137 / 233
第2章
交渉です
しおりを挟む
私の予想した通り、『エルフの秘術』である結界は、エルフ族のみを通す仕様だったらしく、派手に暴れて道順を探っていると、いつの間にか私は見知らぬ場所に転移させられていました。
相変わらずの森の中でしたが……何て言うんでしょう、空気が違うんですかね。とにかく、私が暴れていた森とは別の場所だという確信はありました。
きっと、ここがエルフの本拠地なのでしょう。
私がこうして侵入してから、周囲の木々がざわめき出したように思えます。多分、監視役のエルフが私の侵入を知り、ダインさん辺りに報告しているのでしょう。
それと、妙に監視されている気配もします。
「さて、と」
私はそれらを一切気にせず、とりあえず森の中を歩くことにしました。
……流石に、こんな敵地で眠るようなことはしませんよ。
…………ああ、でも、ここって結構良い空気なんですよね。エルフ以外は侵入不可能だから、魔力が安定しているのでしょうか。とても居心地が良いです。
……………………そう考えていたら、なんか、まぶたが重くなって、
『リーフィア……!』
「──っ、と、ええ、大丈夫です」
急に眠くなってしまい、おもむろに布団を取り出したところで、姿を隠しているウンディーネから注意が飛んできました。
い、いやだなぁ……そんな、寝るわけないじゃないですか。
『…………もうっ、ちゃんとしてね?』
「はいはい、わかりましたよ……っと……」
前方から、複数の反応がこちらに向かって近づいて来ます。
その中には見知った魔力反応が──これはダインさんの魔力です。
森に侵入してまだ4、5分と言ったところなのですが、流石はここを支配しているだけあって行動が早いですね。
私は一瞬にして囲まれました。
木の上に潜んでいる影は、合計10人。どれもが弓をつがえているようで、殺気が凄まじいです。
そして──
「なぜ、ここに居る」
少し遅れてダインさんが姿を現しました。
相変わらずの無表情。なんか懐かしいとさえ思ってしまいますね。……まぁ、できれば二度とその顔を拝みたくなかったんですけど、ここまで来てしまったらもう仕方ありません。
「どうもこんにちは、ダインさん」
私は優雅にお辞儀をしてみせました。
強者の威風を纏い、薄い笑みをこの顔に貼り付けます。
「……なぜ、ここに居るのだと聞いている」
「交渉に来てあげました」
「交渉だと?」
「ええ。魔王軍はエルフ族を『敵』として定めました。命乞いしますか?」
「…………奴らでは、我らエルフに手出しはできない」
「あら、私も魔王軍幹部です。……そして今、こうして侵入成功しているわけですが、そこはどうお考えで?」
「………………」
ダインさんは黙ってしまいました。
それはそうです。エルフが今まで傲慢にいれたのは、結界があるおかげで誰もエルフに手出しできなかったから。それが今、私の手によって覆されました。
そして魔王軍はエルフを敵と認識した。
私が今ここで暴れれば、誰も私を止めることはできません。
「ですが、流石にエルフ全てを相手にするのは面倒です。だからと言って魔王軍の兵力を投下すれば、こちらも無害では済まないでしょう」
──なので、交渉です。
「あなた方の望む魔女になってあげます。だから今後一切、魔王軍に手を出さない。魔族領に足を踏み入れないと誓ってください」
「もし、破ったら」
「命を捨てたいのであれば、どうぞお好きに」
「…………わかった。その条件、受け入れよう」
ダインさんの言葉に、周囲に潜むエルフが微かに動きました。まさか私からの言葉を受け入れるとは思っていなかったのでしょう。私への殺気が、若干濃くなりました。
「本当に、貴様は魔女になるというのだな?」
「ええ、あなた方が本当に約束を守ってくださるのであれば……ですがね」
そんなことをせず、この場で一方的に蹂躙したほうが圧倒的に早いですし、私も帰りやすくなります。それは私だって理解していますし、ちょっと面倒ですが、それが一番効率が良いです。ちょっと面倒ですが。
でも、わざわざ遠回りな手段を選ぶのは、理由があります。
私達はまだ、『エルフの秘術』をほとんど知りません。
認めるのは癪ですが、エルフの結界は素晴らしいと思います。我ら魔王軍が手に入れることができたら、とても楽になるでしょう。
幸か不幸か、私は『魔女』です。そして魔女が結界を維持していることは、ほぼ確実です。
今回の計画は、エルフの秘術を調べる絶好の機会。
魔女として色々知る合間に、秘術のことも調べれば、魔王軍にとっての利益は凄まじいものになる。そう考えた私は、このような回りくどい手段に出たというわけです。
…………素直に一生ここで魔女として過ごすと思いましたか?
