転生エルフさんは今日も惰眠を貪ります

白波ハクア

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第2章

お久しぶりです

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 ──活躍したのだから休みを寄越せ。

 そんな私の訴えは、見事に無視されました。
 何も聞こえていないように、侵入者達に歩み寄るミリアさん。私から視線を逸らすディアスさんとアカネさん。

 ──いつかストライキを起こしてやる。

 私は胸の内で、そう決意したのでした。

「我が国で何を企んでいたのだ?」

「…………」

「何も言わぬ、か……まぁ、そうだろうな」

 ミリアさんの問いかけに、黙り込む侵入者達。
 素直に答えるわけがないと予想していたミリアさんは、余裕の笑みを崩しません。
 彼らは今、一切の身動きが取れない状態です。完全に詰んでいる。利があるのはこちらなのです。

「アカネさんアカネさん」

 ミリアさんが尋問している後ろで、私はアカネさんの肩をちょいちょいと突きます。

「ん、なんじゃ?」

「あれ、大丈夫なのですか?」

「大丈夫とはどういう……ああ、そういうことか。まぁ大丈夫じゃよ」

 アカネさんは私が何を言いたいのか察したようですが、それでも大丈夫だと言い切りました。
 でも、身内贔屓が入っているのでは? と思った私は、それでも心配になります。

「本当に大丈夫なのですか? ミリアさんは、飴ちゃんをあげれば簡単に絆されるお子様です。もし侵入者が飴を持っていたら……」

「こらそこぉ! 全部聞こえているのだぞ!」

「だって心配なんですもん。本当に大丈夫ですか? 知らぬ間に餌付けされません?」

「んなこと…………されぬわ!」

 かなり長い間があったのは、なぜです?
 ──と、そうしている間に侵入者がポケットをごそごそと漁っていました。

 何かを仕掛けようとしている?
 私はいち早くそれに気づき、警戒しました。
 アカネさんとミリアさん、ディアスさんも何かをしていることに気がついたのでしょう。すぐさま警戒心を上昇させ、いつでも行動出来るように構えました。

 それと同時に侵入者が取り出したのは、一粒の丸い球体でした。
 あれは────

「飴、ですね」

「本当に持ってたの!?」

 これは私も予想外です。
 まさか侵入者が飴を持っているとは。

「って、いらぬわ!」

 ミリアさんはその飴をぶんどり、侵入者の口にぶち込みました。

「なっ!?」

「おいまじか」

「ほう?」

「うっわぁ」

 その衝撃でフードが外れ、侵入者の顔が露わになりました。
 その顔を見た私達は、それぞれの反応を見せます。
 ミリアさんは驚き、ディアスさんは呆れ、アカネさんは興味深そうに、私は気だるげに顔を顰めました。

 長く尖った三角耳。金色の髪色。整った男性の顔。
 彼は人間ではありませんでした。一纏めに『亜人』と言われる部類の中の『エルフ』という種類です。

 どこか感じたことのある魔力だと思ったら、まさかのエルフですか。
 はぁ~~~~ぁ…………この場合は「お久しぶりですエルフさん」と言えば良いのですかね?

「…………まさかエルフが人間側に加担していたとは……」

「あ、先に言っておきますが私何も知りませんよー」

 エルフ繋がりで何か疑いをかけられる前に、私は保険を掛けて口を開きました。

「わかっている。今更疑いはしない……それに、何よりも惰眠を優先するお前が、面倒な企てをするはずもないからな」

 おお、よくおわかりで。
 ちょっと言い方に棘があるような気がしましたが、間違ってはいません。

「しかし、面倒なことになったな」

 ミリアさんは重々しく呟きました。
 私もその言葉には同意見です。

 理由はわかりませんが、エルフが人間に協力している。
 侵入者の全ては似たような魔力をしています。おそらく、全員がエルフです。
 魔法に精通しているエルフは、まだ世に出ていない魔法を沢山知っています。今までは秘蔵していた魔法が人間に教えられるとなれば、戦力増強には十分な役割となるでしょう。

 だから面倒なことになった。
 兵士を纏め上げているディアスさんや、主に亜人との外交をしてくれているアカネさんは、とても真剣な表情になりました。きっとお二人の脳内では、無数の考えが巡っていることでしょう。

 ……え、私?
 いやぁ大変だなぁ。と思っているだけですが、何か?

「お前ら、どうして人間側に味方をしている? 目的はなんだ?」

 ミリアさんは、再度問いかけます。
 どうせ黙り込むでしょう。そう思っていたところで、男が悔しげにミリアさんを力一杯睨み、口を開きました。

「私達は、人間に与してなどいない!」

 そしてそれは予想もしていない言葉でした。
 嘘を言っている様子はありません。

 そして同時に理解しました。
 男が悔しそうにしていたのは、私に捕縛されたからでも、私達に素顔を見られたからでもありません。
 人間と共通していると思われたその屈辱から、男は怒っていたのです。

「我らはそこのエルフに用があるだけだ! 魔族如きが、邪魔をするな!」

 わーお、流石はエルフ。
 魔王を相手にしても傲慢ですね。

 ──って、エルフに用がある?

「…………ふむ」

 一応、私はぐるりと辺りを見渡します。
 私以外にエルフらしい人は見当たりません。

「え、私ですか?」

 侵入者はエルフで、私に用があってわざわざここまで来た。
 そして街中で私を見つけ、追いかけていたと…………なるほどなるほど。

 やっぱりストーカーじゃないですか。
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