60 / 64
第57話 どうしてこうなるの?
しおりを挟む私達はその後も特に問題を起こすことなく、洞窟の深いところまで辿り着いた。
「……この先だ」
今居るところの先は、急な下り坂になっている。
多分、逃げられないような造りにしているんだと思う。
攫われたと思われる人間の反応は、とても弱い。
魔物達に嬲られて、良いようにやられて、歩くことすら難しい状態だと予想する。
そんな中でも魔物達の目を掻い潜って逃げ出そうとする人がいるかもしれない。
でも、その人だって弱っているはずだ。そんな状態で急な上り坂を駆け上がるのは、無理な話だろう。
──この魔物達を統率している個体には知性がある。
私がそう話すと、エリスはすぐに信じてくれた。
魔物の中にも知性を持つ奴もいる。
ここまで大きな洞窟を持ち、大勢の魔物を従えているから、知性を持ち合わせていてもおかしくはない。
エリスは警戒心をより強め、道の先を覗き込んだ。
「……カガミ。坂の前に見張りは居るか?」
「居ないよ。さっき下がって行った。定期的に報告でもさせているんじゃないかな?」
「私達の侵入がバレている可能性は?」
「ある……と考えた方が良いかもね。全部の魔物に定期報告をさせているなら、報告が来ない部隊が出ているだろうし、そこに疑問を抱いていてもおかしくない」
「厄介だな」
エリスは難しい表情で腕を組み、地面に座り込んだ。
今私達が居るのは、見張り達からはちょうど死角になる場所だ。
焦らずにゆっくりと考える時間はある。
「カガミ。もう一度聞くが、最奥に居る魔物の数は……」
「小さいのが100。少し強そうなのが60。強いのが10。リーダー格が1……合計で171だね」
その後ろに、攫われた死にかけの反応が複数。多分それは人間だ。
「さて、どうするか。狭い中で多数を相手に戦うのは危険だ。……何か、良い策はないだろうか」
「火を転がして炙り出す?」
「人質が危険だ。却下」
「水を流し込む?」
「同じ理由で却下」
腕を組み、考える。
人質が安全で、それで敵を殺せる作戦。
うーーーーーーん。
「わからないや」
「…………もう少しだけ作戦の幅を増やそうな。どうして全ての作戦が実力行使なのだ?」
「脳筋なので仕方ないと思われます、隊長」
「誰が隊長だ、誰が。可愛い見た目して脳筋とか、残念にも程があるだろう」
「今の言葉はちょっと傷つきました」
「真実を言ったまでだ」
ぐうの音も出ないとはこのことか。
……と言われても、エリスの望むような考えは思い付かない。
私が取得しているスキルの中に、何か役立てられるものがあればいいんだけど……これが残念なことに無いんだよなぁ。
「何か、良いスキルが欲しいなぁ」
【承諾。挑発を取得しました】
──あ、と思った時にはもう遅い。
私は新しいスキル『挑発』を覚えていた。
「エリスエリス、覚えた」
「覚えたって……まさか、スキルか?」
頷くと、なぜか盛大な溜め息を吐かれた。
「……それで、次は何を覚えたんだ?」
「挑発ってスキルだよ」
「どのようなスキルなのだ? 使い方とかは?」
「多分、敵を私に誘導させるスキルで……こう、挑発! って言えば、」
「──っ、ばか!」
「え?」
──ドドドドドドドドドドドドッ!
