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第3章

からかい上手?

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「なるほど。リフィ君は魔王殿に誘われ、魔王軍に入ったのだな」

「ええ。アカネと出会ったのは、その後でした」


 数多くの郷土料理を振舞われながら、私はアカネさんのご両親に『アカネさんとの出会い』を語っていました。

 今は森で彷徨っていた私に、ミリアさんが「魔王軍に入れ!」と半ば強制的に勧誘してきたと、お話ししたところです。


「その後はヴィエラとの決闘があったのじゃよな」

「ミリアさんの護衛になるのだから、それなりの力を示してもらうと。……いやぁ、今思い出しても面倒でした」

 無事に決闘に勝利した私が休もうと横になったところで、ミリアさんという邪魔者が乱入。彼女の操る業火に服を焼かれた私に、アカネさんが上着を被せてくれた…………ってあれ? どっちが紳士?


「はっはっはっ! この子は昔から、少し男勝りなところがあったからな」

「二人の兄達と共に育ったからじゃろう」

「その口調も、ちょっとかっこいいからって急に変え出したのよねぇ」

「母上っ! それは別に言わなくても……!」

「でもまぁ、なんか無理してる感じがして可愛く見えるんですよね」

「リフィ! お主、今までそのように見てたのか!?」

 胸倉を掴まれ、ぐらんぐらんと揺らされます。
 ああ~、視界が……視界がすっごいことになってますねぇ。


「……二人は仲が良いのだな」

「ええ。手紙では、てっきりアカネが見栄を張って嘘をついたのかと思っていましたが……どうやら心配は無いみたいですね」



 ──アカネさん? 思いっきり嘘バレていましたけど?
 そのような視線を向けると、素早く視線を逸らされてしまいました。


「父上、母上。妾はちゃんと、リフィのことを愛している。決して嘘ではない」

「婚約者が居る真横でそんなことを言われると、流石に照れますねぇ。私も、アカネのことを愛していますよ? もちろん、貴女に負けないほどに」

「~~~~っ、!!!」


 最近になって本当に思うのですが、恋愛に対しての防御力低すぎません?

 好きでもない相手に「愛している」と言われた程度で顔を真っ赤にさせて……本当に好きな人ができた時は大丈夫なのでしょうか? 全身ゆでだこになって呼吸困難とかになられたら大変です。

 ……まぁ、その時は仮にも夫である私が、責任を持ってアカネさんを介抱させていただきますが。



「あらあら。アカネが良いように振り回されてるわよ」

「珍しいな。アカネのあのような顔は初めて見た」

 コソコソと、声を潜ませて話しているご両親ですが、私もアカネさんも耳は良い方なので、その内容は思いっきり耳に届いていました。


「──っ、くっ! リフィ! ほれ、こっちも美味しいぞ!」

「むぐっ……ん、うん。美味しいですね。流石はアカネ。私の好きな物を熟知していますね」

「それはそうじゃ。リフィとは毎日食事を共にしているのだから、お主の好物くらいは知って──って、何を言わせるのじゃ!」

「いや今のは完全に自爆でしたよね? 怒るのは流石に理不尽かと……」

「文句があるのか? 妾に文句があるなら、遠慮せずに言ってみろ!」

「まぁまぁ……そう怒らずに、ほら。あーん」


 数ある料理の中から、一品を箸に乗せ、大きく口を開けたアカネさんの口に運びます。


「美味しいですね。アカネ」

「…………妾の大好物じゃ。どうして当てられた?」

「伊達に、食事を共にしていないということです」

 パチンッとウィンクすれば、アカネさんはそっぽを向いてしまいました。……あらら、怒らせちゃいましたかね?


「リフィ君は凄いな。あのアカネに一歩も引いていない」

「流石は婚約者と言ったところですね。ふふっ、私達の娘も、あんなに可愛らしい表情を作れたのですね」

 ご両親からひそひそと聞こえてくる会話を聞く限り、アカネさんは怒っていないようですね。だとすれば、これはただの照れ隠しなのでしょう。


「アカネ」

「…………」

「アーカーネー」

「なん──むぎゅ」


 振り向いたアカネさんの頬を人差し指で突けば、奇妙な声が聞こえました。
 まさか悪戯されるとは思っていなかったのでしょう。

 呆けた顔を晒すアカネさんに、私は一言。


「ふふっ、可愛い」

「──!!」

 ガタッ、とアカネさんは荒々しく立ち上がります。


「お、お主、そうやって妾をからかうのも大概にしろ! 大体、リフィはいつも妾をドキドキさせて、反応を面白がっているのか!? 性格の悪い婚約者じゃ。ほんと、妾の心臓が持たぬから勘弁してくれと……! そういうのは二人きりの時に──って、それもダメじゃ! 全く、リフィはそれだからいつも──」


 怒涛の文句を言い続けるアカネさんに、私は微笑みを絶やしませんでした。
 その様子を見ていたご両親も同じく、ニコニコと、笑みを向けてきます。


 怒号が響き渡る食事の場。
 でもそれは、とっても心地が良いものでした。

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