131 / 233
第2章
面倒な相手ですね
しおりを挟む
兵士にさらなる警備の強化を言い渡したアカネさんは、他にも様々なことをテキパキと伝えていました。
彼らに指示を出すのはディアスさんの仕事だと思っていたのですが、彼は終始完全に空気と化していたので、途中まで私も彼の存在を忘れていたのは内緒です。
とまぁ、そんなこんなあり、私達は魔王城に戻りました。
「……さて、どこから話そうか」
お茶を淹れ全員に配ったアカネさんは、それに口を付けてホッと一息つきました。
「我々魔王軍が、エルフに対して絶対に手を出せない。その情報が気になります」
魔王軍の力を過信しているわけではありませんが、それなりに様々なことはできると思っています。全ての種族を相手にしてなお、こうして平和に暮らしていられるのですから、基本不可能なことはないと思っていました。
ですが、アカネさんは『絶対に』と言いました。
絶対に、とは言葉通りの意味なのでしょう。彼女が適当な意味合いでそれを使うとは思えません。私はそのことについて考えましたが、やはり結論は出ませんでした。
だってあのエルフです。馬鹿で間抜けで呆れるほどの傲慢を持ち合わせた長耳が、魔王軍の勢力を以ってしても手出しできないなんて信じられません。
「ではリーフィアに質問じゃ。お主はエルフの居場所を知っているか?」
「は、いきなり何を──」
私はそこまで言って、その後の言葉が出ませんでした。
エルフが住むのは森です。
彼らは自然と共に生きる種族。私のように森を出て、旅に出たり人間の街に住むエルフのことを『はぐれエルフ』と呼称するくらい、エルフは森で住むことが当然とされています。
ですが、この世界に森はいくつも存在している。
探そうにも、かなりの労力が要るでしょう。
「実のところ、エルフの本拠地はすでに判明している」
「はぁ?」
「じゃが、エルフ達の居場所は掴めていない」
「はぁ?」
アカネさんの言っている意味がわからず、私は眉を歪めました。
本拠地は判明しているのに、居場所は掴めない。
──なんだその矛盾。
でも、アカネさんがふざけている様子はありません。
「どういう、意味ですか?」
「うむ。エルフの総本山とも言える場所は、とある結界で守られているのじゃ」
「結界、ですか」
「ああ、そうじゃ。部外者では決して到達し得ない強力な結界が、その森全てを包み込むように張られている」
「絶対に手を出せないとは、そういうことでしたか……」
アカネさんは神妙な面持ちで頷きました。
「でも、森ごと破壊してしまえばいいのではないですか? 森の中にあることはわかっているのですから、不意打ならば全滅させられると思うのですが…………その様子だと、無理っぽいですね」
私でも簡単に思いつくようなことは、すでに試しているのでしょう。
なのに今現在、エルフに何一つ手を出すことが叶わない。
その理由があるはずです。
「その森は、いわば『門』のようなものじゃ」
「ゲート……まさか、異次元の……とか言いませんよね?」
「そのまさかじゃな」
「おぉぅ、マジですか」
「残念ながら、マジじゃ」
異次元に繋がる結界。
その奥に、エルフの本拠地がある。
「一度、ミリアに協力してもらい、その森を全て焼き尽くしたのじゃが」
──ちょっと待ってください?
何か手出しはしたんだろうなぁと思ったら、まさかの全焼させていたんですか?
ミリアさん、絶対にノリノリで全焼させたに違いありません。だってウンディーネに森にあったエルフの集落を焼き払った時も、すっごく楽しそうにしていましたもん。
日々の鬱憤で溜まったものを暴走させ、「うはははははは!!!!!あははははははは!!!!!!」と高笑いしている姿が容易に想像できました。
「しかし、全焼させたその瞬間、まるで時間が巻き戻るかのように森が復活しおった。その際、奇妙な魔力を検知したのじゃ」
「それが結界による効果ということですね。でも、その森自体が『門』であるならば、森に侵入すれば繋がるのでは?」
「それも試してみたのじゃが……どうやら決まった道順を通らなければ、門に辿り着けないらしくてな。印も何も無かったもので、泣く泣く引き返したというわけじゃ」
森は結界で覆われ、住処は異次元に隠されている。しかも決まった道順を通らなければ辿り着けないと来ましたか……これは面倒ですね。
ただの馬鹿種族だと思っていましたが、まさかこんな隠し球を持っていたとは、予想外でした。
魔王軍も手出しできないというのは納得です。
エルフ達があそこまで傲慢な態度を取れる意味も、これでわかりました。
「では、エルフの後をつけるのはどうでしょう?」
「それもやった」
やったんかい。
「寸分の狂いもなく後を付けたのじゃが……なぜか入れなかった。どうやら許可も必要らしい」
「うっわ、めんどくさっ」
許可制とか、本当に面倒なことしかしませんね、あの馬鹿ども。
「となれば本当に手段がないじゃないですか」
「……うむ。じゃから我らは絶対に手を出せないのじゃ」
アカネさんは悔しそうに呻き、他の方々も同じように顔を俯かせました。
……みなさん、エルフに対してのヘイトが強いですねぇ。私も同じですけど。
「じゃが、残念な報告だけではない。エルフの調査で妾が立てた推測。それはリーフィア。お主にも大きく関係していることじゃ」
「はて、私に?」
アカネさんは「そうじゃ」と言い、視線を鋭くさせ──
「妾はこの結界が『エルフの秘術』、そして奴らが必要以上に執着する『魔女』に関係しているのではないかと、睨んでいる」
