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第3章
準備待ちです
しおりを挟む急な城下町へのお誘い。
私は深く考えることなく、その場では了承しました。
いつかは行ってみたいと思っていましたし、ちょうどやることもないなぁ、今日もずっと寝ていようかなぁ……と考えていたところなので、アカネさんのお誘いを断る理由はありませんでした。
残念ながらウンディーネは実体化できず、一緒にお店を見て回ることはできません。
彼女と私が一緒にいると、すぐにイチャイチャしてしまうと注意を受けていますからね。そこは我慢です。
でも、ウンディーネは確かに私の近くで見守ってくれている。それを感じられるだけで、私は十分なのです。
「ってことで、用意しましたが……」
私は今、一人で玄関の前に立たされていました。
「アカネさん、遅いですねぇ」
ポツリと、そう呟きます。
彼女は彼女なりの準備があるとのことで、朝食が終わったと同時に大勢の侍女さんを連れ、どっかへ行ってしまいました。
私の方はすぐに準備が終わったので、ちょっと早めに集合場所である玄関に来たのですが……時間ギリギリになってもアカネさんはまだ姿を現しません。
女性は身支度を整えるのが遅いのは理解していますが、それにしても朝食から二時間が経過しているので、流石に心配になりますね。
「──お待たせしたのじゃ!」
何か問題でも起こっているのかな?
そう思って迎えに行こうとしていた時、数人が廊下をパタパタと小走りするような音と、アカネさんの声が聞こえてきました。
「すまぬ。待たせてしまったじゃろうか?」
「いえ。早めに来ただけなので、気にしないでくださ…………」
振り向き、私は言葉を失いました。
アカネさんはいつもの重そうな和服ではなく、町娘のような軽めの和服を着ていました。
ですが、決して彼女の品位を落とすことなく、むしろ派手なものが減ったことで、彼女の魅力がより強くなったように感じられます。
少し雰囲気も変わっています。
このためにお化粧もしてくれたのでしょうか?
遠くから見ただけでも十分でしたが、近くで見ると更に美しく見えてしまいますね。
……微かに、香水の匂いもします。
きつすぎない花のような香り。意識してくれたのかはわかりませんが、私の好むタイプの匂いです。
「ど、どう、じゃろうか……?」
私が何も言わなくなったことで、不安を覚えたのでしょう。
アカネさんは俯き、もじもじしながら私をチラチラと見つめてきました。
「化粧、してくれたのですね」
「うむ。派手すぎないよう気を付けてもらったつもりなのじゃが、変……だろうか?」
何をそんなに不安になることがあるのでしょう。
いつもの気高い彼女はどこに行ってしまったのだろうと、内心失礼なことを考えながら、私はクスリと笑います。
「とてもお綺麗ですよ。私としたことが、アカネに本気で見惚れてしまいました」
「はうっ……!」
アカネさんは胸元を抑え、うずくまりました。
「大丈夫ですか? 体調が悪いなら、無理しなくても」
「も、問題ない! 不意打ちを食らっただけじゃ!」
──え、なにそれ怖い。
不意打ちってそんな簡単に食らうものですかね?
本当に大丈夫かと、彼女の後ろに控える侍女さん達に目を向けると、彼女達は微笑ましいものを見ているかのように、優しく笑っていました。その表情には心配の感情が一切見られません。
……うーむ、私の考えすぎですかね。
「前にも言ったと思いますが、無理だけはしないでくださいね」
「うむ! ──さぁ、そろそろ出発しよう」
アカネさんが私の手を取ります。
あまり私と手を繋ぎたがらない彼女ですが、今はそんなことどうでもいいみたいですね。
──余程、楽しみなのでしょう。
長年出ていたとしても、やはり自分の故郷です。
こうして散策できることが嬉しいのですね。
「……ええ、今日はめいいっぱい楽しみましょう」
子供のように無邪気に笑う彼女に、私も応えます。
あれ、そういえば一人忘れているような気がしますね。
……………………まぁいいか。
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