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第1章

魔女について

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「そういえば、気になっていたことがあります」

 それはいつも通り図書館で情報を集めていた時です。
 私はふと、前から気になっていたことを思い出しました。

「──魔女、とは何でしょう?」

 私とミリアさん、両方が馬鹿どもエルフ達に『魔女』と間違えられた件。
 それから私は、魔女という者が何者なのか。それをどこかで調べられないかと思っていました。

「古谷さんは魔女という人に関して、何か知らないですか?」
「えっ……魔女かい? うーん、残念ながら、それは聞いたことがないなぁ」

 エルフが警戒していた魔女ということで、何か人間と関係しているかと思っていたのですが……勇者である古谷さんでも知らないようです。

 いや、ただ単に古谷さんの知識がないだけかもしれませんね。
 この人、意外と馬鹿ですし。

「……ん、どうかした?」
「いえ、別に何でもありません」

 失礼なことを考えながら見ていたら、不振に思われてしまいました。
 ここで正直に馬鹿とは、流石に言えません。
 相手がミリアさんだったら、おそらく言っていたでしょうけど……古谷さんとは友好関係を築いていかなければなりません。

「秘術に関しての調査も行き詰まって来ましたし、ちょっと魔女に関しての本を探して来ます」

 それらしい理由を言って、私は魔女の本を探しに行きます。

『……リーフィア? うちも、魔女を調べる?』

 と、そのタイミングで、別の場所で調べ物をしていたウンディーネから、念話で話しかけられました。
 あまりにも唐突で、声に出して返答してしまうところでした。

『いえ、ウンディーネはそのまま、この国のことを調べてください。魔女については、私が気になっているだけですから、自分で調べます』
『……わかった。……無理は、しないでね』
『心配してくれてありがとうございます。でも、大丈夫ですよ』

 これは完全に私だけの問題です。
 なので、ウンディーネまで巻き込む訳にはいきません。
 その代わりに古谷さんを巻き込みます。あの人はちょろいので、お願いをすれば手伝ってくれるでしょう。

 そう考えている間に、私は魔女について書かれていそうな本を何冊か見繕いました。
 それを持って元居たテーブルへと戻り、ドスンッと置きました。

「うわぁ……その量を読むの?」

 大量に置かれた本を見て、古谷さんは引き気味です。

「ええ、ざっと見た感じ、魔女に関する資料はこれが全部のようだったので、どうせなら全部読んでしまおうかなと」
「だからってその量は凄いと思うよ?」
「そうですか?」

 私が持って来たのは、十冊程度です。これを全部読むなんて面倒なことはしません。魔女に関係する情報のみを抜き取ろうと思っています。

 これのどこが凄い量なのでしょうか?

『……普通は、半日じゃ読めない量だと思うよ?』
『え、そうなのですか?』

 うーん、二人に言われてしまいました。
 何日も図書館で情報集めをしていたから慣れてしまったのでしょうか?

 でも、速読ならすぐに読める量だと思います。
 私のステータスは速さ全振りしていますから、それも読む速度に関係しているのかもしれません。……知りませんけど。

「どうしてそんなに魔女が気になるんだ?」
「ちょっと前に、魔女に間違われたんです。知り合いも同じような勘違いをされたと言っていたので、どういう人なのか気になっていたんですよ。言いませんでしたっけ?」
「……聞いていないな」
「では、今言いました」
「……リフィさんって、結構適当な時多いよね」
「そうですか? 他人の評価なんて、どうでもいいです」

 この世界は他人の評価で食っていけるような、生易しい世界ではありません。
 必要なのは力と知識。そして睡眠です。
 むしろ、睡眠さえあれば他は要りません。

「どうして私はここに居るのでしょう……」
「えっ……? それはエルフの秘術を調べるためじゃないか?」
「そうではないんですよ。私の仕事は、寝ることなんです。ここに来てから、私は十分に寝ていません。つまり、仕事を十分に出来ていない。これは危険です。訴訟問題です」

 それもこれも、全てミリアさんのせいです。
 飽きたら適当に姿をくらまそうと思っていたのに、あの人が安易に馬鹿国王の招待を受けたから、その日まで私がここに待機しなきゃいけなくなりました。

 本音を言うと、今すぐ帰りたいです。

 そしてぶっちゃけると、ここにエルフの秘術に関する情報はありませんでした。
 ミリアさんが介入して来なければ、もう王国に滞在する理由はありませんでした。

 ……あの人と出会ったら、腹いせに一発お尻叩きますか。

 いや、それだけだとただの変態みたいですね。
 お巡りさん私ではありません。犯人はウンディーネです。

『うち……!?』
『冗談です』
『……び、びっくりするから、やめてよ……!』
『すいません』

 ちょっとした遊び心だったのですが、いきなり話題を振られたウンディーネには、少し刺激が強かったようですね。

「……リフィさんは十分に寝ている方だと思うけどなぁ……夜に部屋に戻って、そこから昼までずっと寝ているんでしょ?」
「足りません」
「えっ?」
「足りません」
「そ、そうなんだ……ちなみに、どれくらい寝たら満足するの?」
「一日最低でも24時間は寝ていないと、足りませんね」
「それ一日全部使っているよね!?」
「あはは……冗談です」
「そう、だよね。流石に冗だ──」
「あと半日は欲しいです」
「更に追加してきた!?」

 だから私は寝ているのが普通なのです。
 こうやって起きて頑張っている私に、世界はスタンディングオベーションをするべきなのです。
 この世界の住人はそもそも、スタンディングオベーションと言うものを知らないのでしょうね。

 ……ああ、異文化の差を感じています。
 少し寂しいです。
 寂しくて眠くなってきました。

「どうしてリフィさんは、そこまで眠りたがるの?」
「…………好きだからですよ。それ以外に理由はありません」

 これは嘘です。
 地球でブラックに疲れたから、この世界ではずっと寝ていたい。
 そう言ったら、異世界人だとバレてしまいます。
 それで勇者と関連づけられたら、本当に面倒ごとの予感しかしません。

 なので私は、嘯きます。

 私は仲間に嘘を付きません。
 ですが、古谷さんは違います。
 この人は、私の仲間ではありません。

 ──やはり私の居場所は、あの魔王城だけなのでしょうね。

『……リーフィア…………』

 あんなにサボれる職場は、他にはありませんからね……!

『リーフィア!?』
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