彼女の口から飛び出したのは、予想もしていない言葉だったのです。
彼らに指示を出すのはディアスさんの仕事だと思っていたのですが、彼は終始完全に空気と化していたので、途中まで私も彼の存在を忘れていたのは内緒です。
とまぁ、そんなこんなあり、私達は魔王城に戻りました。
「……さて、どこから話そうか」
お茶を淹れ全員に配ったアカネさんは、それに口を付けてホッと一息つきました。
「我々魔王軍が、エルフに対して絶対に手を出せない。その情報が気になります」
魔王軍の力を過信しているわけではありませんが、それなりに様々なことはできると思っています。全ての種族を相手にしてなお、こうして平和に暮らしていられるのですから、基本不可能なことはないと思っていました。
ですが、アカネさんは『絶対に』と言いました。
絶対に、とは言葉通りの意味なのでしょう。彼女が適当な意味合いでそれを使うとは思えません。私はそのことについて考えましたが、やはり結論は出ませんでした。
だってあのエルフです。馬鹿で間抜けで呆れるほどの傲慢を持ち合わせた長耳が、魔王軍の勢力を以ってしても手出しできないなんて信じられません。
「ではリーフィアに質問じゃ。お主はエルフの居場所を知っているか?」
「は、いきなり何を──」
私はそこまで言って、その後の言葉が出ませんでした。
エルフが住むのは森です。
彼らは自然と共に生きる種族。私のように森を出て、旅に出たり人間の街に住むエルフのことを『はぐれエルフ』と呼称するくらい、エルフは森で住むことが当然とされています。
ですが、この世界に森はいくつも存在している。
探そうにも、かなりの労力が要るでしょう。
「実のところ、エルフの本拠地はすでに判明している」
「はぁ?」
「じゃが、エルフ達の居場所は掴めていない」
「はぁ?」
アカネさんの言っている意味がわからず、私は眉を歪めました。
本拠地は判明しているのに、居場所は掴めない。
──なんだその矛盾。
でも、アカネさんがふざけている様子はありません。
「どういう、意味ですか?」
「うむ。エルフの総本山とも言える場所は、とある結界で守られているのじゃ」
「結界、ですか」
「ああ、そうじゃ。部外者では決して到達し得ない強力な結界が、その森全てを包み込むように張られている」
「絶対に手を出せないとは、そういうことでしたか……」
アカネさんは神妙な面持ちで頷きました。
「でも、森ごと破壊してしまえばいいのではないですか? 森の中にあることはわかっているのですから、不意打ならば全滅させられると思うのですが…………その様子だと、無理っぽいですね」
私でも簡単に思いつくようなことは、すでに試しているのでしょう。
なのに今現在、エルフに何一つ手を出すことが叶わない。
その理由があるはずです。
「その森は、いわば『門』のようなものじゃ」
「ゲート……まさか、異次元の……とか言いませんよね?」
「そのまさかじゃな」
「おぉぅ、マジですか」
「残念ながら、マジじゃ」
異次元に繋がる結界。
その奥に、エルフの本拠地がある。
「一度、ミリアに協力してもらい、その森を全て焼き尽くしたのじゃが」
──ちょっと待ってください?
何か手出しはしたんだろうなぁと思ったら、まさかの全焼させていたんですか?
ミリアさん、絶対にノリノリで全焼させたに違いありません。だってウンディーネに森にあったエルフの集落を焼き払った時も、すっごく楽しそうにしていましたもん。
日々の鬱憤で溜まったものを暴走させ、「うはははははは!!!!!あははははははは!!!!!!」と高笑いしている姿が容易に想像できました。
「しかし、全焼させたその瞬間、まるで時間が巻き戻るかのように森が復活しおった。その際、奇妙な魔力を検知したのじゃ」
「それが結界による効果ということですね。でも、その森自体が『門』であるならば、森に侵入すれば繋がるのでは?」
「それも試してみたのじゃが……どうやら決まった道順を通らなければ、門に辿り着けないらしくてな。印も何も無かったもので、泣く泣く引き返したというわけじゃ」
森は結界で覆われ、住処は異次元に隠されている。しかも決まった道順を通らなければ辿り着けないと来ましたか……これは面倒ですね。
ただの馬鹿種族だと思っていましたが、まさかこんな隠し球を持っていたとは、予想外でした。
魔王軍も手出しできないというのは納得です。
エルフ達があそこまで傲慢な態度を取れる意味も、これでわかりました。
「では、エルフの後をつけるのはどうでしょう?」
「それもやった」
やったんかい。
「寸分の狂いもなく後を付けたのじゃが……なぜか入れなかった。どうやら許可も必要らしい」
「うっわ、めんどくさっ」
許可制とか、本当に面倒なことしかしませんね、あの馬鹿ども。
「となれば本当に手段がないじゃないですか」
「……うむ。じゃから我らは絶対に手を出せないのじゃ」
アカネさんは悔しそうに呻き、他の方々も同じように顔を俯かせました。
……みなさん、エルフに対してのヘイトが強いですねぇ。私も同じですけど。
「じゃが、残念な報告だけではない。エルフの調査で妾が立てた推測。それはリーフィア。お主にも大きく関係していることじゃ」
「はて、私に?」
アカネさんは「そうじゃ」と言い、視線を鋭くさせ──
「妾はこの結界が『エルフの秘術』、そして奴らが必要以上に執着する『魔女』に関係しているのではないかと、睨んでいる」
彼女の口から飛び出したのは、予想もしていない言葉だったのです。
0
お気に入りに追加
1,624
あなたにおすすめの小説