残念、そんなの願い下げです。こんなクソつまらない連中と一緒に過ごすとか、面白くなさすぎて、いつか自殺してしまうかもしれませんね。
ちなみにこの『エルフの秘術を盗んでやろう大作戦』は、誰にも話していません。それはアカネさんも、ヴィエラさんも同じです。なので彼女達は、私が馬鹿正直にエルフと大喧嘩してくると思っているでしょう。
ふっふっふっ、帰ったら「エルフの秘術を手に入れて来ましたよ」とドヤ顔で言ってやるんです。そしてその功績を讃え、一生分の休暇を手に入れてやります。
…………あれ。よくよく考えたら、結界の維持で休むことできないんじゃ────い、いいやっ、今は細かいことは考えないようにしましょう。うん、考えるのは後です。まずは潜入調査が第一ですよね。
──こいついっつもスパイやってんな。
というツッコミは現在受け付けていないので、もし言ってきたら『一日一回はタンスの角に小指をぶつける呪い』を掛けてやります。…………そんな呪いありませんけど。
「里に案内する。大人しくついてこい」
ダインさんは静かに告げ、森の中を歩いて行きます。私もそれに従い、私の後ろにはエルフが今も弓に手を掛けた状態で警戒中…………ほぼ連行に近い形で、私は里に案内されました。
──さて、まずは第一目標達成ですね。
相変わらずの森の中でしたが……何て言うんでしょう、空気が違うんですかね。とにかく、私が暴れていた森とは別の場所だという確信はありました。
きっと、ここがエルフの本拠地なのでしょう。
私がこうして侵入してから、周囲の木々がざわめき出したように思えます。多分、監視役のエルフが私の侵入を知り、ダインさん辺りに報告しているのでしょう。
それと、妙に監視されている気配もします。
「さて、と」
私はそれらを一切気にせず、とりあえず森の中を歩くことにしました。
……流石に、こんな敵地で眠るようなことはしませんよ。
…………ああ、でも、ここって結構良い空気なんですよね。エルフ以外は侵入不可能だから、魔力が安定しているのでしょうか。とても居心地が良いです。
……………………そう考えていたら、なんか、まぶたが重くなって、
『リーフィア……!』
「──っ、と、ええ、大丈夫です」
急に眠くなってしまい、おもむろに布団を取り出したところで、姿を隠しているウンディーネから注意が飛んできました。
い、いやだなぁ……そんな、寝るわけないじゃないですか。
『…………もうっ、ちゃんとしてね?』
「はいはい、わかりましたよ……っと……」
前方から、複数の反応がこちらに向かって近づいて来ます。
その中には見知った魔力反応が──これはダインさんの魔力です。
森に侵入してまだ4、5分と言ったところなのですが、流石はここを支配しているだけあって行動が早いですね。
私は一瞬にして囲まれました。
木の上に潜んでいる影は、合計10人。どれもが弓をつがえているようで、殺気が凄まじいです。
そして──
「なぜ、ここに居る」
少し遅れてダインさんが姿を現しました。
相変わらずの無表情。なんか懐かしいとさえ思ってしまいますね。……まぁ、できれば二度とその顔を拝みたくなかったんですけど、ここまで来てしまったらもう仕方ありません。
「どうもこんにちは、ダインさん」
私は優雅にお辞儀をしてみせました。
強者の威風を纏い、薄い笑みをこの顔に貼り付けます。
「……なぜ、ここに居るのだと聞いている」
「交渉に来てあげました」
「交渉だと?」
「ええ。魔王軍はエルフ族を『敵』として定めました。命乞いしますか?」
「…………奴らでは、我らエルフに手出しはできない」
「あら、私も魔王軍幹部です。……そして今、こうして侵入成功しているわけですが、そこはどうお考えで?」
「………………」
ダインさんは黙ってしまいました。
それはそうです。エルフが今まで傲慢にいれたのは、結界があるおかげで誰もエルフに手出しできなかったから。それが今、私の手によって覆されました。
そして魔王軍はエルフを敵と認識した。
私が今ここで暴れれば、誰も私を止めることはできません。
「ですが、流石にエルフ全てを相手にするのは面倒です。だからと言って魔王軍の兵力を投下すれば、こちらも無害では済まないでしょう」
──なので、交渉です。
「あなた方の望む魔女になってあげます。だから今後一切、魔王軍に手を出さない。魔族領に足を踏み入れないと誓ってください」
