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 貴婦人というものはよく気絶したり歩けなくなったりするなぁ、繊細だなぁ。コルセットがきついなら、少し緩めればいいのに。

 そう思っていた時期が私にもありました。

 まだ子どもだったから、昼間の園遊会や親族のパーティくらいにしか出たことはなかったけれど、ついさっきまで穏やかに歓談していた女性がなんの前触れもなしにふらふらとよろめいて、息を荒らげて立ち上がれなくなっているところに、伴侶が助けにきて颯爽と帰っていく、なんていうことはしょっちゅうだった。一度、「大丈夫ですか」と声を掛けたら、「来ないで!」と拒絶された上に、周りの大人達に「放っておいてあげなさい」と諭されたこともある。

 そういえば、女性だけのお茶会で、「旦那さまのいたずら」について聞いたこともあったけれど、よくわからなかったから微笑んで流していた。

 すべてを悟ったのは、3年前、14歳で前世の記憶が戻った瞬間だった。前世の私は、日本という国で、性にまつわる情報がふんだんに手に入る中で大人になり、そういう方面に多大な関心を持っていた。自分では経験がないまま死んだと思うけれど、その記憶と照らし合わせれば、これまで目にし、耳にしてきたことの意味するところはひとつだった。

(この世界の社交界……、大人のおもちゃを仕込むプレイが流行ってやがる……!)

 それに気づいてから、さり気なくすでに結婚した年上のお友達に確認してみたことがある。そのときには同世代のお友達も幾人かいたのだけど、彼女たちには、前世的に言えば「サンタクロースがいないということをその年まで知らなかったの?」みたいな目で見られた。この貴族社会において、私は相当な純粋培養で育ったらしい。確かに、奔放な社交界の中で、我が家はかなり貞淑さを重視する、お硬いお家柄である。

 彼女たちにさらに突っ込んで聞いてみれば、前世にはなかった魔法という手段で、さまざまな性具が作られているということだった。電池の代わりに魔力で震えるバイブレーターや、超小型化されてクリトリスや乳首に付けたまま取れないようにできるローター、男性向けにエネマグラ的なものもあるようだ。ただ、高価なものであるため、貴族の間にしか普及していないらしい。

 それ以降、廊下の片隅で壁ドンされ、「止めてほしいか……?」なんて聞かれている顔を真っ赤にした女性とか、「あんっ」と声を上げてしまい、手にした扇子で顔を隠して走り去ろうとしたのに足をもつれさせて転んでしまって、びくびく身体を震わせながら伴侶にお姫様抱っこされて連れて行かれる女性とか、はたまた庭の片隅で、立てなくなっている男性の股間を女性が踏みつけているところなんかも目にした。

(性について開放的な社会だなぁ)

 前世の記憶が戻って興味津々になった私は、特に嫌悪を覚えることもなく、楽しく周囲の観察をするようになった。
 でも、私はまだ子どもだったのだと思う。まさか自分の身にそれが降りかかるとは、考えてもみなかったのだから。
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