152 / 233
第3章
困った時は逃げちゃえばいいのです
しおりを挟む「妾と婚約してほしい」
私とウンディーネは固まります。
それは文字通り、石のように。脳の処理が追いつかず、ピクリとも動かなくなりました。
「リーフィア? ど、どうじゃろう、か……」
顔を赤く染め、もじもじとするアカネさん。
彼女が嘘を言っているようには思えません。というか、アカネさんが冗談を言う時は、もっとお年寄りっぽいこと……例えるなら、親父ギャクみたいなことを言ってくるはず。
私達をここまで困惑させるような冗談を思いつくような、愉快な人ではありません。だって彼女はおばあちゃ──ゲフンゲフン。なんでもありません。
「…………」
私は周囲を見渡します。
ついでに魔力の反応も調べました。
でも、どれだけ入念に調べ尽くしても、この周囲にディアスさんの気配はありませんでした。
……ということは、彼に何かを吹き込まれたわけでもなさそうです。
つまり彼女は、マジのガチで私に求婚してきた?
…………でも……えぇ? 婚約?
この人。婚約の意味を間違えてませんよね?
「そ、その……答えを聞かせてもらっても、いいじゃろうか……」
徐々に言葉が萎んでいくアカネさんは、どうやら本気で恥ずかしがっている様子。なんか、いつも以上に可愛く見えてしまうのは、私の気のせいでありたいです。
にしても、返事を聞かせて欲しいって……そんな、急に婚約を申し込まれても困るというか、私の中にある感情はただ一つ。
──いや、なんで私?
「リーフィアっ! 頼む、そろそろ返事をくれ。……妾も、焦らされるのは慣れていない故……恥ずかしくて、死んでしまいそうじゃ」
「ぐふぅ……!(吐血)」
衝撃の展開が連続しすぎて、思わず吐血してしまいました。
今の私は、過去最高に白目を向いていると思います。
イラストで表したら、昔の漫画のように真っ白な背景で、『ガーンッ!』というエフェクトが出ているほどに──って、自分でも何を言っているのかわからなくなってきました。
とにかく、突然の求婚に私も驚いているのです。
「婚約……そう、婚約、ですか……」
私は思考の渦から帰還して、現実を受け止めようと何度も『婚約』と呟きます。
しかし、何度それを口にしても、やっぱり私の中にあるのは『なんで私なの?』という疑問ばかり。
他に人が沢山いるこの魔王城で、どうしてピンポイントで私のところに?
自覚は無いとしても、普通に嫌がらせレベルです。ようやくエルフの件がひと段落ついたと思ったのに、どうしてこう……私の周りは問題ばかり持ち込んでくるのですかね?
「婚約、ふふっ……婚約、か」
『リーフィア……?』
「お、おい、リーフィア? どうしたのじゃ?」
流石に心配になったのでしょう。
ウンディーネとアカネさんは怪訝そうに眉を垂らし、私に手を伸ばします。
──今の私は、野良猫の気分です。
私に伸ばされる全ての手が、警戒する何かにしか見えません。
「──っ、そぉぃ!」
なんか捕まったらダメな気がする。
そんな曖昧な『完全反応』に従うまま、私は窓を蹴破ってその場を離脱。華麗に着地して逃走を始めます。
私はリーフィア・ウィンド。
本気になれば、風のように走ることもできます。
ですが、寝るためにはこの能力は必要ありません。
──だったら、どうして素早さ極振りにしたのか?
こういう面倒事に巻き込まれそうになった時、颯爽と逃げきるためです!
「待て、リーフィア!」
『リーフィア! 止まって!』
背中に投げかけられる二人の声を聞いても、私の足が止まることはありませんでした。
0
お気に入りに追加
1,624
あなたにおすすめの小説

このやってられない世界で
みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。
悪役令嬢・キーラになったらしいけど、
そのフラグは初っ端に折れてしまった。
主人公のヒロインをそっちのけの、
よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、
王子様に捕まってしまったキーラは
楽しく生き残ることができるのか。

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます
みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。
女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。
勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

王女の夢見た世界への旅路
ライ
ファンタジー
侍女を助けるために幼い王女は、己が全てをかけて回復魔術を使用した。
無茶な魔術の使用による代償で魔力の成長が阻害されるが、代わりに前世の記憶を思い出す。
王族でありながら貴族の中でも少ない魔力しか持てず、王族の中で孤立した王女は、理想と夢をかなえるために行動を起こしていく。
これは、彼女が夢と理想を求めて自由に生きる旅路の物語。
※小説家になろう様にも投稿しています。

転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~
ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。
異世界転生しちゃいました。
そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど
チート無いみたいだけど?
おばあちゃんよく分かんないわぁ。
頭は老人 体は子供
乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。
当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。
訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。
おばあちゃん奮闘記です。
果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか?
[第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。
第二章 学園編 始まりました。
いよいよゲームスタートです!
[1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。
話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。
おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので)
初投稿です
不慣れですが宜しくお願いします。
最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。
申し訳ございません。
少しづつ修正して纏めていこうと思います。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる