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第3章
願い事です
しおりを挟むこうして四人に増えた神社巡り……と言っても、最後の場所ですけれど。
ウンディーネとミリアさんは、神社に来るのは初めてだったようです。
参拝の手順を知らないようなので、アカネさんと一緒に教えながら、私達はようやく『賽銭箱』まで辿り着きました。
「なぁ、なぜ皆、小さい金しか投げ入れないのだ? 折角お祈りするのだ。一番大きな物を投げ入れた方が良いのではないか?」
と、ミリアさんが最もらしい疑問を口にしました。
「賽銭を投げ入れるお金には意味がありまして……ご縁があるようにとか、十分ご縁がありますようにとか……それで一番大きな効果を投げ入れると『これ以上は無い』となり、逆に縁起が悪くなるのです」
そう言えばこの世界には五円玉と十円玉がありませんが、そこら辺はどうなのでしょうか?
存在する硬貨は、銅貨、銀貨、金貨、それ以上はお札と、日本にあったようなお金ではありません。
私の言葉が通用するのか言ってから心配になりましたが、横でアカネさんが頷いていることから、どうやらこの世界でも認識は同じのようです。
「リフィの言う通りじゃ。だから皆、銅貨を五枚投げ入れるのじゃよ。ご縁がありますようにと思いながら投げ入れると、神様が願いを聞き入れやすくなるかもしれぬな」
「なるほどなぁ……余だったら、一番大きな物を貰った方が嬉しいのだが、神は違うのだな」
「一般的にそう言われているだけで、もしかしたら神様も一番大きな硬貨が欲しいと思っているのかもしれません」
脳裏に思い浮かべるのは、ちょっと前に話したばかりのロリ神です。
あの方なら……一番大きな物を寄越せとか言ってきそうですね。
でも、神にお金は必要ないでしょう。
あれは概念のみの存在であり、自分で物を買うよりも作り出した方が早いでしょう。
…………となると、この投げ銭は本当は意味が無いのかもしれませんが、神社の人達のためにも、これ以上は考えないでおきましょう。
「ほれミリア。ちゃんとあの箱の中に投げ入れるのじゃぞ」
「うむ!」
「ウンディーネ。お金です」
『ありがとうっ!』
人が集まっているせいか、私達がいる場所と賽銭箱の距離は少しだけ離れています。
コントロールが絶望的ではない限り問題はないと思われますが、少しだけ心配なので見守っておくことにします。
それはアカネさんも同じ思いだったようで、ミリアさんの動作一つ一つを注視していました。
「それ!」
『えい!』
それぞれから金を受け取った二人は、興奮気味に銅貨を賽銭箱目掛けて投げました。
ですが、どちらも余計な力が入ってしまったのか、方向がちょっとだけ外れてしまっています。
──風よ。
わからない程度に軌道調整。
二人が投げたお金は、無事に箱の中身に吸い込まれていきました。
それを見届けてから、私とアカネさんも銅貨を投げ入れます。
「お金を投げ入れたら、両手を合わせ、心の中で願い事を言います」
「うむっ! 魔王として、皆とずっと一緒に居たいぞ! 余の配下達がずっと健康的で居られると嬉しいぞ! あと、美味しい物をいっぱい食べたい。楽しいことも沢山したいな! この前遊んださっかーというものも、またやりたい!」
──心の中って言っているでしょうが。
私は内心、ツッコミを入れました。
しかもめっちゃ願い事言いますね。
さすがは魔王、欲が強いです。
「それと──」
まだあるんですか。
「リフィとアカネ、ウンディーネがずっと幸せに結ばれるよう、上司である魔王として願っているぞ!」
「ミリアさん……」
「リフィがもっと一緒に遊んでくれるようになったら、なお良しだ!」
「神様もそれだけは無理だって言っていますよ」
「神が!?」
ったく、ミリアさんの癖に不意打ちとは卑怯ですね。
「…………ありがとうございます」
「ん? 何か言ったか?」
「いいえ、何でもありませんよ」
さて、私も願いを言うことにしましょう。
……と言っても、何を願いましょうか。
ロリ神が言っていたことを危惧して、それについての願いを言おうとしましたが、それでは他力本願みたいになって嫌です。自分のことは自分で始末をつけたいので、『いずれ来る最悪の時』は自分の中だけに留めておきます。
ここは恋愛成就の神社ですが、アカネさんとウンディーネのことは、自分の力で絶対に幸せにします。
なので、今更神に頼る必要はありません。
だってもう……すでに私達は結ばれているのですから。
ということで困りました。
一般的な人が思い浮かべるような願い事がありません。
──だったら基本に戻りましょう。
異世界転生する時、私が願ったのはただ一つ。
最近は色々なことに巻き込まれてしまい、それはあまり出来ていませんでした。
両手を合わせ、願います。
「どうか……」
どうか、堕落生活が続きますように。
……………………結構ガチ目で。
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