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第3章
はい、どーん
しおりを挟む洞窟全体を震わせる絶叫が轟きました。
それは山のように大きなゾウさんから発された声です。
何をしたのかって?
そこに隙だらけな穴があったので、全力の魔力砲を何度も打ち込んでいるだけですが……なにか?
「はいどーん。もう一回どーん。ついでにどーん。おまけでどーん」
次々と打ち込む度に、ゾウさんの体は大きく揺れました。
どうにかしようと拳がこちらに振り下ろされますが、それは逆に自分自身を追い込む結果になります。その上私には一切のダメージがないのですから、こっちはやりたい放題です。
勘違いしないで欲しいのですが、遊んでいるわけではありませんよ?
私の攻撃は、ゾウさんの皮膚に通りません。
魔法はもう無害。スキルカンストしている剣術でさえも、かすり傷を与えられないときたものです。
なので、正面突破は無理だと理解しました。
ですが、それは表面でのお話。
どんなに強靭な肉体を持っていたとしても、内側は弱い。
外側がダメなら内側からってよく言いますからね。知りませんけど。
──とまぁ、そんなこんなで私は魔力砲をぶっぱしているわけです。
「でも、耳障りなのが唯一の欠点ですよねぇ……」
ドッカンドッカンうるさいですし、パオーンパオーンとうるさいです。
前者は私がやっているのですが、後者は思い切りゾウさんが悪いと思います。馬鹿みたいに大きくて固いのですから、ちょっと脳味噌あたりが爆発する程度のこと、声くらいは我慢してほしいものですね。
「ごめんなさいね」
急いでいるのと、そろそろ私の耳が限界を迎えているので、もう終わりにしましょう。
「魔力砲、最大火力です」
普段、私は魔法を使う時は詠唱をしていません。
やったとしても『風よ』という適当なものです。細かい詠唱はしません。
単純に必要ないというのが一番の理由ですが、他にも大きな理由はあります。
私が直接こうして魔力に語りかけると、周りにいる微弱な精霊たちが張り切ってしまうんですよね。そのせいでこちらの意思に反して規模が大きくなってしまい、私ですら収集がつかなくなります。ついでに魔力もごっそりと持っていかれるので、連発はできないのです。
なので、細かい指定をすることは比較的少ないのですが……今はそうなることを私が『許可』しました。
私の仕事はとても簡単です。
ただ求められる魔力を与えるだけ。
それだけで、後は全て身近にいる精霊がやってくれます。
「後は、よろしくお願いします」
瞬間、魔力の暴風と称するべき渦が周囲に巻き起こりました。
ゾウさんはそれを耳元で感じて焦ったのでしょう。先程から何度もぶつかってくる拳が、更に勢いを増しました。
ですが、本能の危機を今更感じても、もう遅いです。
──デキタヨ。
──デキタ、デキタ。
──スッゴイノ、デキタ。
──イツデモ、ダイジョウブ。
微かに届いた、子供のような第三者の声。
私はそれに従い、人差し指を目の前に広がる巨大な空洞に向けます。
「はい、どーん」
放出されたのは、ビー球くらいのとても小さな丸い魔力体。
それはふわふわと宙を漂い、ゆっくりとゾウさんの内部に入っていきました。
それを確認した後、私は全速力でその場から緊急離脱しました。
あれがどのような影響を及ぼすのかを、精霊が教えてくれたからです。
──クルヨ。
──オモシロイノ、クルヨ。
──タノシミ、タノシミ。
──ホラ、ソロソロクルヨ。
ゾウさんは動きません。
逃げる私を視界に入れているはずなのに、先程の猛攻は何だったのか、石像になったようにピタリと動きを停止させました。
「まさか、本当に像さんになりまし────っ!」
馬鹿なことを口に仕掛けたところで、ゾウさんの頭部が風船のように破裂しました。
素直にびっくりした私は呆然とその様子を見つめ、数秒後にシャワーのような血の雨が降りかかったところで我に返ります。
ズドンッ、と巨体が地面に沈みました。
精霊たちが張り切っていたので、なんか凄いことが起こるとは思っていましたが、まさかこんな呆気なくゾウさんを倒すとは……精霊って本気を出すとやばいんだなと再認識します。
しかも、これは姿のない微精霊がやったことです。
精霊としては最下位にいるような子たちですら、この威力。
それらの頂点に位置するウンディーネの本気って…………。
ま、まぁ、世界樹を一瞬で枯らしてしまうほどですからね、深くは考えないことにしましょう。
頷き、その場を駆けます。
予想以上に魔力を持っていかれましたが、止まっている場合ではありません。
この先にウンディーネがいる。
そして、この状況を作り出した元凶も、おそらくは……。
ウンディーネを拉致し、ゾウさんを仕向けてきた輩です。
何を企んでいるのかは理解できませんが、油断はせずに進みましょう。
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