転生エルフさんは今日も惰眠を貪ります

白波ハクア

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第2章

バックれたいです

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 ミリアさんと街に繰り出した私は、彼女の手を繋いで立ち並ぶ屋台を眺めながら歩いていました。

「あ、ミリアさんの好きな肉串がありますよ」

「むぅ……」

「……? どうしたんですか? お腹空いていませんか?」

「めちゃくちゃ空いてる」

「食べないのですか?」

「食べたい。食べたいのだが……むぅ……」

 ミリアさんは難しい顔をして、考え込みました。

 あの本能で動いているようなミリアさんが考え事をするなんて……本当にどうしたんでしょう?

 …………熱は……ありませんね。
 ならば何ですかね? 気分が乗らない?

 ……いや、誘ってきたのはミリアさんの方です。急に気分が乗らなくなったというのは、流石に無いでしょう。ミリアさんはわがままですが、そんな適当な性格をしている人ではないとわかっています。

「そう黙られるとわかりません。何かあるのなら言葉にして教えてください」

 私は超能力者ではありませんし、メンタリストでもありません。人の考えていることなんて、何もわからないのです。
 だからミリアさんに黙られると困ります。

「……だって…………が……、……から……」

「はい? なんです?」

「……っ! だって! リーフィアが楽しそうじゃないから……!」

「えぇ……?」

 その言葉は予想外でした。
 まさかの私のせいですか…………

「どうしてそう思うのです? 私、そんなに楽しそうに見えませんか?」

「ウンディーネと一緒に行った時は楽しそうにしていた。だが、余が誘った時は仕方なく、という感じだっただろ──って、なんだ! 視界が真っ暗になったぞ!?」

 気づけば私は、ミリアさんを抱きしめていました。

「なに可愛いこと言ってるんですか」

「な、かわっ──!」

「私を誘惑しようだなんて生意気なんですよ。ミリアさんのくせに」

「んなっ!?」

「私はこれでも楽しいんですから、そうやって勝手に落ち込むのやめていただけます? 子供は子供らしくなにも考えずに楽しんでいればいいのです。はい、この話終了。……ほら行きますよ」

 私は肉串を購入し、ミリアさんの口に突っ込みます。

「美味しいですか?」

「んぐっ、んぐ……うむ……」

「なら、それでいいじゃないですか。……ね?」

「…………むぅ、うむむ……そう、だな。──よし! そうだったな!」

 どうやらミリアさんの中で考えは纏まったようです。
 先程までの表情から一変して、いつも通りのミリアさんに戻りました。

「そうと決まれば、いっぱい遊ぶぞ!」

「──あ、すいません。先に用事済ませるので待ってください」

「雰囲気台無しなのだが!?」

「いや、そう言われましても……」

 ミリアさんが満足するまで遊ぶことを考えると、絶対に私の気力が持ちません。その状態でヴィエラさんの用事まで済ませるとか……絶対に面倒です。面倒すぎて考えるのも億劫になります。

「というわけで、先にヴィエラさんの用事から終わらせますよ」

「…………むぅ、そういうことなら……仕方ない」

 ミリアさんも納得してくれたことですし、私は地図に描かれたお店へと向かいます。

 そこは町の中央から少し外れた場所にひっそりと建っていました。
 看板には『鍛冶屋』と書かれているので、おそらくヴィエラさんが注文したのは、魔王軍の兵士が使う装備品なのでしょう。

「ごめんくださーい」

 私は中に入り、店員を呼びます…………が、誰かが出てくる雰囲気はありません。

「すいませーん。誰かいますかー?」

 声を張っても返事はありません。

「返事しないと魔法ぶっ放しますよー?」

「……物騒なエルフだな」

 隣で静かにしていたミリアさんが呆れたようにそう呟きました。

「いやぁ、意図して隠れていた場合、こうやって脅せば出てくるかなぁと」

「どうしてそっちの方向に考えてしまったのだ。……おそらく、店主は出掛けているのだろう。このまま待っているしかないな」

「おお、ミリアさんがちゃんと考えている」

「ふふんっ、そろそろ見直してくれてもいいのだぞ?」

「あ、結構です」

「…………ちくしょう!」

 でも、このまま待つのも考えものですね。
 流石に店内でお布団を敷くのも遠慮しますし、待つこと自体面倒です。

「よし。今日は留守だったということで、今日は帰るとしまぶしっ」

 意気揚々とバックれようとしたら、ミリアさんに思い切り後頭部を叩かれました。
 ちょっとヒリヒリする頭をさすりながら、犯人に文句を込めた目を向けます。

「……何するのですか。今の、普通の人だったら死んでいましたよ?」

「リーフィアならば問題ない!」

 ……問題ないからって暴力振るっていいわけじゃないですけどね。

「んで、なんです? 急に暴力を振るうなんて、パワハラで訴えますよ?」

「訴えるにしても、誰に訴えるというのだ。余が一番偉いだろう」

「うっわぁ、職権乱用ですか」

「うっさい」

 でも、ミリアさんが一番偉いのは事実。
 ヴィエラさんに文句を言っても、「途中で帰ろうとしたリーフィアが悪い」と言われかねません。

 だったら、この手段しかありませんね。

「久しぶりにお尻ペンペンの刑を執行します」

「それだけはやめてくれ!」

 声が完全に焦っていました。

 ……そんなにトラウマですか。お尻ペンペン。
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