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第3章

守りたい、この笑顔

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 和の国に到着してようやく睡眠を取れた私は、少しではありますが疲れも癒すことができました。


 二時間ほどでしょうか。アカネさんと共に眠っていた私は、食事の時間になるまで、ゆったりとした時間を過ごしていました。



「ほれ、もう一度──行くぞ」

「え、ちょ、待っ!」

 私は寝る時、いつも服を纏っていません。
 それは今回も同じで、つい男装服をサラシごと解いてしまいました。

 服は魔法で自由に着せ替えることが可能ですが、サラシだけはそうはいきません。なので、アカネさんに手伝ってもらいながら巻いているのですが…………彼女は馬鹿力の魔王を凌駕するほどの、豪腕の持ち主です。

「その華奢な細腕から、どうやったらそんな力が出るのか疑問なのですが、ぐっ、うぶっ……!」

「妾は鬼族じゃからな。力には自信があるのじゃよ!」

「それはそれは、頼りになる婚約者ですね。でも、もう少し力を抑えぐぉ!」

「ん? なんじゃ? 何か言ったか?」

「あ、あの、ほんとそろそろかんべ──ひぎぃ!」


 体がえげつないほどにミシミシと音を立てています。

 サラシってここまでする必要ありますか?
 無いですよね? ──無いですよね!?


「もう、いいです! そろそろ十分、ストップ! これ以上は私が死んでしまいます!」

「なんじゃ。まだ余力があったのじゃが……この程度で大丈夫なのか?」

「……できれば、絶対に本気を出さないでいただきたいです」

 毎度毎度、サラシを巻くたびに死にかけるのでは、私の体が持ちません。
 これは……少し対策を考える必要がありますね。


「とにかく、これで準備はできました」

 寝る前に落とした化粧をもう一度やり直し、入念にチェックを済ませた私は「よしっ」と頷き、

「では、行きましょうか」

 アカネさんの手を取りました。


「う、うむ……」

 まだ恥じらいながらも、そこは婚約者らしく従ってくれるアカネさん。


「私、お腹が空いていたんですよ。今日の夕飯は何でしょうね?」

「えぇと……歓迎会も含め、この国の郷土料理を振る舞うと、母上が言っていたな」

「郷土料理ですか。きっと美味しいのでしょうね。楽しみです」


 この国と似ている京都だと、何が有名でしたっけ。
 前に行った時は、湯豆腐を食べた思い出がありますね。八つ橋も結構好きなのですが、流石にこの世界には存在しないですよね……。

「……リーフィ…………リフィ、嬉しそうじゃな」

「それはもちろん。故郷に似ているとは関係なく、こういう雰囲気の場所は好きですから。たまには観光も大切ですからね」

「そうか。リフィにそう言ってもらえるのは、嬉しい…………じゃが、すまんな」

「……ウンディーネのことを、考えていますか?」

 アカネさんは何も言いません。
 それはつまり肯定なのでしょう。

「あの子は『気にしていない。だからアカネを優先してあげて』と言っていました。ならば私も気にしていません。……アカネを大切なのは私も同じ。だから婚約者として、今は貴女のために動きます」

「リフィ……」

「だからそんな暗い表情をしないでください。こんなところをご両親に見られたら、私、ぶん殴られそうです」

 アカネさんのご両親は、アカネさんをとても大切に思っています。
 だから私も、彼女のためを思って行動したい。



「──あ、良い匂いです」

 漂ってきた匂いが鼻をくすぐり、私は笑顔を浮かべます。

「ほらアカネ。笑顔笑顔。折角の美人さんが台無しです」

「…………その言葉をリフィに言われるのは少し複雑だが、そうじゃな。暗いままだと折角の料理も美味しくなくなってしまう」


 握るアカネさんの手が、微かに強くなりました。

「ありがとう、リフィ。お主は最高の婚約者だ」


 そう言ったアカネさんの笑顔が、とても眩しく感じます。


「それはこちらの台詞ですよ」

 彼女のことを、私は一瞬、愛おしく感じました。
 それは婚約者を演じている影響からなのか、それとも、私自身がそう思うようになっているからなのか。



 ──まぁ、どちらでも良いことです。
 だって今の彼女は、ここまで輝いているのですから。


「早く行くぞ、リフィ。妾の国自慢の料理が冷めてしまう」

「あ、っと……そんなに急に引っ張らないでください。転んでしまいます」

「大丈夫じゃ。その時は妾が、お前を助けてみせるからな」


 ……ははっ、なんとも頼もしい婚約者ですこと。


「では私も、負けないくらいにアカネを助けましょう」

「なんじゃ。今までお前に助けられているのだから、少しくらいは借りを返させてくれてもよかよう?」

「ダメです。妻のことは夫が守る。そうだと相場が決まっているのです」

「言っていることの意味がわからぬが、そうなのか?」

「ええ、多分……そうなのですかね」

「そこで曖昧になるところが、なんともリフィらしいな──では、」

 アカネさんは手を解き、少し先を歩いてからクルリとこちらを振り返りました。


「妾はリフィを守りたい。リフィは妾を守りたい。妾達は──最高の婚約者じゃな!」

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