上 下
38 / 233
第1章

密談パート2です

しおりを挟む
 これで私の報告は終わりました。
 ですが、これが全てではありません。

 残るはウンディーネの報告です。

 むしろ私は、彼女の報告の方が魔王軍に取って、かなりの朗報なのではないかと思っています。

『……えっと……それじゃあ、うちも報告をするね…………』

 まだ私以外の人と話すのは慣れていないのでしょう。
 若干言葉に詰まりながら、ウンディーネは報告を完了します。

 内容は、勇者の召喚についてです。
 どれだけ国家機密を集めても、こちらの有益となる情報は、それくらいしかありませんでした。
 他は、別に調べても直接は関係ないものばかり。
 そういう理由で、今回の報告では省いたようです。

『こ、これで……報告を終わりに、します……!』
「はい、お疲れ様でした。この後はゆっくりしてください…………と言いたいところですが、すいません。この後も魔法の持続をお願いします」
『……うん! 任せて、リーフィア!』

 ウンディーネは霧となって消えます。
 精霊は形を成しているだけでも魔力を消費します。
 より長い時間、魔法を継続するために、無駄な消費を抑えたいのでしょう。

「……流石はリーフィアじゃな。あの水の精霊と、あそこまで心を通わせているとは」
「ふふっ、最初は上手く会話することも出来ませんでしたけどね。大変だったんですよ?」

 呼び出したのはウンディーネなのに、近寄ったら「来ないで」と泣きながら言われた時、あれは私も驚きました。

「でも、あれでいて甘えん坊なところが、とても可愛いんですよ」

 とても献身的で、少しでも私の役に立とうと頑張る姿が、見ていて癒されます。 

 これでも、ウンディーネのことは大好きですよ?

『リーフィア!?』
『ふふっ、そうやってすぐに反応が返って来るところも、いいですね』
『……もうっ! こうやって馬鹿にして……知らない……!』

 あら、念話が切れてしまいました。
 からかっていると思って拗ねちゃったんですかね?


 ──と、突然のイチャイチャ失礼しました。


「それで、ウンディーネの報告はどうでしたか?」
「……やはり気になったのは、国が抱えられる勇者は一人という点じゃな。言われてみれば確かに、歴代の剣の勇者達の顔は覚えていても、其奴らが同時に来たことはなかった」

 それは剣に限った話ではないようです。

 あの時、杖の勇者が魔族領に侵入して来た時のことです。
 私がその勇者を殺したところで、杖を抱えている国が再度召喚をするだけ。
 つまり、殺そうと殺すまいと、事態にほぼ変わりはなかったということになります。

「勇者……異世界で平和に暮らしていた子供達を、捨て駒扱いか……何じゃ、真実を聞いてみれば、胸糞悪い話じゃな」
「ええ、全くです」

 これでは、どちらが悪党なのかわかりませんね。

「じゃが、奴らが侵攻してくる以上、妾達も生きるため、民を守るために戦わなければならぬ。……この悪循環をどうにか出来ぬものか」

 アカネさんは自分達のことだけではなく、ただの被害者である勇者のことも助けられないかと考え込みました。

 ……ミリアさんと同じく、この人も優しいのですね。
 本当に、どっちが悪役なのかわからなくなります。

「もしかしたら、今回のように友好を築く。というのは悪くない手なのかもしれぬな」
「ですが、ここの王はそれを望んでいないようです」
「……ああ、それは理解しておる。じゃが、他国にはまだマシな統治者が居るじゃろう。それらと話をするのは、悪手ではない筈じゃ」
「危険はあるでしょうね」
「ふっ……この程度の危険、ミリアのためだと思えばどうってことない」
「……ミリアさんのこと、大好きなのですね」
「そうじゃ、妾はミリアが大好きじゃよ。この命が枯れるまで、こいつを守り抜くと決めておる」

