転生エルフさんは今日も惰眠を貪ります

白波ハクア

文字の大きさ
上 下
45 / 233
第1章

最後の晩餐です

しおりを挟む
 部屋に戻った私は、先にベッドで眠っていたミリアさんを抱き枕代わりにして、食事会までずっと眠っていました。

 国王に言われたことを、アカネさんに伝えようかと思ったのですが……面倒なのでやめました。
 彼女ならば、相手が次で全力を出してくることくらい予想しているでしょう。それなら、わざわざ私が言う必要はありません。

 そして約束の時間になり、私達は昨日と同じ会場へと案内されました。
 椅子の配置も、昨日と全く同じです。

 変わったところと言えば……周囲の騎士が増えたことと、姿を隠している暗殺者が数人いることくらいでしょうか。……暗殺者、まだ残っていたんですね。おそらく、他国からも暗殺者を雇っているのでしょう。

 ですが、魔王とその従者二人を相手にするには、全然足りませんね。

 私と同じように国王に「何もするな」と言われた古谷さんは、未だ沈んだ表情をしていました。彼はまだ悩んでいるのでしょう。

 ですが、時間というものは非情で、古谷さんを置いて勝手に進んでしまいます。ゆっくりと悩んでいる暇はないのです。

「魔王殿、今日は昼間に我が城下町を探索したようで、どうだったかな?」
「楽しかったぞ! 出店の物も美味しかった!」

 屈託のない笑顔でそう言うミリアさんを見て、国王は必死に笑顔を作ります。ですが、口元がピクピクと動いているのを、私は見逃しませんでした。
 国王の気持ちはわかります。あれだけの暗殺者を投入したのにも関わらず、笑顔で楽しかったと言われたのです。意味がわからないにもほどがあります。

 ……まぁ、それが魔王という化け物を相手しているのだから、それくらいの覚悟を持っていただかなければ困りますがね。
 私だったら今後の面倒を考えて潔く諦めますけど、それでもミリアさんをどうにか出来ると考えている国王には、凄いの一言です。胆力と自信だけは、誰よりも強い人ですね。

 ですが、それは時に愚かな選択をしてしまいます。
 国王の場合は、間違え過ぎました。

 勇者を無駄遣いし、国の資産を使い、魔王を招待して殺害を企て、それを達成するために街中でも暗殺者を仕掛ける。民の安全など、御構い無しです。

 そんな人は、もうこれ以上──必要ありませんよね。

 私の内心を知らず、反対側に座る国王は笑顔を作っています。
 彼の目には、もうミリアさんしか写っていないのでしょう。彼は今回の食事会で、目的を果たせると信じて疑っていないようです。

「そうですかそうですか。それは良かったです。ですが、それで満足してもらっては困りますぞ。今日の料理も、ご馳走を用意させましたからな!」
「おおっ、それは楽しみだ! 楽しみすぎてもうお腹いっぱいだ!」
「ええ、今日が最後の晩餐となる。どうか満足するまで楽しんでほしいですなぁ!」

 国王は手をパンパンッと叩きます。
 すると、沢山の料理を手に持った使用人達が、扉を開けて入って来ました。

「うわぁ……」

 それは全てが毒入りでした。
 しかも、一口でも含んだら死に至るほどの劇毒です。

 ワインも今回は好きなものを選ばせてもらえず、ミリアさんとアカネさんだけ劇毒入りのものを注がれていました。
 おそらく、このワインで勝負を仕掛けるつもりなのでしょう。

「まずは乾杯をしよう。皆、グラスを持ってくれ」

 その言葉に、全員がグラスを持ち上げます。

「では、かんぱ──」
「あ、ちょっと待ってください」

 今まさに仕掛けようとしていた国王に、私はストップをかけました。
 出鼻を挫かれた国王は、少し不満そうに私を見ます。

「……どうかしたのかね、リフィ殿?」

 彼は「何もするなと言っただろう」と言いたげです。
 国王の配下や騎士達も、怪訝そうな表情で私を見つめていました。

 ですが私はそれを無視して、ミリアさんからグラスを奪います。

「これはダメです」
「何が、ダメだと言うのだ」
「わかりませんか? ……では、試してみましょう」
「一体何を──」

 私はグラスの中身を、後ろの騎士にぶちまけます。
 すると──。

「ぐぁああああ!?!!」
「おいどうした!?」

 その騎士は突然暴れ出し、床をのたうち回りました。
 近くの騎士が心配して駆け寄っても、それに気づいた様子もなく叫びます。

「大丈夫か。おいって──ひぃ!」

 仲間の騎士が、劇毒を浴びた騎士の兜を外すと──その人の顔面は焼け爛れ、元の顔を認識出来ないほどに酷い有様になっていました。
 ですがそれだけではありません。私は全身に浴びせました。なので、鎧を抜けて入った劇毒は、全身の皮膚さえも溶かしていることでしょう。私の回復魔法ならば一瞬で治すことは可能です……が、この人達はミリアさんの敵です。ということは、私の敵でもあります。敵を治す訳ありません。

 騎士達は、仲間の変わり果てた姿に言葉を失くしていました。

「わーお、凄いですね。王族が出すワインというものは、ここまで刺激的なのですか?」
「…………」

 国王はだんまりです。

「でも、騎士さんには刺激的過ぎたようですね。これはお子様のミリアさんには、まだ早いですね」
「おいこら。子供扱いをするな。余でも飲め……すまん、流石に無理だ」
「妾も相当年を取っておるが……これは無理じゃなぁ……全く、王族のワインとやらは凄い。こんな酒は、千年生きてて見たことがないわ」
「それはそうでしょう。だってこれはお酒じゃありませんからね……ねぇ王様? 詳しいお話をお聞かせ願えませんか?」

 国王の表情は、厳しいものとなっていました。
 ギリッと歯を食いしばり、私を力強く睨んでいます。

「なぜだ」
「ふむ……なぜ、とはどういう意味でしょうか?」
「我はリフィ殿、お前に何もするなと伝えたはずだ!」
「だからなんです?」
「お前は裏切ったのだ! この我を、裏切ったのだぞ!」
「はぁ? 何を言っているのですか?」

 私は意味がわからないと首を傾げます。

「裏切った? それは違います。だって私は──最初からなのですから」
しおりを挟む
感想 247

あなたにおすすめの小説

このやってられない世界で

みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。 悪役令嬢・キーラになったらしいけど、 そのフラグは初っ端に折れてしまった。 主人公のヒロインをそっちのけの、 よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、 王子様に捕まってしまったキーラは 楽しく生き残ることができるのか。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます

みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。 女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。 勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく

霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。 だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。 どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。 でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

処理中です...