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第2章
お婆ちゃんと孫です
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「トレードを申し込みます!」
と、そう言ったはずなのですが、気がつけば私はソファに座らされ、美味しい紅茶を楽しんでいました。
あれよあれよという間にアカネさんに絆され、ヴィエラさんに紅茶を出され、ディアスさんに事の顛末を話していたら、こうなっていました。
…………うむむ、魔王幹部恐ろしい。
「で、ミリア様が馬鹿言ってリーフィアはそれに怒ったと」
「怒ったというよりは、プッツンした。という感じですかね」
「同じ意味だと思うが、まぁ何となく状況は理解した」
「うむっ! 大変だった──だらぶし!!???」
ディアスさんに説明が終わり、一呼吸の束の間、いつの間にか横にちょこんと鎮座していたミリアさんの脳天にチョップをかまします。
「まさかリーフィアに向かって『まだ仕事しているのか』と言うなんて……ミリア様は命が惜しくないのですか?」
「待ってください。流石にそこまで過激じゃありませんよ?」
「ダメですよ、ミリア様。リーフィアは一番面倒なのですから、地雷だけは踏まないようにしないと」
「あ、これ聞いてませんね……って、なんですと?」
ヴィエラさんもこちらが大人しくしていれば、好き勝手言うようになりましたね。
「ほれ、ウンディーネ。飴をやろう」
『わぁ……! ありがとう!』
「うむうむ。喜んでくれたのなら、妾も嬉しいぞ。美味しいか?」
『うんっ! 美味しい!』
「そうかそうか。お口にあったようで何よりじゃ」
部屋の端の方では、鬼と精霊という奇妙な組み合わせの二人が、和やかなムードを醸し出していました。
あの一件以来、アカネさんは事あるごとにウンディーネにお菓子をあげています。それが嬉しいのが、ウンディーネも花が咲いたように笑顔になるので、二人を見ている私も癒されます。
……でもあれ、完全にお婆ちゃんと孫ですよね。
ウンディーネは私のものだという気持ちはあるので、だれかと話していると嫉妬をしそうになるのですが……不思議とアカネさんとウンディーネが話している時だけはそういう気持ちがありません。
むしろ微笑ましいと思ってしまうので、やはりアカネさんのお婆ちゃん属性が凄まじいのでしょう。
──と、二人のことは放っておきましょう。
「それで、トレードの件ですが」
「私としては、我慢して欲しいかな」
ヴィエラさんは苦笑します。
「リーフィアは護衛だからさ。ミリア様と共に居ると自然と『護衛』の任が付いてくるのは仕方ない。でも、今は護衛よりも三人行動を優先してもらいたい。他の面倒事はこっちで処理するから、そこは我慢してもらえないかな?」
本当にうざくなったら、そこら辺に転がしてもいいからさと、ヴィエラさんも従者らしくない言葉を言いました。
実際のところ、すでに何度も転がしているのは、この際内緒にしておきましょう。
執務室に入ってきたと同時にぶん投げたので、今更隠しても意味はなさそうですけどね。
「ミリア様も反省してください」
「だ、だが……!」
「言い訳は無用。リーフィアに構って欲しいからって、馬鹿にするのはむしろ逆効果です」
「なっ!? 構って欲しいなんて……別に……」
「では、リーフィアの言う通りトレードをしますか?」
「嫌だ! リーフィアと離れるのは嫌だ!」
ミリアさんは何度も「嫌だ」と言います。
そこまで必死になるのであれば、いっそのこと素直になればいいのに……と思います。でも、それは私が言うべきではないのでしょう。
ここはお母さ──げふんげふん。
ここはヴィエラさんに任せ、私は傍観に徹します。
「リーフィアと離れたくないのであれば、必要以上に挑発しないことです。彼女は確かにぶっきらぼうで適当ですが、それでも怒ることはあるのですよ?」
おっとぉ? 傍観に徹した瞬間、暴言にも捉えられるような言葉が飛び出しましたよ?
ヴィエラさんは正直者なので、嘘は言えない性格です。そのおかげか、そのせいなのか、彼女の言葉がより深く私に突き刺さるのですが…………チラッ。
『あのね、昨日ね。リーフィアと一緒に街で遊んだの』
「おお、そうなのか」
『欲しいものいっぱい買ってくれて、とっても嬉しくて……!』
「リーフィアは優しいのじゃな」
『そうなのっ…………でも、貰ってばかりだから申し訳なくて……』
「あやつも、感謝されたいと思っているわけではないのじゃろう。それでも感謝しているのであれば、ずっと側で支えてやれ」
『うんっ! うちがリーフィアを幸せにするんだもん!』
「ははっ! その意気じゃ!」
……あ~、和みますねぇ。
チクチクと突き刺さる痛みも、二人の会話を聞いているだけで無効化されます。
「ほら、わかったら。謝ることです」
「う、うぅ……すまん」
「私にではなく、リーフィアに言ってください」
ミリアさんは私に向き直ります。
「すまなかった」
案外、素直に謝るのですね。
それだけ私と離れるのが嫌だった。ということでしょうか?
