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第2章
ご招待です
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夜が開けると同時に、魔王城から派遣された馬車が到着しました。
正直、もう少し時間が掛かるかと思っていたのですが、どうやら休みなしで馬車を走らせたようです。
流石に往復は馬にとって厳しいだろうということで、特別に疲労回復の魔法を掛けてあげたら、最初の頃よりも元気になったと馬車の御者から感謝されました。
これからの予定を軽く打ち合わせしてから、馬車数台を均等に振り分け、私達は馬車に乗り込みます。
「さぁ、しゅっぱ──」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
「……なんですか、もう」
心機一転、気分良く出ようと思ったところで、古谷さんが声を上げました。途中で邪魔されたことに頬を膨らませながら、私は彼に振り向きます。
「どうして俺も馬車に乗っているんだい!?」
私達が居るのは、馬車の中です。
合計三人。私、ディアスさん、古谷さん。
他の兵士は他の馬車に乗っています。
誰か一人は護衛を付けた方がいいだろうという話になったのですが、私達よりも腕の立つ人がいる訳がなく、こうして私達は三人だけで乗ることになったのです。
そこまでで何もおかしなことはないと思うのですが、どうやら古谷さんは物申したいことがある様子。
……一体、何が不満なのでしょう?
「いや、俺は一緒に行ったらダメでしょう!」
「は? なんで?」
「何でって……魔王城に行くんだろう? 俺が行ったら絶対に面倒なことになる。というかまだ死にたくない!」
古谷さんは怖がっているのか、彼自身の体をぎゅっと抱いて震えています。
「人の家に行くだけで死ぬなんて、物騒な世の中になりましたねぇ……」
「場所が問題なんだよ!?」
私がしみじみ頷いていると、古谷さんが耐え切れずに立ち上がりました。
その衝撃で馬車はちょっと揺れましたが、そこは誰も気にしません。
御者の人が心配して顔を覗かせますが、問題ないと手を振ります。
「そんなに興奮しなくても……そんなに女の子の家に上がるのが恥ずかしいんですか?」
「そういうことじゃなくて……! ああもうっ、ディアスさんも何か言ってよ!」
「何だ? 家に居るのはリーフィアだけじゃないぞ?」
「ダメだこの人達話が通じない!」
古谷さんは頭を抱え、ディアスさんがその様子を見て笑います。
「もう、古谷さんをからかうのは、やめてあげてください。可哀想でしょう?」
「元凶アンタだよ!」
「古谷さんって、本当に反応が面白いですよね。つい、からか──こほんっ。遊んでしまいます」
「同じ意味だよね、それ!」
本当に面白い反応です。
流石は王国でスパイをしていた頃、唯一のツッコミ役だっただけはあります。
……古谷さんで遊ぶのはこれくらいにして、ちゃんと理由を話してあげましょうか。
「古谷さんは一応ディアスさんを助けた恩人でもあります。魔王軍として報酬を与える。そのために古谷さんを我らが魔王城へ招待することになりました。…………ついさっき」
「さっき!? ……んんっ! でも報酬って、俺は勇者だよ?」
「旅の資金、装備。あなたには必要でしょう?」
「うぐっ……そ、それは、そうだけど……」
古谷さんはボロっちいローブと、薄汚れた服を着ています。その様子からお金が枯渇しているのは容易に想像出来ます。
そして彼は勇者なのだから、手強い魔物と戦う機会は多いでしょう。なので装備も見直さないといけません。
「本当に、貰っちゃってもいいの?」
「うじうじ悩まないで、貰える物はありがたく貰ってください」
あげると言っているのだから、遠慮せずに貰う。
この世界ではそれで良いのです。
日本みたいに遠慮し合うのは、損でしかありません。人間、時に強欲に生きた方が、長く生き残れます。
……まぁ、強欲になりすぎると、どこぞの国王みたいな結末になりますけど。
「そっか、それじゃあ……ありがたく頂戴しようかな」
「それで良し。──あ、出発しちゃってくださーい」
馬車はゆっくりと動き出します。
「なんか、緊張するな」
古谷さんは魔王城に行くということで、どこか落ち着きがありません。
堂々としていてください……と言うのは流石に無理がありますよね。一応勇者ですし、経緯は違えど敵の本拠地に行くようなものですし。
私だって人の国──私にとっての敵の本拠地へ強制的に連行されたのですから、これでおあいこです。
「そんなに緊張することはないぜ。意外と住みやすいぜ? あそこ」
「へぇ~、そうなの?」
ディアスさんの言葉に頷き、私も口を開きます。
「ええ、そうです。毎日のように部屋はぶっ壊れますが、それなりに充実しているところです」
「そうなんだ……って、え?」
「ミリアとの駆けっこで半壊しかけたこともあったな」
「ミリアさんと久しぶりにサッカーしたら、庭が全焼したこともありました」
「ああ、あれリーフィア達が犯人だったのか。庭師、めちゃくちゃ落ち込んでたぞ」
「ええ、ヴィエラさんに拳骨いただきました」
「あいつ。鬼よりも鬼らしいもんな」
「お菓子を夕食前に食べた時なんて、ミリアさんと共に正座させられました。あれは本気で怖かったです」
「リーフィアが本気で怖がるなんて、マジなんだろうな……気持ちはわかるぜ」
「…………、……や…………っ……」
古谷さんは小刻みに震え、勢いよく立ち上がりました。
そして────
「やっぱり降ろしてくださぁああああああい!!!」
彼の絶叫が、馬車に響いたのでした。
正直、もう少し時間が掛かるかと思っていたのですが、どうやら休みなしで馬車を走らせたようです。
流石に往復は馬にとって厳しいだろうということで、特別に疲労回復の魔法を掛けてあげたら、最初の頃よりも元気になったと馬車の御者から感謝されました。
これからの予定を軽く打ち合わせしてから、馬車数台を均等に振り分け、私達は馬車に乗り込みます。
「さぁ、しゅっぱ──」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
「……なんですか、もう」
心機一転、気分良く出ようと思ったところで、古谷さんが声を上げました。途中で邪魔されたことに頬を膨らませながら、私は彼に振り向きます。
「どうして俺も馬車に乗っているんだい!?」
私達が居るのは、馬車の中です。
合計三人。私、ディアスさん、古谷さん。
他の兵士は他の馬車に乗っています。
誰か一人は護衛を付けた方がいいだろうという話になったのですが、私達よりも腕の立つ人がいる訳がなく、こうして私達は三人だけで乗ることになったのです。
そこまでで何もおかしなことはないと思うのですが、どうやら古谷さんは物申したいことがある様子。
……一体、何が不満なのでしょう?