このやってられない世界で
みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。
悪役令嬢・キーラになったらしいけど、
そのフラグは初っ端に折れてしまった。
主人公のヒロインをそっちのけの、
よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、
王子様に捕まってしまったキーラは
楽しく生き残ることができるのか。

伯爵家の三男は冒険者を目指す!
おとうふ
ファンタジー
2024年8月、更新再開しました!
佐藤良太はとある高校に通う極普通の高校生である。いつものように彼女の伶奈と一緒に歩いて下校していたところ、信号無視のトラックが猛スピードで突っ込んで来るのが見えた。良太は咄嗟に彼女を突き飛ばしたが、彼は迫り来るトラックを前に為すすべも無く、あっけなくこの世を去った。
彼が最後に見たものは、驚愕した表情で自分を見る彼女と、完全にキメているとしか思えない、トラックの運転手の異常な目だった...
(...伶奈、ごめん...)
異世界に転生した良太は、とりあえず父の勧める通りに冒険者を目指すこととなる。学校での出会いや、地球では体験したことのない様々な出来事が彼を待っている。
初めて投稿する作品ですので、温かい目で見ていただければ幸いです。
誤字・脱字やおかしな表現や展開など、指摘があれば遠慮なくお願い致します。
1話1話はとても短くなっていますので、サクサク読めるかなと思います。

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎
アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。
この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。
ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。
少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。
更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。
そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。
少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。
どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。
少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。
冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。
すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く…
果たして、その可能性とは⁉
HOTランキングは、最高は2位でした。
皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°.
でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)
音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。
魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。
だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。
見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。
「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

プラス的 異世界の過ごし方
seo
ファンタジー
日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。
呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。
乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。
#不定期更新 #物語の進み具合のんびり
#カクヨムさんでも掲載しています

1人生活なので自由な生き方を謳歌する
さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。
出来損ないと家族から追い出された。
唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。
これからはひとりで生きていかなくては。
そんな少女も実は、、、
1人の方が気楽に出来るしラッキー
これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる