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第2章
面倒な相手ですね
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兵士にさらなる警備の強化を言い渡したアカネさんは、他にも様々なことをテキパキと伝えていました。
彼らに指示を出すのはディアスさんの仕事だと思っていたのですが、彼は終始完全に空気と化していたので、途中まで私も彼の存在を忘れていたのは内緒です。
とまぁ、そんなこんなあり、私達は魔王城に戻りました。
「……さて、どこから話そうか」
お茶を淹れ全員に配ったアカネさんは、それに口を付けてホッと一息つきました。
「我々魔王軍が、エルフに対して絶対に手を出せない。その情報が気になります」
魔王軍の力を過信しているわけではありませんが、それなりに様々なことはできると思っています。全ての種族を相手にしてなお、こうして平和に暮らしていられるのですから、基本不可能なことはないと思っていました。
ですが、アカネさんは『絶対に』と言いました。
絶対に、とは言葉通りの意味なのでしょう。彼女が適当な意味合いでそれを使うとは思えません。私はそのことについて考えましたが、やはり結論は出ませんでした。
だってあのエルフです。馬鹿で間抜けで呆れるほどの傲慢を持ち合わせた長耳が、魔王軍の勢力を以ってしても手出しできないなんて信じられません。
「ではリーフィアに質問じゃ。お主はエルフの居場所を知っているか?」
「は、いきなり何を──」
私はそこまで言って、その後の言葉が出ませんでした。
エルフが住むのは森です。
彼らは自然と共に生きる種族。私のように森を出て、旅に出たり人間の街に住むエルフのことを『はぐれエルフ』と呼称するくらい、エルフは森で住むことが当然とされています。
ですが、この世界に森はいくつも存在している。
探そうにも、かなりの労力が要るでしょう。
「実のところ、エルフの本拠地はすでに判明している」
「はぁ?」
「じゃが、エルフ達の居場所は掴めていない」
「はぁ?」
アカネさんの言っている意味がわからず、私は眉を歪めました。
本拠地は判明しているのに、居場所は掴めない。
──なんだその矛盾。
でも、アカネさんがふざけている様子はありません。
「どういう、意味ですか?」
「うむ。エルフの総本山とも言える場所は、とある結界で守られているのじゃ」
「結界、ですか」
「ああ、そうじゃ。部外者では決して到達し得ない強力な結界が、その森全てを包み込むように張られている」
「絶対に手を出せないとは、そういうことでしたか……」
アカネさんは神妙な面持ちで頷きました。
「でも、森ごと破壊してしまえばいいのではないですか? 森の中にあることはわかっているのですから、不意打ならば全滅させられると思うのですが…………その様子だと、無理っぽいですね」
私でも簡単に思いつくようなことは、すでに試しているのでしょう。
なのに今現在、エルフに何一つ手を出すことが叶わない。
その理由があるはずです。
「その森は、いわば『門』のようなものじゃ」
「ゲート……まさか、異次元の……とか言いませんよね?」
「そのまさかじゃな」
「おぉぅ、マジですか」
「残念ながら、マジじゃ」
異次元に繋がる結界。
その奥に、エルフの本拠地がある。
「一度、ミリアに協力してもらい、その森を全て焼き尽くしたのじゃが」
──ちょっと待ってください?
何か手出しはしたんだろうなぁと思ったら、まさかの全焼させていたんですか?
ミリアさん、絶対にノリノリで全焼させたに違いありません。だってウンディーネに森にあったエルフの集落を焼き払った時も、すっごく楽しそうにしていましたもん。
日々の鬱憤で溜まったものを暴走させ、「うはははははは!!!!!あははははははは!!!!!!」と高笑いしている姿が容易に想像できました。
「しかし、全焼させたその瞬間、まるで時間が巻き戻るかのように森が復活しおった。その際、奇妙な魔力を検知したのじゃ」
「それが結界による効果ということですね。でも、その森自体が『門』であるならば、森に侵入すれば繋がるのでは?」
「それも試してみたのじゃが……どうやら決まった道順を通らなければ、門に辿り着けないらしくてな。印も何も無かったもので、泣く泣く引き返したというわけじゃ」
森は結界で覆われ、住処は異次元に隠されている。しかも決まった道順を通らなければ辿り着けないと来ましたか……これは面倒ですね。
ただの馬鹿種族だと思っていましたが、まさかこんな隠し球を持っていたとは、予想外でした。
魔王軍も手出しできないというのは納得です。
エルフ達があそこまで傲慢な態度を取れる意味も、これでわかりました。
「では、エルフの後をつけるのはどうでしょう?」
「それもやった」
やったんかい。
「寸分の狂いもなく後を付けたのじゃが……なぜか入れなかった。どうやら許可も必要らしい」
「うっわ、めんどくさっ」
許可制とか、本当に面倒なことしかしませんね、あの馬鹿ども。
「となれば本当に手段がないじゃないですか」
「……うむ。じゃから我らは絶対に手を出せないのじゃ」
アカネさんは悔しそうに呻き、他の方々も同じように顔を俯かせました。
……みなさん、エルフに対してのヘイトが強いですねぇ。私も同じですけど。
「じゃが、残念な報告だけではない。エルフの調査で妾が立てた推測。それはリーフィア。お主にも大きく関係していることじゃ」
「はて、私に?」
アカネさんは「そうじゃ」と言い、視線を鋭くさせ──
「妾はこの結界が『エルフの秘術』、そして奴らが必要以上に執着する『魔女』に関係しているのではないかと、睨んでいる」