「いや、俺は一緒に行ったらダメでしょう!」
「は? なんで?」
「何でって……魔王城に行くんだろう? 俺が行ったら絶対に面倒なことになる。というかまだ死にたくない!」
古谷さんは怖がっているのか、彼自身の体をぎゅっと抱いて震えています。
「人の家に行くだけで死ぬなんて、物騒な世の中になりましたねぇ……」
「場所が問題なんだよ!?」
私がしみじみ頷いていると、古谷さんが耐え切れずに立ち上がりました。
その衝撃で馬車はちょっと揺れましたが、そこは誰も気にしません。
御者の人が心配して顔を覗かせますが、問題ないと手を振ります。
「そんなに興奮しなくても……そんなに女の子の家に上がるのが恥ずかしいんですか?」
「そういうことじゃなくて……! ああもうっ、ディアスさんも何か言ってよ!」
「何だ? 家に居るのはリーフィアだけじゃないぞ?」
「ダメだこの人達話が通じない!」
古谷さんは頭を抱え、ディアスさんがその様子を見て笑います。
「もう、古谷さんをからかうのは、やめてあげてください。可哀想でしょう?」
「元凶アンタだよ!」
「古谷さんって、本当に反応が面白いですよね。つい、からか──こほんっ。遊んでしまいます」
「同じ意味だよね、それ!」
本当に面白い反応です。
流石は王国でスパイをしていた頃、唯一のツッコミ役だっただけはあります。
……古谷さんで遊ぶのはこれくらいにして、ちゃんと理由を話してあげましょうか。
「古谷さんは一応ディアスさんを助けた恩人でもあります。魔王軍として報酬を与える。そのために古谷さんを我らが魔王城へ招待することになりました。…………ついさっき」
「さっき!? ……んんっ! でも報酬って、俺は勇者だよ?」
「旅の資金、装備。あなたには必要でしょう?」
「うぐっ……そ、それは、そうだけど……」
古谷さんはボロっちいローブと、薄汚れた服を着ています。その様子からお金が枯渇しているのは容易に想像出来ます。
そして彼は勇者なのだから、手強い魔物と戦う機会は多いでしょう。なので装備も見直さないといけません。
「本当に、貰っちゃってもいいの?」
「うじうじ悩まないで、貰える物はありがたく貰ってください」
あげると言っているのだから、遠慮せずに貰う。
この世界ではそれで良いのです。
日本みたいに遠慮し合うのは、損でしかありません。人間、時に強欲に生きた方が、長く生き残れます。
……まぁ、強欲になりすぎると、どこぞの国王みたいな結末になりますけど。
「そっか、それじゃあ……ありがたく頂戴しようかな」
「それで良し。──あ、出発しちゃってくださーい」
馬車はゆっくりと動き出します。
「なんか、緊張するな」
古谷さんは魔王城に行くということで、どこか落ち着きがありません。
堂々としていてください……と言うのは流石に無理がありますよね。一応勇者ですし、経緯は違えど敵の本拠地に行くようなものですし。
私だって人の国──私にとっての敵の本拠地へ強制的に連行されたのですから、これでおあいこです。
「そんなに緊張することはないぜ。意外と住みやすいぜ? あそこ」
「へぇ~、そうなの?」
ディアスさんの言葉に頷き、私も口を開きます。
「ええ、そうです。毎日のように部屋はぶっ壊れますが、それなりに充実しているところです」
「そうなんだ……って、え?」
「ミリアとの駆けっこで半壊しかけたこともあったな」
「ミリアさんと久しぶりにサッカーしたら、庭が全焼したこともありました」
「ああ、あれリーフィア達が犯人だったのか。庭師、めちゃくちゃ落ち込んでたぞ」
「ええ、ヴィエラさんに拳骨いただきました」
「あいつ。鬼よりも鬼らしいもんな」
「お菓子を夕食前に食べた時なんて、ミリアさんと共に正座させられました。あれは本気で怖かったです」
「リーフィアが本気で怖がるなんて、マジなんだろうな……気持ちはわかるぜ」
「…………、……や…………っ……」
古谷さんは小刻みに震え、勢いよく立ち上がりました。
そして────
「やっぱり降ろしてくださぁああああああい!!!」
彼の絶叫が、馬車に響いたのでした。
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