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第3章

帰ってこない私の精霊

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 ウンディーネが居なくなってから、6日が経ちました。

「…………はぁ」

 日を増すごとに溜め息が増えます。

 明日はアカネとの結婚式が控えています。
 これではダメだと理解していながらも、心の中にあるのは寂しさばかり。

 アカネさんも私の心情を察してくれているのか、何も文句を言うことなく遠巻きに見守ってくれています。
 自分には何もできないと、そう思っているのでしょうか。



 ──そんなの、私も同じですよ。



 何かしなければと思いながら、私にできることはウンディーネの帰りをただ待つのみそれがどれほど歯痒いか。

 あの時、無理を言ってでも同行すれば良かったと後悔すら──いえ、そうしてしまったらアカネさんとの式が後回しになっていたでしょう。これが正しい選択だった。

「そう思っていても、納得はできません」


 ポツリと呟いた言葉。
 後ろの方で絹が擦れる音がしました。

 部屋には私とアカネさんしかいません。
 となれば、動いたのは彼女でしょう。

「リーフィア」

 名が呼ばれました。
 この名で呼ばれるのは久しぶりですね。

 周囲に誰も居ないからって、アカネさんまで気が緩んでしまったのでしょうか。

「アカネ。私は、リフィで……」

 訂正は最後まで言わせてはもらえませんでした。
 私の口は、アカネさんの口によって強制的に封じられたのです。

 あちらから積極的に求めてくるのは珍しい。
 予想していなかったことに、私は僅かに目を丸くさせます。

 時間にして数秒のことでしたが、私にはとても長い時間に感じられました。それはきっと、向こうも同じ気持ちなのでしょう。


「……ぷは、っ……」

 やがて、アカネさんはそっと私から距離を取りました。
 内心の童謡を悟られないよう、私はあえて明るい口調を選びます。

「急にどうしたのですか? いや、アカネの方から私を求めてくれるのは嬉しいのですが、珍しいこともあるもので」


「行け、リーフィア」


「…………なんのことでしょう」

 真摯の瞳が、真っ直ぐにこちらを見つめていました。
 ……これは冗談が通じない雰囲気です。

「ウンディーネのことが心配なのじゃろう?」

「それは、もちろんそうですが……今はアカネとの式の方が大切ですよ」

「嘘をつくな。本当にそう思うなら何故、今リーフィアはそんなに悲しそうな顔をする。何故いつものように、妾に笑顔を見せてくれない?」

「……少し、寝不足で」

「それも嘘だな。リーフィアはどのような時でも、リフィとして妾に愛を向けてくれた。本当に妾を優先してくれると言うのであれば、それは変わらないはずだ」



 …………。


 ……………………。


 ………………………………。



「あははっ、やっぱりバレちゃいますか」

 そうですよね。あんなに溜め息を吐き出していれば、不審がられるのもおかしくはないです。


「私は、」

 あんなに愛を囁いて、大切だと言ったのに、本心ではウンディーネのことばかりを想っていました。

 一緒にいる時も激しくアカネさんを求めていた時も、焦りを隠すための行為。
 アカネさんを大好きだと言っておきながら、自分でも気づかぬうちに彼女のことを、私自身への慰めに利用していたのです。






「私は、最低な女です」






 軽蔑されても仕方ありません。
 だって、そうされるだけのことをやったのですから。

「それは違うぞ」

「っ、アカネ……」

 しかし、アカネさんは私の言葉を否定しました。
 良いように利用されたにも関わらず、彼女は未だに私へ優しい目を向けてくれました。

 理解、できません。

「どうして、そこまでして……私を庇ってくれるのですか?」

「どうして、じゃと? 簡単な話じゃよ」

 それはとても簡単で、シンプルなものでした。


「妾は、そんなリーフィアも愛してしまったのじゃよ」

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