 恥ずかしがる様子はなく、アカネさんは堂々と言いました。
 横で寝ているミリアさんの頭を、愛おしそうに撫でるその姿は、親子のように微笑ましい光景でした。

「リーフィア」
「……はい、何でしょうか?」

 いつにも増して真剣な表情。

 私はその気に当てられて、自然と背筋を伸ばします。

「もし、何かあって妾が居なくなった時、ミリアのことを……頼む」

 アカネさんは地面に膝を付け、深々と頭を下げました。
 誠心誠意の土下座です。

「お主のことは、正直まだ良くわからぬ。じゃが、信頼出来る。じゃから、どうか……」

 震えた声。

 この世界は、何が起こるかわかりません。
 不幸が重なって、アカネさんの身に危険が降り注ぐこともあるでしょう。
 その時を危惧して、私にミリアさんを託そうとしています。

 そんな今生の願いを私は──

「お断りします」

 あっさりと一蹴しました。

 アカネさんは顔をバッと上げ、絶望したような表情を作りました。
 私は彼女に歩み寄り、その体を起こします。

「そんな大役、私には荷が重いです。なので、アカネさんが何処かへ消えることは許しません。何かがあれば、私が助けます。私に出来ることなら、全ての力を尽くして皆さんを守ります」

 私が平和に眠るため、私はミリアさんと、彼女を守る人達を守ります。
 言っていることが滅茶苦茶ですが、一人でミリアさんの子守りをするより、皆さんの手助けをした方が、まだマシだと天秤に掛けただけです。

 私の願いは──安心して眠ることです。
 ミリアさんが泣き喚いていると、うるさくておちおち寝ていられません。

「勿論、タダではありません。あなたが困ったら、私はどんなことだろうと助けます。その代わりに私が眠れなくて困っている時は、助けてください」

 主にミリアさんから。

「──ぷっ、ははっ! あはは……!」

 しばしの間呆けた顔をしていたアカネさんは、唐突に腹を抱えて笑い出しました。

「お主は、本当に面白い奴じゃ……! まさか妾の誠心誠意を断り、それでいて自分が眠るために助け合おう!? っ……くくっ、本当に面白いのぅ!」
「お褒めに預かり、光栄です」

 アカネさんは眠るためと言っていましたが、私にとっては最重要目的なのです。

「……ん、なんだ。うるさくて眠れないぞ…………」

 アカネさんの笑い声で、それまでスヤスヤと眠っていたミリアさんが起きてしまいました。

「すまんなミリア、じゃが、我慢出来ぬのじゃ……!」
「おお、なんだなんだ? アカネがそこまで機嫌良いなんて珍しいな。……リーフィア、何があったのだ?」
「ちょっと、人には言えない、女同士のお話ですよ」

 その返答に、ミリアさんは全然わからないと首を傾げました。

「ミリア……リーフィアは面白い奴じゃのう!」
「ん? ……ああそうだぞ!」

 アカネさんの言葉に、少し不思議そうにしたのは一瞬のことでした。
 すぐに自慢気な顔になり、鼻を鳴らしながら胸を張ります。

「リーフィアはな──余の自慢の配下だ!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

おばさん、異世界転生して無双する(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラ

Crosis
ファンタジー
新たな世界で新たな人生を_(:3 」∠)_ 【残酷な描写タグ等は一応保険の為です】 後悔ばかりの人生だった高柳美里(40歳)は、ある日突然唯一の趣味と言って良いVRMMOのゲームデータを引き継いだ状態で異世界へと転移する。 目の前には心血とお金と時間を捧げて作り育てたCPUキャラクター達。 そして若返った自分の身体。 美男美女、様々な種族の|子供達《CPUキャラクター》とアイテムに天空城。 これでワクワクしない方が嘘である。 そして転移した世界が異世界であると気付いた高柳美里は今度こそ後悔しない人生を謳歌すると決意するのであった。

異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。

星の国のマジシャン
ファンタジー
 引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。  そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。  本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。  この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!

処理中です...