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第1章

勇者も騒々しかったです

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 こんにちは、リーフィアです。

 ひょんなことからスパイの真似事をすることになり、特別怪しまれることなく、数日が経過しました。
 ミリアさん達への報告は全て、ウンディーネに任せています。

 と言っても、今のところ役に立つ情報は入手していません。強いて言うならば、今の王様は女好きだということくらいでしょうか。

 何でその程度の情報量なのかって?
 だって、あの謁見の日以降、貸し出された部屋から一歩も外に出ていませんからね。
 情報収集も何もありません。

 ウンディーネの報告によると、ミリアさんはとても文句を言いたげにしていたそうです。
 ですが、それは出来ません。人の国に逃げ込んだ者勝ちってことです。ざまぁ。

 ……と言いつつ、この生活に飽きてきました。

 出される料理は美味しいです。
 朝昼晩お昼寝が出来ます。
 ですが、ベッドがダメです。
 魔王城のベッドと比べると、雲泥の差があります。
 あのふかふかに慣れてしまった私は、もうあれ無しでは生きられない体になっていました。

 眠れはしますが、満足は出来ません。

 なので、そろそろ動き出そうかと思っていた時、部屋の扉が叩かれました。

「リフィさん? 起きてるかい?」

 この声は……古谷さんですね。剣の勇者です。
 こんな朝から何の用でしょうか?

「もうお昼だよ。そろそろ起きた方がいい」

 おっと、朝ではないようですね。
 気分は朝ですけど、そうですか。もうお昼ですか。

 お休みなさい。

「って、二度目しようとしているでしょ!? ダメだよ、エルフの秘術を探すんでしょう?」

 ドンドンッ、と扉を叩かれました。
 うーん、デジャヴを感じます。

「扉は壊さないでくださいねー」

「いや、壊さないよ!? というか、起きていたなら返事してくれ!」

 めんどくさい。
 とは流石に言えず、私はのそのそとベッドの上を移動しました。
 鍵を開けると、困り顔の古谷さんが立っていました。

「ああ、良かった。起きてくれ────な、ななっ!」

 古谷さんは徐々に視線を下げて行き、顔を真っ赤にして狼狽しました。

 ──あ、そういえば下着のままでした。

「……いやー、えっちー」

「そんな棒読みで言われても困るよ! ほ、ほら! 早く着替えてくれ!」

 バンッ! と勢いよく扉を閉められてしまいました。
 反応が遅れていたら髪を挟んでしまうところでしたよ。危ないですね。

 言われた通り適当な服を掴み、それに着替えます。
 堅っ苦しいのは嫌いなので、首元が空いている動きやすいドレスが好みです。

「はい、お待たせしました」

 私は部屋の外に出ます。
 すると、古谷さんは私を見て呆けたような顔をしました。
 貴族とか王族とかのマナーは知らないので、何かおかしなところでもあるのでしょうか?

 それを聞いてみると、慌てて首を振られました。

「い、いや! その、やっぱりリフィさんって……綺麗だな、って」

「そうですか。ありがとうございます」

 子供に何を言われても、やはりトキメキませんね。
 これならヴィエラさんに褒められた方がいいかもしれません。
 あの人は女性の中でも、イケメンです。……後でお礼としてイケメンキャラを演じて貰いましょうかね。

「では、行きましょうか」

「え、行くって何処に?」

「何処って……決まっているでしょう? ここの本を読みに行きます」



          ◆◇◆



 王城の図書館は、それはそれは壮大でした。
 何冊あるんだと呆れるほどの本の数。これの中から有益な情報を探せと? ……いやいや、面倒くさ。

 つい着いた瞬間に、回れ右をしてしまいそうになりました。
 いえ、実際にやりました。
 古谷さんに連れ戻されましたが、私のやる気はごっそりと削られました。

 そして現在、私は沢山の本に囲まれていました。
 適当なテーブルを探し、古谷さんに適当な本を何冊か持って来て貰ったら、いつの間にか山のように本が積まれていました。
 もうすでに三時間が経過していますが、全く減る気配がしません。
 ……私、結構速読な方だと思ったんですけどね。自信をなくします。

 それでも古谷さんの三倍の速度で読み進めています。
 彼は難しい単語に頭を抱え、必死に理解しようとしていました。
 根は真面目なのでしょうね。でも、効率は良くありません。

「ふぅ……」

 これで50冊目。
 私は分厚い本を閉じ、一呼吸つきます。

「一度、休憩しましょうか。古谷さんもパンクしてしまう前に、落ち着いた方がいいですよ」

「……あ、ああ……そうだね。助かるよ」

 古谷さんは、紅茶を貰ってくると言って、図書館から出て行きました。
 周りには誰も居ません。

『…………ウンディーネ。居るのでしょう?』

 私は念話を使い、暇そうに待機していたであろうウンディーネに話しかけます。

『……うん、どうしたの?』

を調べて来てください。この位置、ここは見張りから死角になります。本を見るのなら、ここが安全でしょう』

 私は見取り図を取り出し、とある場所に赤丸を付けました。
 見張りは私に勇者がついているから安全だと、入口から動きません。
 閲覧を制限されている場所に行き放題です。私ではなく、ウンディーネが。

『何かあった時は、念話のみでお願いします。重要な情報があった場合は、メモをお願いします』

『わかった。すぐに始めるね……!』

 ウンディーネは元気よく、奥の方へと飛んで行きました。
 すぐに私の目から見えないところに行きましたが、あの子ならば下手なことはしないでしょう。

「お待たせ──って、どうかしたかい?」

 ちょうどいいタイミングで、古谷さんが帰ってきました。
 どうやらボーッとしていた私が気になったようです。怪しまれないよう、適当に誤魔化します。

「……いえ、少し疲れたなーって思っていただけです」

「仕方ないよ……こんな量だからね。この短時間でここまで読み進めているリフィさんが凄いんだよ」

「そうですか?」

「そうだよ。正直、そう思うよ」

「はぁ……」

 それはあなたが、この世界を理解していなさすぎるだけなのでは?
 そう思いましたが、口には出しませんでした。
 むしろ、ここまで順応している私の方がおかしいのでしょう。

 私は地球での生活に疲れ果てていたので、異世界に来れて喜びました。だからすぐに対応出来ました。
 ですが、古谷さん達は召喚されました。何の事前情報もなく、いきなり異世界です。
 普通は混乱します。

「あなたは、頑張っている方だと思いますよ」

 だから、私は素直な感想を述べました。
 古谷さんは数秒呆けた顔を晒し、嬉しそうに笑いました。

「ありがとう。そう言ってくれると、嬉しいよ」
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