「もし、破ったら」
「命を捨てたいのであれば、どうぞお好きに」
「…………わかった。その条件、受け入れよう」
ダインさんの言葉に、周囲に潜むエルフが微かに動きました。まさか私からの言葉を受け入れるとは思っていなかったのでしょう。私への殺気が、若干濃くなりました。
「本当に、貴様は魔女になるというのだな?」
「ええ、あなた方が本当に約束を守ってくださるのであれば……ですがね」
そんなことをせず、この場で一方的に蹂躙したほうが圧倒的に早いですし、私も帰りやすくなります。それは私だって理解していますし、ちょっと面倒ですが、それが一番効率が良いです。ちょっと面倒ですが。
でも、わざわざ遠回りな手段を選ぶのは、理由があります。
私達はまだ、『エルフの秘術』をほとんど知りません。
認めるのは癪ですが、エルフの結界は素晴らしいと思います。我ら魔王軍が手に入れることができたら、とても楽になるでしょう。
幸か不幸か、私は『魔女』です。そして魔女が結界を維持していることは、ほぼ確実です。
今回の計画は、エルフの秘術を調べる絶好の機会。
魔女として色々知る合間に、秘術のことも調べれば、魔王軍にとっての利益は凄まじいものになる。そう考えた私は、このような回りくどい手段に出たというわけです。
…………素直に一生ここで魔女として過ごすと思いましたか?
残念、そんなの願い下げです。こんなクソつまらない連中と一緒に過ごすとか、面白くなさすぎて、いつか自殺してしまうかもしれませんね。
ちなみにこの『エルフの秘術を盗んでやろう大作戦』は、誰にも話していません。それはアカネさんも、ヴィエラさんも同じです。なので彼女達は、私が馬鹿正直にエルフと大喧嘩してくると思っているでしょう。
ふっふっふっ、帰ったら「エルフの秘術を手に入れて来ましたよ」とドヤ顔で言ってやるんです。そしてその功績を讃え、一生分の休暇を手に入れてやります。
…………あれ。よくよく考えたら、結界の維持で休むことできないんじゃ────い、いいやっ、今は細かいことは考えないようにしましょう。うん、考えるのは後です。まずは潜入調査が第一ですよね。
──こいついっつもスパイやってんな。
というツッコミは現在受け付けていないので、もし言ってきたら『一日一回はタンスの角に小指をぶつける呪い』を掛けてやります。…………そんな呪いありませんけど。
「里に案内する。大人しくついてこい」
ダインさんは静かに告げ、森の中を歩いて行きます。私もそれに従い、私の後ろにはエルフが今も弓に手を掛けた状態で警戒中…………ほぼ連行に近い形で、私は里に案内されました。
──さて、まずは第一目標達成ですね。
0
お気に入りに追加
1,619
あなたにおすすめの小説
異世界母さん〜母は最強(つよし)!肝っ玉母さんの異世界で世直し無双する〜
トンコツマンビックボディ
ファンタジー
馬場香澄49歳 専業主婦
ある日、香澄は買い物をしようと町まで出向いたんだが
突然現れた暴走トラック(高齢者ドライバー)から子供を助けようとして
子供の身代わりに車にはねられてしまう
このやってられない世界で
みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。
悪役令嬢・キーラになったらしいけど、
そのフラグは初っ端に折れてしまった。
主人公のヒロインをそっちのけの、
よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、
王子様に捕まってしまったキーラは
楽しく生き残ることができるのか。
【本編完結】転生隠者はまったり怠惰に暮らしたい(仮)
ひらえす
ファンタジー
後にリッカと名乗る者は、それなりに生きて、たぶん一度死んだ。そして、その人生の苦難の8割程度が、神の不手際による物だと告げられる。
そんな前世の反動なのか、本人的には怠惰でマイペースな異世界ライフを満喫するはず……が、しかし。自分に素直になって暮らしていこうとする主人公のズレっぷり故に引き起こされたり掘り起こされたり巻き込まれていったり、時には外から眺めてみたり…の物語になりつつあります。
※小説家になろう様、アルファポリス様、カクヨム様でほぼ同時投稿しています。
※残酷描写は保険です。
※誤字脱字多いと思います。教えてくださると助かります。
私の平穏ライフをお返しやがれください!!
