転生少女は欲深い

白波ハクア

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第57話 どうしてこうなるの?

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 私達はその後も特に問題を起こすことなく、洞窟の深いところまで辿り着いた。


「……この先だ」

 今居るところの先は、急な下り坂になっている。

 多分、逃げられないような造りにしているんだと思う。

 攫われたと思われる人間の反応は、とても弱い。
 魔物達に嬲られて、良いようにやられて、歩くことすら難しい状態だと予想する。

 そんな中でも魔物達の目を掻い潜って逃げ出そうとする人がいるかもしれない。
 でも、その人だって弱っているはずだ。そんな状態で急な上り坂を駆け上がるのは、無理な話だろう。


 ──この魔物達を統率している個体には知性がある。
 私がそう話すと、エリスはすぐに信じてくれた。


 魔物の中にも知性を持つ奴もいる。
 ここまで大きな洞窟を持ち、大勢の魔物を従えているから、知性を持ち合わせていてもおかしくはない。


 エリスは警戒心をより強め、道の先を覗き込んだ。


「……カガミ。坂の前に見張りは居るか?」

「居ないよ。さっき下がって行った。定期的に報告でもさせているんじゃないかな?」

「私達の侵入がバレている可能性は?」

「ある……と考えた方が良いかもね。全部の魔物に定期報告をさせているなら、報告が来ない部隊が出ているだろうし、そこに疑問を抱いていてもおかしくない」

「厄介だな」

 エリスは難しい表情で腕を組み、地面に座り込んだ。


 今私達が居るのは、見張り達からはちょうど死角になる場所だ。
 焦らずにゆっくりと考える時間はある。


「カガミ。もう一度聞くが、最奥に居る魔物の数は……」

「小さいのが100。少し強そうなのが60。強いのが10。リーダー格が1……合計で171だね」

 その後ろに、攫われた死にかけの反応が複数。多分それは人間だ。


「さて、どうするか。狭い中で多数を相手に戦うのは危険だ。……何か、良い策はないだろうか」

「火を転がして炙り出す?」

「人質が危険だ。却下」

「水を流し込む?」

「同じ理由で却下」


 腕を組み、考える。
 人質が安全で、それで敵を殺せる作戦。



 うーーーーーーん。



「わからないや」

「…………もう少しだけ作戦の幅を増やそうな。どうして全ての作戦が実力行使なのだ?」

「脳筋なので仕方ないと思われます、隊長」

「誰が隊長だ、誰が。可愛い見た目して脳筋とか、残念にも程があるだろう」

「今の言葉はちょっと傷つきました」

「真実を言ったまでだ」

 ぐうの音も出ないとはこのことか。

 ……と言われても、エリスの望むような考えは思い付かない。
 私が取得しているスキルの中に、何か役立てられるものがあればいいんだけど……これが残念なことに無いんだよなぁ。


「何か、良いスキルが欲しいなぁ」

【承諾。挑発を取得しました】


 ──あ、と思った時にはもう遅い。
 私は新しいスキル『挑発』を覚えていた。


「エリスエリス、覚えた」

「覚えたって……まさか、スキルか?」

 頷くと、なぜか盛大な溜め息を吐かれた。

「……それで、次は何を覚えたんだ?」

「挑発ってスキルだよ」

「どのようなスキルなのだ? 使い方とかは?」

「多分、敵を私に誘導させるスキルで……こう、挑発! って言えば、」

「──っ、ばか!」

「え?」







 ──ドドドドドドドドドドドドッ!







 と、洞窟の最奥から地鳴りが聞こえた。

 サァ……と顔から血の気が引いた私達は、会話をする暇もなくその場から走り出す。


 脇目も振らない全力逃走。
 後ろからは、地鳴りのような足音が継続して迫って来ている。


「おまっ、本当にいい加減にしろよ!?」

「ごめんなさい!」

「折角いい感じに進んで来たのに、どうしてお前はこう……!」

「ごめんなさーい!」

「やらかす前に一度私に言ってからにしろと、注意したはずだよな!?」

「本当に申し訳ありません!」





【どうしてこうなるのです?】





 どこかから、そんな声が聞こえた気がした。
 でも、そんな声に構っている余裕があるはずはなく、私はとにかく一刻も早くここから逃げようと、全力で足を動かし続けるのだった。

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