上 下
110 / 233
第2章

帰ってきました

しおりを挟む
「リーーーーーフィアァアア!」

「あらよっと」

「アアァアアアうぉあぁああああ!??!???」

 馬車を降りたと同時に突撃してきた小さな影。
 私はその人を見ることなく、身を翻して衝突を避けます。

 そのすぐ後に私の横を何かが通り過ぎて、馬車の中にダイブ。戻って来る前に扉を閉め、鍵を掛けました。

「おい! 開けろ! 開けろぉおおおおお!」

 ──ドンドンッ! と内側から扉が叩かれます。

 その勢いに馬車の持ち主である行者の方がビクビクしていますが、流石のお子様でもそこまでのことはしないでしょう。……多分。

 でも、このまま放置は後々に面倒なことになりそうですし、行者も可哀想です。

「あらミリアさん。そんなところに居たんですか?」

「お前っ! 折角の登場シーンを台無しにしたな!?」

「台無しにしたって……そこまで良い登場でもなかったと思いますが?」

「細かいことを気にしたら負けだぞ!」

「あっ、はい」

 細かいことではないと思いますが、ミリアさんがそう言うのであれば、そういうことにしておきましょう。

 それに、まずは挨拶しなければなりませんからね。

「ミリアさん。以前にもお会いしたと思いますが、古谷さんです」

「お久しぶりです。古谷幸樹です」

「うむっ! リーフィアから話は聞いている。我が配下、ディアスを助けてくれたらしいな。魔王として感謝するぞ!」

「いや、当然のことをしたまでです。それに、魔王に感謝されるのは気持ち的に複雑です」

「余とお前は、魔王と勇者。対等な立場である。そう畏まらなくても良い」

「そうかい? それじゃあ、お言葉に甘えようかな」

 立って話すのも何だということで、私達は移動することになりました。
 古谷さんを客室に案内した私達は、彼に一旦待っていただくように言ってから、執務室に集まりました。

 中にいるのは私とウンディーネ、ミリアさん、ヴィエラさん、ディアスさん、アカネさんの六人。

「まずは、心配かけて申し訳ねぇ」

「助かった。感謝する。リーフィア。そしてウンディーネよ」

 ディアスさんとアカネさんの二人は頭を下げ、私達に感謝の言葉を述べました。

「いえいえ、お二人が無事で安心しました」

『間一髪間に合って、本当に良かった……』

 私達は感謝の言葉を望んでいませんでした。
 味方を助けるのは当然のことであり、それに対して何かを求めたいとは思っていません。

 ディアスさんに貸し一つと言ったのは、その時のテンションです。本気で何かを貰おうとは思っていませんでした。

 ……ああ、私の生活を暴露したことは根に持っているので、その借りは返させてもらいます。

「妾の方は、まだどうにか持ちこたえられていたのじゃが、ディアスの方はギリギリだったようじゃな」

「ああ、リーフィアが来てくれなかったら、本当にやばかった」

「そうですか。全力で走った甲斐がありましたね」

 そう言った瞬間、その場の空気が固まったように感じました。
 執務室にいる私以外の全員がこちらを見て、微妙な顔をしています。

 ……何か言いたそうですが、どうしたんでしょう?