瑠璃川翡翠
ファンタジー
主人公、アリア・ローゼリッタはとある少女漫画に出てくるモブキャラです
「なのに…なんで私の目の前に主要キャラがいるのでしょうか!?」
実はこのアリア…少女漫画を愛する前世社畜のOLだった。彼女が目指すのは原作を目に焼き付けつつ送る平穏ライフ!!の筈だったのだが…
前世の記憶を駆使してモブに徹する心算が原作には無いシーンばかりで混乱するアリア。そんなアリアのドタバタ胸キュン(仮)な平穏ライフを目指す物語、少し覗いてみませんか?
「私が目指すのはモブ!!そしてヒロインとキャラのイベントを拝むのです!!ってことだからこっち来んな下さい!!」
みんなで転生〜チートな従魔と普通の私でほのぼの異世界生活〜
ノデミチ
ファンタジー
西門 愛衣楽、19歳。花の短大生。
年明けの誕生日も近いのに、未だ就活中。
そんな彼女の癒しは3匹のペット達。
シベリアンハスキーのコロ。
カナリアのカナ。
キバラガメのキィ。
犬と小鳥は、元は父のペットだったけど、母が出て行ってから父は変わってしまった…。
ペットの世話もせず、それどころか働く意欲も失い酒に溺れて…。
挙句に無理心中しようとして家に火を付けて焼け死んで。
アイラもペット達も焼け死んでしまう。
それを不憫に思った異世界の神が、自らの世界へ招き入れる。せっかくだからとペット達も一緒に。
何故かペット達がチートな力を持って…。
アイラは只の幼女になって…。
そんな彼女達のほのぼの異世界生活。
テイマー物 第3弾。
カクヨムでも公開中。
神々の仲間入りしました。
ラキレスト
ファンタジー
日本の一般家庭に生まれ平凡に暮らしていた神田えいみ。これからも普通に平凡に暮らしていくと思っていたが、突然巻き込まれたトラブルによって世界は一変する。そこから始まる物語。
「私の娘として生まれ変わりませんか?」
「………、はいぃ!?」
女神の娘になり、兄弟姉妹達、周りの神達に溺愛されながら一人前の神になるべく学び、成長していく。
(ご都合主義展開が多々あります……それでも良ければ読んで下さい)
カクヨム様、小説家になろう様にも投稿しています。
モブ令嬢はモブとして生きる~周回を極めた私がこっそり国を救います!~
片海 鏡
ファンタジー
――――主人公の為に世界は回っていない。私はやりたい様にエンディングを目指す
RPG顔負けのやり込み要素満載な恋愛ゲーム《アルカディアの戦姫》の世界へと転生をした男爵令嬢《ミューゼリア》
最初はヒロインの行動を先読みしてラストバトルに備えようと思ったが、私は私だと自覚して大好きな家族を守る為にも違う方法を探そうと決心する。そんなある日、屋敷の敷地にある小さな泉から精霊が現れる。
ヒーロー候補との恋愛はしない。学園生活は行事を除くの全イベントガン無視。聖なるアイテムの捜索はヒロインにおまかせ。ダンジョン攻略よりも、生態調査。ヒロインとは違う行動をしてこそ、掴める勝利がある!
底辺召喚士の俺が召喚するのは何故かSSSランクばかりなんだが〜トンビが鷹を生みまくる物語〜
ああああ
ファンタジー
召喚士学校の卒業式を歴代最低点で迎えたウィルは、卒業記念召喚の際にSSSランクの魔王を召喚してしまう。
同級生との差を一気に広げたウィルは、様々なパーティーから誘われる事になった。
そこでウィルが悩みに悩んだ結果――
自分の召喚したモンスターだけでパーティーを作ることにしました。
この物語は、底辺召喚士がSSSランクの従僕と冒険したりスローライフを送ったりするものです。
【一話1000文字ほどで読めるようにしています】
召喚する話には、タイトルに☆が入っています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる