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第3章
二人目の契約ですか?
しおりを挟むアカネさんの拷問は続きました。
やることは簡単。気絶したわんちゃんをぶん殴るだけです。
しかし、彼は一向に起きる気配がありません。
白目を剥いて完全にいっちゃっています。
一体、あっちでどれほどのことをされたのやら……。
想像するだけで身震いしてしまいますね。
おお、こわっ。
「なんじゃ、これでも起きぬのか? そんなに強く滅多打ちにした覚えはないのじゃが……本当に、最近の男は貧弱すぎる。もう少しリーフィアを見習ってほしいな」
いや、私は男ではないので。
見習えと言われても困るというか……はい。口出しは怖いので控えます。
『ねぇねぇ、ちょっと……』
と、拷問を観戦しているところで、シルフィードが恐る恐るといった様子で側に寄ってきました。
『あの亜人……鬼人、よね? 怖すぎるけれど、まさかあれが貴女の探し人なのかしら?』
「ええ、そうですよ。私の妻になるアカネです」
そう言えば、彼女は『うわぁ』と顔を顰めました。
『貴女、将来尻に敷かれるわよ』
「ご心配なく。すでにそんな気がしていますので」
『手遅れなのね……ディーネも、苦労しそうね』
『え? ……ううん。アカネはすっごく優しいし、リーフィアはうちらのことを凄く大切に思ってくれるから……楽しい、よ?』
『そういう意味で言ったわけじゃないのだけれど……え? 優しい? あの慈悲もなく気絶している獣人を殴り続けている鬼人が? 嘘でしょう……?』
信じられないと、シルフィードの目が物語っています。
まぁ、今の光景を目にしていいれば信じられないのも無理はありません。
アカネさんのことが大好きな私でさえ、今だけはめちゃくちゃ怖いと思っているので。
本人に言ったら、間違いなくその拳がこちらに向くので、ここではお口チャックですけれど……。
「あれでも結構な乙女なのですよ。とにかく反応が可愛いんです」
「リーフィアぁ?」
「なんでもありません。続けてください」
まさか私達の会話が聞こえているとは。
……焦りました。
流石は地獄耳で────
「──リーフィアぁ???」
「どうかお構いなく」
心の声まで聞こえるとか、本当に『それ』じゃないですかやだぁ。
『しばらく下界に降りていなかったけれど、人ってこんなにも……いや、やめておきましょう。私にも被害が来ることは望まないわ』
「ええ、賢い選択です」
私達がやれることは、ただ一つ。
この拷問を見届けることです。
『どうせだからもう一つ聞くけれど、あの鬼の隣にいるちっこいのは?』
──あ、そう言えば居ましたね。
妙に静かだったので、存在すら忘れかけていました。
「あの方はミリアさんです。一応、魔王です」
「おいリーフィア! 一応ってなんだ! 余はれっきとした魔王だ!」
っと、地獄耳がここにも一人。
話題に出たことであの場から逃げる口実ができたのか、ミリアさんは大股でこちらに歩いてきました。
『魔王……? この、ちっこいのが?』
「なんだ。ちっこいとは無礼な奴め。……にしても見ない顔だな。おいリーフィア。こいつは何者だ?」
「彼女はシルフィードです。ウンディーネと同じ、原初の精霊の一体ですよ」
「──ブフゥ!?」
うわ、きったね。
「お前ぇ……知らぬ間に二体目の原初の精霊と……まさか、すでに契約を?」
「いえ、まだですよ」
『リーフィアの近くにいると心地良いから、契約してあげてもいいのだけれど』
シルフィードはそこで言葉を区切り、ちらりと横を見つめます。
その視線の先にはウンディーネが……。
『今はやめておくわ。ディーネに嫉妬されたくないし、嫌われたくもないからね』
『…………別に、リーフィアがそれで助かるなら、うちは……』
『あら、それじゃあ契約しちゃってもいいのかしら?』
『……………………』
途端にウンディーネは黙り込んでしまいました。
私に抱きつく力が強められたので、頭を撫でてあげます。
もしかして、他の精霊と契約したことで構ってもらえなくなるかもしれない。と思ったのでしょうか?
そんなことはあり得ないというのに、ほんと可愛いですね。
なら、私も他の精霊と契約するのは控えましょう。ウンディーネの期待を裏切るわけにはいきませんから。
『ふふっ、ディーネがこんなに嫉妬深いなんて知らなかったわ。本当に、長く生きてみるものね』
シルフィードは微笑み、上機嫌にその場をくるりと回りました。
『そういうことで、私は貴女と契約はしないわ。……でも、力は貸してあげる。今回みたいに、ね』
なんとも強力な助っ人ですね。
本当に頼もしい存在です。
まぁ、ウンディーネが一番ですけど。
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