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第2章

執務室での出来事です

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「おうよく来た──って、何をしているのだ?」

 執務室に入った私達に、ミリアさんが半眼でツッコミを入れました。

 私はあの後一度も降ろしてもらえませんでした。
 どうして降ろしてくれないのかと尋ねたところ、自由にした瞬間に逃げ出したという前科があるため、その用心だと答えられました。

 おそらく、私がヴィエラさんから逃げ出し、魔王城で追いかけっこを繰り広げた時のことを言っているのでしょう。
 あの時は普通に面倒だったので逃げ出したのですが、今は状況が違います。だから逃げることはしないと抗議したのですが、全く聞き入れてもらえませんでした。

 どうやら、まだ信頼されていないようですね……と、私は潔く諦めたのでした。

 でも────

「あっはははっ! 馬鹿みたいな格好だな、えぇ? おいリーフィア。プークスクス!」

 ──イラッ。

「お前は逃げ足だけは速いからな! 一生そのまま担がれているがいいわ! ぎゃははははんぎゃぁ!?」

 『マジックウェポン』で作り出したパチンコ玉を、腰に手を当て大爆笑するミリアさんの眉間に狙い撃ちます。私の『弓術』は遠距離武器の全てに影響されるらしく、鉄の球体は吸い込まれるように彼女の眉間に当たりました。

「痛いだろう!?」

「人を馬鹿にするから、バチが当たったんですよ」

 ミリアさんの眉間は、パチンコ玉が当たった部分だけ赤く染まっていました。

「ププッ、可愛らしいですよ?」

「うるさい! お前な! そうやって余に暴力を振るっていいと思って──」

「二人とも、うるさい」

「「ゴフッ!」」

 私とミリアさんの脳天に拳骨が降ってきました。
 並んで地面にうずくまり、私達は頭を抱えて悶絶します。

「二人とも、客人の前だと言うことを忘れていないかい?」

 拳骨の犯人は、ヴィエラさんでした。
 顔はニコニコしていますが、目だけは笑っていません。

 それが怖さを引き立て、ミリアさんは「ヒッ」と悲鳴を漏らしました。私はまだ大人のプライドがあるので悲鳴は漏らしませんでしたが、気持ちは彼女と同じです。

 今すぐに逃げ出したいのは山々ですが、アカネさんが扉の前に立ちはだかっているので、逃げることは難しいでしょう。

 こういう時にウンディーネが庇ってくれると嬉しいのですが、やはり彼女もヴィエラさんに逆らうことはしたくないのか、心配そうにこちらを見るだけで何も言ってきません。

 助けてと視線を向けても、サッと逸らされます。
 私、悲しいです。

「リーフィア? 私の話、聞いているのかい?」

 ……やばい、考え事をしていて全く聞いていませんでした。

「その様子だと、聞いていなかったようだね」

 ヴィエラさんの拳が、ギュッと握られました。
 私は慌てて手を振り、無抵抗を示します。

「ヴィ、ヴィエラさん? お客様の前です。暴力はいけませんよ?」

「わかっているさ。これ以上馬鹿をやらない限り、私の拳は降らない。それを理解してくれると助かるよ」

 私達は、揃ってコクコクと頷きます。

 やはりヴィエラさんにだけは逆らってはいけない。
 そう再確認した瞬間なのでした。

「さて、我らの主人と仲間が失礼した。ようこそ、勇者コタニ」

「あ、ああ……うん。お邪魔しています。あなたは、ヴィエラさん……でいいのかな?」

「さん呼びは必要ないのだが、リーフィアから聞いている話だと、君は誰にでも遠慮する性格のようだ。無理して言い方を変える必要はない。好きに呼んでくれ。私達は、親しくなるような仲でもないしね」

 ヴィエラさんと古谷さんは握手を交わします。

「おお、ヴィエラさんが魔王以上に魔王しています」

「なんだろう。余、いらない気がしてきた」

「それは元からわかっていました」

「なんだとぅ!?」

「──ミリア様ぁ?」

「な、なんでもないぞ!」

 どうやら、私達に発言権は無いようです。
 ミリアさんを引き連れ、『アイテムボックス』から取り出したベッドに寝そべります。

 そのことにヴィエラさんは文句を言いたげに見つめ、古谷さんは「リーフィアさんは相変わらずだね」と静かに呟いていましたが、私は部外者なので完全無視を決め込みます。

 ミリアさんは最初だけ抵抗……というより混乱を見せましたが、すぐに大人しくなりました。

「くくく、リーフィアらしい態度じゃな」

「古谷さんをここに呼んだのは、世間話するわけじゃないでしょう? 私は難しい話は面倒ですし、ミリアさんはそれ以前の問題です」

「おいこら」

「なので、面倒な話は皆さんに任せます」

 というか、ずっと動いていたので普通に疲れていました。

「……まぁ、リーフィアには無理をさせた。ここは妾達に任せ、ゆっくり休むといい」

「はい。そうしますぅ……」

 私がミリアさんを抱き枕にして横になったら、背中に冷たい感触を覚えました。首だけを回して振り向くと、ウンディーネが静かに寄り添っていました。

『うちも、リーフィアと寝る』

「……はい、一緒に寝ましょう」

 ミリアさんは左腕、ウンディーネは右腕。両手に花状態です。

「…………んん、視線を感じます」

 その方向を向けば、古谷さんが物珍しそうにこちらを見ていました。

「なんですか。ウンディーネは勿論、ミリアさんは私専用の抱き枕なのであげませんよ」

「おいこら」

「……いや、別に欲しいとは思っていないよ」

 古谷さんは首を振り、苦笑しました。

「なんです。ウンディーネに魅力がないと──」

「そのくだりはもういいから!」
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