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第2章

お腹の鳴る頃に

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 ──くぅううう。

 音のない空間で互いを重んじるかのように抱き合っていたからでしょうか。

 可愛らしいお腹の鳴る音が、私の耳によく聞こえました。

「…………ミリアさん?」

「ナ、ナンダ?」

「折角良い感じの雰囲気になってきたのに、そこでぶち壊します?」

「だってお腹空いたんだもん。仕方ないだろう!」

 だもん、って子供じゃあるまいし──あ、子供でした。

「私もあまり暗い雰囲気は好みませんが、まさかこんな形で裏切られるとは思っていませんでしたよ。そこら辺、魔王のプライドはどうなのですか?」

「ズタズタに決まっているだろう! 思い切り恥ずかしいわ!」

 ミリアさんの顔は、ゆでダコのように真っ赤に染まっていました。
 密着している中でお腹が鳴るのは、流石のミリアさんも予想していなかったのでしょう。

 ──ふっ、お茶目ですね。

「おおっ、恥ずかしいという感情はあるのですね。魔王も捨てたものではありません」

「おい! お前、余を何だと思っているのだ!?」

「え、子供?」

「そう言うと思ってたよちくしょう!」

「ミリアさんは本当に、いつまで経っても子供で──」

 ──くぅぅぅ。
 その瞬間、世界が凍り付いたような感覚に陥りました。

「…………」

「…………」

「…………おい」

「…………はい」

「何だ、今のは」

「さ、さぁ?」

 ミリアさんがジト目で睨んでくるのを、私はそっぽを向いて逃れました。
 あ、綺麗な夕焼け空────

「こっちを向け!」

「むぎゅ……!」

 ミリアさんの両手で頬を挟まれ、強制的に首を戻されます。

にゃにしゅるんれすか何するんですかみゅりあさんミリアさん

「お前が逃れようとするからだろう! 何だ今の可愛い音は? ん? ほれ、正直に言ってみろ」

 ミリアさんはニヤニヤと小馬鹿にしたように問い詰めます。
 対する私は、何も言えずに押し黙りました。

「……………………司書さん。お腹が空いていたのですかね?」

 考えに考えた結果、私が導き出した答えは──誰かのせいにする。というものでした。

 最低だと思いますか?
 ……だって仕方ないではないですか。
 なんか今のミリアさん、めちゃくちゃウザいんですもの。

 他人のせいにしなければ面倒です。

「そうか。司書か──って、んなわけあるか!」

「──チッ。もう少しで騙せると思ったのに」

「余はそこまで馬鹿ではない!」

 馬鹿ではないって……ほとんど騙されかけていたくせによく言いますね。

「何だ。何だその文句を言いたげな目は」

「…………いいえ、何でもありません。別に馬鹿が今更何を言っているんだろう? とか思っていません。なので問題ありません」

「大いに問題があるのだが!?」

「あ、すいません。お馬鹿ちゃんが今更何かを──」

「言い方変えたところで変わらないから! そこに文句を言いたかったわけじゃないから!」

「わかっています。わかっていますからそれ以上は言わなくても良いですよ」

 私は、今も喚くミリアさんの小さな体を抱きかかえ、立ち上がります。

「……リーフィア?」

 急に立ち上がった私を、ミリアさんは不思議そうに見つめてきました。
 そんな彼女に、優しく微笑みかけます。

「もう我慢ならないんですよね? さ、食堂に行きましょう。ちょっとお菓子を食べるくらいなら怒られません」

「そうじゃないのだが……ああ、でもお菓子も食べたい!」

 流石はミリアさん。お菓子で簡単に連れました。

「つべこべ言っていないで早く行きましょう。お菓子が私達を待っています」

「さてはお前……お前がお菓子を食べたいだけだろう!?」

「おっと珍しくするど──ゲフンゲフン。そんなことありませんよ」

「言うぞ! ヴィエラに言うぞ!」

「言えばよろしい。怒られるのはミリアさんも同じです」

「余はお菓子食べないもん! だから怒られない! どうだ!」

「いや、どうだと言われましても……え、何でそんなにドヤ顔?」

 持ってきた本を元あった場所に戻しながら、私達は図書館を後にします。
 そのまま食堂まで足を運び、お菓子を腕いっぱいに抱え、ついでにミリアさんも抱えて自室に戻りました。

「…………んで、ミリアさんは食べないのですか?」

「いや、余はいらない!」

「そうですか?」

 私はお菓子の袋を開き、その中に手を突っ込みます。

「ああ、美味しい……。流石はジャンク。手が止まりません」

「ぬぐぐっ……!」

「食事前のお菓子という罪悪感がまた堪りませんねぇ」

「……、……る……」

「ぁい? 何です?」

「余も食べる!」

 …………ちょろいですねぇ。
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