「リーフィア。お前今、走ったと言ったよな? 思い返せば、俺が助けを求めた時から10分程度しか経っていなかったが、お前も偶然近くにいたのか?」

「……? いえ、普通に魔王城に居ましたけど?」

「連絡を聞いてから、走ったのか?」

「はい。ちょっとした用事で外に行っていて、帰ってきたら妙に騒がしかったので、もしかしたらと思い急いで執務室に行くと……予想通り嫌なことが起きていて焦りました」

「なぁ、走ったんだよな?」

「だからそう言っているではありませんか」

「帰るのに、馬車で一週間かかったよな? お前、それなのに走って10分程度で到着したのか?」

「ですねぇ……いやぁ、私って意外と速かったんですね。自分に驚きです」

「…………なんじゃ。魔王軍にリーフィアが居て本当に良かったと、心からそう思うぞ」

 アカネさんが感慨深く呟き、他の方々も同意したように頷いています。

「本当にリーフィアとウンディーネには感謝している。もう少しで余の大切な友人達を失うところだった」

 ミリアさんは深刻な表情を浮かべ、私達に頭を下げます。彼女に釣られて、三人も頭を下げました。

 ……なんか、むず痒いですね。

「感謝するのはそこまでにしてください。私は感謝されたくて助けたわけではありませんから。感謝するならウンディーネに言ってください」

『うちはみんなが悲しむ顔を見たくないから、頑張っただけ……感謝するなら、リーフィアに……』

「──ん?」

『──ん?』

 私とウンディーネはお互いに顔を見合わせます。

「いや、頑張ったのはウンディーネでしょう。私のお願いのために、危険なところに行ってくれたんですから」

『違うよ。リーフィアが一番頑張ったもん。助けるために迷うことなく飛び出して、かっこよかったもん』

「それこそ違います」

『違くないもん』

「いいえ、ウンディーネの方が頑張りました」

『リーフィアの方が頑張った!』

「ウンディーネが──!」

『リーフィアが──!』

「二人とも、そこまでにせい」

 白熱する私達を見かねたアカネさんは、間に立って仲裁に入ります。
 その表情は呆れを隠しきれておらず、彼女は「はぁ……」と溜め息を吐きました。

「痴話喧嘩を聞かされるこちらの身にもなってくれるか?」

「別に、痴話喧嘩では──」

「いや、お互いに想っていて、お互いを褒めちぎって喧嘩するとか……ただの痴話喧嘩じゃろう」

「…………むぅ……」

 私は言い返せませんでした。

 痴話喧嘩というのを肯定したわけではありませんが、皆が見ている前でお互いを褒めまくったら、そりゃ呆れられる決まっています。

「でも──」

「もういいから」

「…………はい。すいません」

 ウンディーネに頑張ってもらったのは本当のことですが、確かに今はそのことで口論している場合ではありません。
 ……彼女には、後で私がめちゃくちゃ褒めてあげましょう。

「まずは勇者について、ですね」

 私の言葉に、ヴィエラさんが頷きます。

「ああ、そうだね。ディアスを助けたのが彼というのは理解しているけれど、魔王城に勇者が居るというのは色々と問題がある」

 それはそうでしょうね。

 魔王の天敵である勇者が居ることで、この城の兵士がピリピリしています。
 ディアスさんを助けたということは、ヴィエラさんの口から事前に説明したようですが、それでも勇者という先入観が彼らの警戒心を強くさせているのでしょう。

「まずは彼を呼んできます。場所はこのまま、この執務室でいいですよね?」

「うん。頼むよ。このまま放置していると、彼の精神面も心配になるからね」

 兵士が喧嘩を売るということはないでしょうが、古谷さんはそのことがわからないので、心身共に落ち着かないでしょう。

 このまま放置…………というもの面白いのですが、普通に可哀想なので迎えに行ってあげましょう。

「では、行ってきます」

『あ、うちも一緒に行く』

「ええ、では一緒に行きましょう」

 私はウンディーネを連れ、執務室を出ました。
 ……いつも以上に遅く歩いたのは決してわざとではないと、ここに言い訳します。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

捨てられ従魔とゆる暮らし

KUZUME
ファンタジー
旧題:捨てられ従魔の保護施設! 冒険者として、運送業者として、日々の生活に職業として溶け込む従魔術師。 けれど、世間では様々な理由で飼育しきれなくなった従魔を身勝手に放置していく問題に悩まされていた。 そんな時、従魔術師達の間である噂が流れる。 クリノリン王国、南の田舎地方──の、ルルビ村の東の外れ。 一風変わった造りの家には、とある変わった従魔術師が酔狂にも捨てられた従魔を引き取って暮らしているという。 ─魔物を飼うなら最後まで責任持て! ─正しい知識と計画性! ─うちは、便利屋じゃなぁぁぁい! 今日もルルビ村の東の外れの家では、とある従魔術師の叫びと多種多様な魔物達の鳴き声がぎゃあぎゃあと元気良く響き渡る。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

処理中です...