましょう。



「リーフィア・ウィンドおおおおおおおお!!」

「アカネは渡しませんよ」

 力任せの拳を受け止め、その衝撃によって足元の地面が砕けました。
 以前に戦った時とは比べ物にならない力です。これも不気味な魔力を得た影響なのでしょう。

「…………にしても、これは……ちょっときっつぃ、かも……」

 筋力強化がある私でも、ギリギリ押されてしまう。
 それなりに身体能力も上がっているとは予想していましたが、まさかこれほどとは……。


「随分と見ないうちに強く、っ!」

 腹に感じた鋭い衝撃。
 気が付けば私は、地面を転がっていました。

「けほっ、ゴホッ……!」

 吐き出した肺の中の空気を取り込もうと何度も咳き込み、咄嗟に体を捻らせて横へ飛び跳ねます。それから一拍遅れて、地面を砕く衝撃が私の居た場所へ降ってきました。

「完全反応……なければ、どうなっていたか」


 流石に死なないにしても、重傷を負っていたでしょう。
 回復魔法を使えるとはいえ、かなり厳しい状況になっていたのは間違いありません。


「リーフィアァァァアアアアアア!!!!!」

 …………にしても、すっごい殺気ですね。
 こんな熱い情熱をぶつけられたら、火傷してしまいそうです。

 私、熱い男は好みじゃないんですよ。

 よろよろと立ち上がり、さてどうしようかと悩みます。
 ここでも私の火力不足が足を引っ張ってきました。何か良い手はないかと探してみようとしますが、その暇も無さそうです。


 ほら、こうしている間に、バリツさんはこちらに──。


「リーフィア! 下がっておれ!」

 再び私のほうへ追撃しようと飛び込むバリツさんの前に、ミリアさんが立ちはだかりました。

「己ぇ……よくも余の大切な部下を!」

 その瞳が真紅に輝く時、魔王の本気が垣間見える。
 彼女の魔眼の前では、誰もが平伏する。



 ──そうなるはずでした。



「ぬ、っ──が!」

 ミリアさんの瞳がバリツさんを捉えるより早く、彼女の体は大きく吹き飛ばされました。
 何度も地面をバウンドし、木にぶつかってようやく止まります。

「くそ……油断、した……」

 力なく倒れ伏したミリアさんの小さな体からは、大量の血液がこぼれ落ちています。
 このままでは危険だと判断した私は即座に駆け寄り、回復魔法を────

『リーフィア! 危ない!』

 ふっ、と私の頭上が影を帯びました。
 完全反応が激しく警鐘を鳴らし、咄嗟にミリアさんの体を抱きかかえます。

『リーフィア!』

 固いもの同士がぶつかるような音。
 振り向けば、私とバリツさんの間に半透明の壁が出現していました。

『よくもミリアちゃんを! 許さない!』

『落ち着きなさいディーネ! っ、援護するわ!』

 背後で轟く戦闘音。
 わざわざ見なくても、ウンディーネ達の戦いが苛烈を極めるものだとわかりました。

 いつもならば耳を塞ぐような激しい音のはずなのに──その全てが、私の耳に入ってきませんでした。


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