転生エルフさんは今日も惰眠を貪ります

白波ハクア

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第1章

最後の晩餐です

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 部屋に戻った私は、先にベッドで眠っていたミリアさんを抱き枕代わりにして、食事会までずっと眠っていました。

 国王に言われたことを、アカネさんに伝えようかと思ったのですが……面倒なのでやめました。
 彼女ならば、相手が次で全力を出してくることくらい予想しているでしょう。それなら、わざわざ私が言う必要はありません。

 そして約束の時間になり、私達は昨日と同じ会場へと案内されました。
 椅子の配置も、昨日と全く同じです。

 変わったところと言えば……周囲の騎士が増えたことと、姿を隠している暗殺者が数人いることくらいでしょうか。……暗殺者、まだ残っていたんですね。おそらく、他国からも暗殺者を雇っているのでしょう。

 ですが、魔王とその従者二人を相手にするには、全然足りませんね。

 私と同じように国王に「何もするな」と言われた古谷さんは、未だ沈んだ表情をしていました。彼はまだ悩んでいるのでしょう。

 ですが、時間というものは非情で、古谷さんを置いて勝手に進んでしまいます。ゆっくりと悩んでいる暇はないのです。

「魔王殿、今日は昼間に我が城下町を探索したようで、どうだったかな?」
「楽しかったぞ! 出店の物も美味しかった!」

 屈託のない笑顔でそう言うミリアさんを見て、国王は必死に笑顔を作ります。ですが、口元がピクピクと動いているのを、私は見逃しませんでした。
 国王の気持ちはわかります。あれだけの暗殺者を投入したのにも関わらず、笑顔で楽しかったと言われたのです。意味がわからないにもほどがあります。

 ……まぁ、それが魔王という化け物を相手しているのだから、それくらいの覚悟を持っていただかなければ困りますがね。
 私だったら今後の面倒を考えて潔く諦めますけど、それでもミリアさんをどうにか出来ると考えている国王には、凄いの一言です。胆力と自信だけは、誰よりも強い人ですね。

 ですが、それは時に愚かな選択をしてしまいます。
 国王の場合は、間違え過ぎました。

 勇者を無駄遣いし、国の資産を使い、魔王を招待して殺害を企て、それを達成するために街中でも暗殺者を仕掛ける。民の安全など、御構い無しです。

 そんな人は、もうこれ以上──必要ありませんよね。

 私の内心を知らず、反対側に座る国王は笑顔を作っています。
 彼の目には、もうミリアさんしか写っていないのでしょう。彼は今回の食事会で、目的を果たせると信じて疑っていないようです。

「そうですかそうですか。それは良かったです。ですが、それで満足してもらっては困りますぞ。今日の料理も、ご馳走を用意させましたからな!」
「おおっ、それは楽しみだ! 楽しみすぎてもうお腹いっぱいだ!」
「ええ、今日が最後の晩餐となる。どうか満足するまで楽しんでほしいですなぁ!」

 国王は手をパンパンッと叩きます。
 すると、沢山の料理を手に持った使用人達が、扉を開けて入って来ました。

「うわぁ……」

 それは全てが毒入りでした。
 しかも、一口でも含んだら死に至るほどの劇毒です。

 ワインも今回は好きなものを選ばせてもらえず、ミリアさんとアカネさんだけ劇毒入りのものを注がれていました。
 おそらく、このワインで勝負を仕掛けるつもりなのでしょう。

「まずは乾杯をしよう。皆、グラスを持ってくれ」

 その言葉に、全員がグラスを持ち上げます。

「では、かんぱ──」
「あ、ちょっと待ってください」

 今まさに仕掛けようとしていた国王に、私はストップをかけました。
 出鼻を挫かれた国王は、少し不満そうに私を見ます。

「……どうかしたのかね、リフィ殿?」

 彼は「何もするなと言っただろう」と言いたげです。
 国王の配下や騎士達も、怪訝そうな表情で私を見つめていました。

 ですが私はそれを無視して、ミリアさんからグラスを奪います。

「これはダメです」
「何が、ダメだと言うのだ」
「わかりませんか? ……では、試してみましょう」
「一体何を──」

 私はグラスの中身を、後ろの騎士にぶちまけます。
 すると──。

「ぐぁああああ!?!!」
「おいどうした!?」

 その騎士は突然暴れ出し、床をのたうち回りました。
 近くの騎士が心配して駆け寄っても、それに気づいた様子もなく叫びます。

「大丈夫か。おいって──ひぃ!」

 仲間の騎士が、劇毒を浴びた騎士の兜を外すと──その人の顔面は焼け爛れ、元の顔を認識出来ないほどに酷い有様になっていました。
 ですがそれだけではありません。私は全身に浴びせました。なので、鎧を抜けて入った劇毒は、全身の皮膚さえも溶かしていることでしょう。私の回復魔法ならば一瞬で治すことは可能です……が、この人達はミリアさんの敵です。ということは、私の敵でもあります。敵を治す訳ありません。

 騎士達は、仲間の変わり果てた姿に言葉を失くしていました。

「わーお、凄いですね。王族が出すワインというものは、ここまで刺激的なのですか?」
「…………」

 国王はだんまりです。

「でも、騎士さんには刺激的過ぎたようですね。これはお子様のミリアさんには、まだ早いですね」
「おいこら。子供扱いをするな。余でも飲め……すまん、流石に無理だ」
「妾も相当年を取っておるが……これは無理じゃなぁ……全く、王族のワインとやらは凄い。こんな酒は、千年生きてて見たことがないわ」
「それはそうでしょう。だってこれはお酒じゃありませんからね……ねぇ王様? 詳しいお話をお聞かせ願えませんか?」

 国王の表情は、厳しいものとなっていました。
 ギリッと歯を食いしばり、私を力強く睨んでいます。

「なぜだ」
「ふむ……なぜ、とはどういう意味でしょうか?」
「我はリフィ殿、お前に何もするなと伝えたはずだ!」
「だからなんです?」
「お前は裏切ったのだ! この我を、裏切ったのだぞ!」
「はぁ? 何を言っているのですか?」

 私は意味がわからないと首を傾げます。

「裏切った? それは違います。だって私は──最初からなのですから」
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