と、洞窟の最奥から地鳴りが聞こえた。
サァ……と顔から血の気が引いた私達は、会話をする暇もなくその場から走り出す。
脇目も振らない全力逃走。
後ろからは、地鳴りのような足音が継続して迫って来ている。
「おまっ、本当にいい加減にしろよ!?」
「ごめんなさい!」
「折角いい感じに進んで来たのに、どうしてお前はこう……!」
「ごめんなさーい!」
「やらかす前に一度私に言ってからにしろと、注意したはずだよな!?」
「本当に申し訳ありません!」
【どうしてこうなるのです?】
どこかから、そんな声が聞こえた気がした。
でも、そんな声に構っている余裕があるはずはなく、私はとにかく一刻も早くここから逃げようと、全力で足を動かし続けるのだった。
0
お気に入りに追加
984
あなたにおすすめの小説
「異世界で始める乙女の魔法革命」
(笑)
恋愛
高校生の桜子(さくらこ)は、ある日、不思議な古書に触れたことで、魔法が存在する異世界エルフィア王国に召喚される。そこで彼女は美しい王子レオンと出会い、元の世界に戻る方法を探すために彼と行動を共にすることになる。
魔法学院に入学した桜子は、個性豊かな仲間たちと友情を育みながら、魔法の世界での生活に奮闘する。やがて彼女は、自分の中に秘められた特別な力の存在に気づき始める。しかし、その力を狙う闇の勢力が動き出し、桜子は自分の運命と向き合わざるを得なくなる。
仲間たちとの絆やレオンとの関係を深めながら、桜子は困難に立ち向かっていく。異世界での冒険と成長を通じて、彼女が選ぶ未来とは――。
異世界の無人島で暮らすことになりました
兎屋亀吉
ファンタジー
ブラック企業に勤める普通のサラリーマン奥元慎吾28歳独身はある日神を名乗る少女から異世界へ来ないかと誘われる。チートとまではいかないまでもいくつかのスキルもくれると言うし、家族もなく今の暮らしに未練もなかった慎吾は快諾した。かくして、貯金を全額おろし多少の物資を買い込んだ慎吾は異世界へと転移した。あれ、無人島とか聞いてないんだけど。
異世界に来ちゃったよ!?
いがむり
ファンタジー
235番……それが彼女の名前。記憶喪失の17歳で沢山の子どもたちと共にファクトリーと呼ばれるところで楽しく暮らしていた。
しかし、現在森の中。
「とにきゃく、こころこぉ?」
から始まる異世界ストーリー 。
主人公は可愛いです!
もふもふだってあります!!
語彙力は………………無いかもしれない…。
とにかく、異世界ファンタジー開幕です!
※不定期投稿です…本当に。
※誤字・脱字があればお知らせ下さい
(※印は鬱表現ありです)
父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる
兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。
悪役令嬢は、初恋の人が忘れられなかったのです。
imu
恋愛
「レイラ・アマドール。君との婚約を破棄する!」
その日、16歳になったばかりの私と、この国の第一王子であるカルロ様との婚約発表のパーティーの場で、私は彼に婚約破棄を言い渡された。
この世界は、私が前世でプレイしていた乙女ゲームの世界だ。
私は、その乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった。
もちろん、今の彼の隣にはヒロインの子がいる。
それに、婚約を破棄されたのには、私がこの世界の初恋の人を忘れられなかったのもある。
10年以上も前に、迷子になった私を助けてくれた男の子。
多分、カルロ様はそれに気付いていた。
仕方がないと思った。
でも、だからって、家まで追い出される必要はないと思うの!
_____________
※
第一王子とヒロインは全く出て来ません。
婚約破棄されてから2年後の物語です。
悪役令嬢感は全くありません。
転生感も全くない気がします…。
短いお話です。もう一度言います。短いお話です。
そして、サッと読めるはず!
なので、読んでいただけると嬉しいです!
1人の視点が終わったら、別視点からまた始まる予定です!
寝て起きたら世界がおかしくなっていた
兎屋亀吉
ファンタジー
引きこもり気味で不健康な中年システムエンジニアの山田善次郎38歳独身はある日、寝て起きたら半年経っているという意味不明な状況に直面する。乙姫とヤった記憶も無ければ玉手箱も開けてもいないのに。すぐさまネットで情報収集を始める善次郎。するととんでもないことがわかった。なんと世界中にダンジョンが出現し、モンスターが溢れ出したというのだ。そして人類にはスキルという力が備わったと。変わってしまった世界で、強スキルを手に入れたおっさんが生きていく話。※この作品はカクヨムにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる