転生エルフさんは今日も惰眠を貪ります

白波ハクア

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第3章

困った時は逃げちゃえばいいのです

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「妾と婚約してほしい」


 私とウンディーネは固まります。

 それは文字通り、石のように。脳の処理が追いつかず、ピクリとも動かなくなりました。

「リーフィア? ど、どうじゃろう、か……」

 顔を赤く染め、もじもじとするアカネさん。

 彼女が嘘を言っているようには思えません。というか、アカネさんが冗談を言う時は、もっとお年寄りっぽいこと……例えるなら、親父ギャクみたいなことを言ってくるはず。

 私達をここまで困惑させるような冗談を思いつくような、愉快な人ではありません。だって彼女はおばあちゃ──ゲフンゲフン。なんでもありません。


「…………」

 私は周囲を見渡します。
 ついでに魔力の反応も調べました。

 でも、どれだけ入念に調べ尽くしても、この周囲にディアスさんの気配はありませんでした。
 ……ということは、彼に何かを吹き込まれたわけでもなさそうです。




 つまり彼女は、マジのガチで私に求婚してきた?

 …………でも……えぇ? 婚約?
 この人。婚約の意味を間違えてませんよね?



「そ、その……答えを聞かせてもらっても、いいじゃろうか……」

 徐々に言葉が萎んでいくアカネさんは、どうやら本気で恥ずかしがっている様子。なんか、いつも以上に可愛く見えてしまうのは、私の気のせいでありたいです。


 にしても、返事を聞かせて欲しいって……そんな、急に婚約を申し込まれても困るというか、私の中にある感情はただ一つ。



 ──いや、なんで私?




「リーフィアっ! 頼む、そろそろ返事をくれ。……妾も、焦らされるのは慣れていない故……恥ずかしくて、死んでしまいそうじゃ」

「ぐふぅ……!(吐血)」


 衝撃の展開が連続しすぎて、思わず吐血してしまいました。

 今の私は、過去最高に白目を向いていると思います。
 イラストで表したら、昔の漫画のように真っ白な背景で、『ガーンッ!』というエフェクトが出ているほどに──って、自分でも何を言っているのかわからなくなってきました。


 とにかく、突然の求婚に私も驚いているのです。




「婚約……そう、婚約、ですか……」

 私は思考の渦から帰還して、現実を受け止めようと何度も『婚約』と呟きます。

 しかし、何度それを口にしても、やっぱり私の中にあるのは『なんで私なの?』という疑問ばかり。

 他に人が沢山いるこの魔王城で、どうしてピンポイントで私のところに?

 自覚は無いとしても、普通に嫌がらせレベルです。ようやくエルフの件がひと段落ついたと思ったのに、どうしてこう……私の周りは問題ばかり持ち込んでくるのですかね?




「婚約、ふふっ……婚約、か」

『リーフィア……?』

「お、おい、リーフィア? どうしたのじゃ?」


 流石に心配になったのでしょう。
 ウンディーネとアカネさんは怪訝そうに眉を垂らし、私に手を伸ばします。



 ──今の私は、野良猫の気分です。

 私に伸ばされる全ての手が、警戒する何かにしか見えません。



「──っ、そぉぃ!」

 なんか捕まったらダメな気がする。

 そんな曖昧な『完全反応』に従うまま、私は窓を蹴破ってその場を離脱。華麗に着地して逃走を始めます。



 私はリーフィア・ウィンド。
 本気になれば、風のように走ることもできます。

 ですが、寝るためにはこの能力は必要ありません。

 ──だったら、どうして素早さ極振りにしたのか?

 こういう面倒事に巻き込まれそうになった時、颯爽と逃げきるためです!



「待て、リーフィア!」

『リーフィア! 止まって!』


 背中に投げかけられる二人の声を聞いても、私の足が止まることはありませんでした。


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