彼女の口から飛び出したのは、予想もしていない言葉だったのです。
彼らに指示を出すのはディアスさんの仕事だと思っていたのですが、彼は終始完全に空気と化していたので、途中まで私も彼の存在を忘れていたのは内緒です。
とまぁ、そんなこんなあり、私達は魔王城に戻りました。
「……さて、どこから話そうか」
お茶を淹れ全員に配ったアカネさんは、それに口を付けてホッと一息つきました。
「我々魔王軍が、エルフに対して絶対に手を出せない。その情報が気になります」
魔王軍の力を過信しているわけではありませんが、それなりに様々なことはできると思っています。全ての種族を相手にしてなお、こうして平和に暮らしていられるのですから、基本不可能なことはないと思っていました。
ですが、アカネさんは『絶対に』と言いました。
絶対に、とは言葉通りの意味なのでしょう。彼女が適当な意味合いでそれを使うとは思えません。私はそのことについて考えましたが、やはり結論は出ませんでした。
だってあのエルフです。馬鹿で間抜けで呆れるほどの傲慢を持ち合わせた長耳が、魔王軍の勢力を以ってしても手出しできないなんて信じられません。
「ではリーフィアに質問じゃ。お主はエルフの居場所を知っているか?」
「は、いきなり何を──」
私はそこまで言って、その後の言葉が出ませんでした。
エルフが住むのは森です。
彼らは自然と共に生きる種族。私のように森を出て、旅に出たり人間の街に住むエルフのことを『はぐれエルフ』と呼称するくらい、エルフは森で住むことが当然とされています。
ですが、この世界に森はいくつも存在している。
探そうにも、かなりの労力が要るでしょう。
「実のところ、エルフの本拠地はすでに判明している」
「はぁ?」
「じゃが、エルフ達の居場所は掴めていない」
「はぁ?」
アカネさんの言っている意味がわからず、私は眉を歪めました。
本拠地は判明しているのに、居場所は掴めない。
──なんだその矛盾。
でも、アカネさんがふざけている様子はありません。
「どういう、意味ですか?」
「うむ。エルフの総本山とも言える場所は、とある結界で守られているのじゃ」
「結界、ですか」
「ああ、そうじゃ。部外者では決して到達し得ない強力な結界が、その森全てを包み込むように張られている」
「絶対に手を出せないとは、そういうことでしたか……」
アカネさんは神妙な面持ちで頷きました。
「でも、森ごと破壊してしまえばいいのではないですか? 森の中にあることはわかっているのですから、不意打ならば全滅させられると思うのですが…………その様子だと、無理っぽいですね」
私でも簡単に思いつくようなことは、すでに試しているのでしょう。
なのに今現在、エルフに何一つ手を出すことが叶わない。
その理由があるはずです。
「その森は、いわば『門』のようなものじゃ」
「ゲート……まさか、異次元の……とか言いませんよね?」
「そのまさかじゃな」
「おぉぅ、マジですか」
「残念ながら、マジじゃ」
異次元に繋がる結界。
その奥に、エルフの本拠地がある。
「一度、ミリアに協力してもらい、その森を全て焼き尽くしたのじゃが」
──ちょっと待ってください?
何か手出しはしたんだろうなぁと思ったら、まさかの全焼させていたんですか?
ミリアさん、絶対にノリノリで全焼させたに違いありません。だってウンディーネに森にあったエルフの集落を焼き払った時も、すっごく楽しそうにしていましたもん。
日々の鬱憤で溜まったものを暴走させ、「うはははははは!!!!!あははははははは!!!!!!」と高笑いしている姿が容易に想像できました。
「しかし、全焼させたその瞬間、まるで時間が巻き戻るかのように森が復活しおった。その際、奇妙な魔力を検知したのじゃ」
「それが結界による効果ということですね。でも、その森自体が『門』であるならば、森に侵入すれば繋がるのでは?」
「それも試してみたのじゃが……どうやら決まった道順を通らなければ、門に辿り着けないらしくてな。印も何も無かったもので、泣く泣く引き返したというわけじゃ」
森は結界で覆われ、住処は異次元に隠されている。しかも決まった道順を通らなければ辿り着けないと来ましたか……これは面倒ですね。
ただの馬鹿種族だと思っていましたが、まさかこんな隠し球を持っていたとは、予想外でした。
魔王軍も手出しできないというのは納得です。
エルフ達があそこまで傲慢な態度を取れる意味も、これでわかりました。
「では、エルフの後をつけるのはどうでしょう?」
「それもやった」
やったんかい。
「寸分の狂いもなく後を付けたのじゃが……なぜか入れなかった。どうやら許可も必要らしい」
「うっわ、めんどくさっ」
許可制とか、本当に面倒なことしかしませんね、あの馬鹿ども。
「となれば本当に手段がないじゃないですか」
「……うむ。じゃから我らは絶対に手を出せないのじゃ」
アカネさんは悔しそうに呻き、他の方々も同じように顔を俯かせました。
……みなさん、エルフに対してのヘイトが強いですねぇ。私も同じですけど。
「じゃが、残念な報告だけではない。エルフの調査で妾が立てた推測。それはリーフィア。お主にも大きく関係していることじゃ」
「はて、私に?」
アカネさんは「そうじゃ」と言い、視線を鋭くさせ──
「妾はこの結界が『エルフの秘術』、そして奴らが必要以上に執着する『魔女』に関係しているのではないかと、睨んでいる」
彼女の口から飛び出したのは、予想もしていない言葉だったのです。
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