でも、ちゃんと反省して謝るのであれば、私もこれ以上怒りはしません。
「ええ、許してあげます。私は寛大ですからね」
と、そう言ったはずなのですが、気がつけば私はソファに座らされ、美味しい紅茶を楽しんでいました。
あれよあれよという間にアカネさんに絆され、ヴィエラさんに紅茶を出され、ディアスさんに事の顛末を話していたら、こうなっていました。
…………うむむ、魔王幹部恐ろしい。
「で、ミリア様が馬鹿言ってリーフィアはそれに怒ったと」
「怒ったというよりは、プッツンした。という感じですかね」
「同じ意味だと思うが、まぁ何となく状況は理解した」
「うむっ! 大変だった──だらぶし!!???」
ディアスさんに説明が終わり、一呼吸の束の間、いつの間にか横にちょこんと鎮座していたミリアさんの脳天にチョップをかまします。
「まさかリーフィアに向かって『まだ仕事しているのか』と言うなんて……ミリア様は命が惜しくないのですか?」
「待ってください。流石にそこまで過激じゃありませんよ?」
「ダメですよ、ミリア様。リーフィアは一番面倒なのですから、地雷だけは踏まないようにしないと」
「あ、これ聞いてませんね……って、なんですと?」
ヴィエラさんもこちらが大人しくしていれば、好き勝手言うようになりましたね。
「ほれ、ウンディーネ。飴をやろう」
『わぁ……! ありがとう!』
「うむうむ。喜んでくれたのなら、妾も嬉しいぞ。美味しいか?」
『うんっ! 美味しい!』
「そうかそうか。お口にあったようで何よりじゃ」
部屋の端の方では、鬼と精霊という奇妙な組み合わせの二人が、和やかなムードを醸し出していました。
あの一件以来、アカネさんは事あるごとにウンディーネにお菓子をあげています。それが嬉しいのが、ウンディーネも花が咲いたように笑顔になるので、二人を見ている私も癒されます。
……でもあれ、完全にお婆ちゃんと孫ですよね。
ウンディーネは私のものだという気持ちはあるので、だれかと話していると嫉妬をしそうになるのですが……不思議とアカネさんとウンディーネが話している時だけはそういう気持ちがありません。
むしろ微笑ましいと思ってしまうので、やはりアカネさんのお婆ちゃん属性が凄まじいのでしょう。
──と、二人のことは放っておきましょう。
「それで、トレードの件ですが」
「私としては、我慢して欲しいかな」
ヴィエラさんは苦笑します。
「リーフィアは護衛だからさ。ミリア様と共に居ると自然と『護衛』の任が付いてくるのは仕方ない。でも、今は護衛よりも三人行動を優先してもらいたい。他の面倒事はこっちで処理するから、そこは我慢してもらえないかな?」
本当にうざくなったら、そこら辺に転がしてもいいからさと、ヴィエラさんも従者らしくない言葉を言いました。
実際のところ、すでに何度も転がしているのは、この際内緒にしておきましょう。
執務室に入ってきたと同時にぶん投げたので、今更隠しても意味はなさそうですけどね。
「ミリア様も反省してください」
「だ、だが……!」
「言い訳は無用。リーフィアに構って欲しいからって、馬鹿にするのはむしろ逆効果です」
「なっ!? 構って欲しいなんて……別に……」
「では、リーフィアの言う通りトレードをしますか?」
「嫌だ! リーフィアと離れるのは嫌だ!」
ミリアさんは何度も「嫌だ」と言います。
そこまで必死になるのであれば、いっそのこと素直になればいいのに……と思います。でも、それは私が言うべきではないのでしょう。
ここはお母さ──げふんげふん。
ここはヴィエラさんに任せ、私は傍観に徹します。
「リーフィアと離れたくないのであれば、必要以上に挑発しないことです。彼女は確かにぶっきらぼうで適当ですが、それでも怒ることはあるのですよ?」
おっとぉ? 傍観に徹した瞬間、暴言にも捉えられるような言葉が飛び出しましたよ?
ヴィエラさんは正直者なので、嘘は言えない性格です。そのおかげか、そのせいなのか、彼女の言葉がより深く私に突き刺さるのですが…………チラッ。
『あのね、昨日ね。リーフィアと一緒に街で遊んだの』
「おお、そうなのか」
『欲しいものいっぱい買ってくれて、とっても嬉しくて……!』
「リーフィアは優しいのじゃな」
『そうなのっ…………でも、貰ってばかりだから申し訳なくて……』
「あやつも、感謝されたいと思っているわけではないのじゃろう。それでも感謝しているのであれば、ずっと側で支えてやれ」
『うんっ! うちがリーフィアを幸せにするんだもん!』
「ははっ! その意気じゃ!」
……あ~、和みますねぇ。
チクチクと突き刺さる痛みも、二人の会話を聞いているだけで無効化されます。
「ほら、わかったら。謝ることです」
「う、うぅ……すまん」
「私にではなく、リーフィアに言ってください」
ミリアさんは私に向き直ります。
「すまなかった」
案外、素直に謝るのですね。
それだけ私と離れるのが嫌だった。ということでしょうか?
でも、ちゃんと反省して謝るのであれば、私もこれ以上怒りはしません。
「ええ、許してあげます。私は寛大ですからね」
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