私の完璧な彼氏さん

むつき紫乃

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彼と彼女の新しい関係

◆ 46

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「はっ……」

 ぬめった柔らかい舌が敏感な部位を優しく撫でる。何度も何度もいろんな角度で舐めあげては頂点に口付けを残していく。熱を滾らせたそれが十分に唾液にまみれたところで今度は手も交えた愛撫をはじめた。手と舌で巧みに快感を与えながら、流し目で挑発するように鷹瑛を見つめる。

 あまりにも扇情的な光景に、思わず目をつぶった。雪乃の口淫は初めてではないが、前回とは比較にならないほど官能的で、勘弁してくれと叫びたかった。

 声が出ないようにと喉に力を込めるが、不意をつくように強い刺激を与えられると情けない声が漏れるのは止めようもない。彼女の手のひらの上で転がされているような錯覚を覚えた。

 視界を閉ざして恐ろしい快楽にひたすら耐えていると、舌がすっと離れて「鷹瑛さん」と呼びかけられる。
 さっさととどめを刺してほしいような投げやりな気持ちになりながら目を開けると、そこには眉を寄せて唇を尖らせている雪乃がいた。

「ちゃんと見て?」

 ねだるような声音に鷹瑛は心の中で頭を抱えた。
 強気な態度をとったかと思えば、そんなふうに拗ねて見せるのは、果たして意図的なのか天然なのか。可愛すぎて許したくなってしまう。

 視線が逸らされないことを確認すると、彼女は再び手を動かしはじめた。恍惚と剛直をくわえる姿に、抵抗の意志を放棄したくなってくる。

「鷹瑛さん、好き……」

 そんなふうに、愛する女性に甘えの混じった呟きを聞かされながらしゃぶられて、欲情しない男がいるとでも?

 懸命に奉仕されたらほだされるし、頭を撫でてやりたくなる。抱きしめて、組み敷いて、あますところなく撫でまわして慰めたい。愛しているのだと耳元で囁きたい。
 なにを考えているのだと叱咤する頼りない理性を手放して、雪乃と愛し合うためだけに、腕をほどいてくれと懇願したくなる。

「ゆきの、もう……」

 熱杭の裏筋をちろちろと舐められて鷹瑛は早々に白旗をあげた。丁寧に尽くされた肉棒は今にも暴発しそうに張り詰めていた。

 出したい。出したくてたまらない。可愛い恋人のナカに挿し込んで熱いものを注ぎ込みたい。

 拘束されていては小さな口から自身を引き抜くことすらままならず、このまま口内に吐精することを覚悟した。抵抗がないわけではなかったが、欲が圧倒的に勝っていた。
 柔らかな唇が血管の浮き上がった肉棒を包み込んで強めに擦りあげる。腰のあたりから全身を突き抜ける圧倒的な快楽が迫り来るのを感じ、身構えた。

 だが、待ち望んだそれが与えられることはなかった。絶頂を極める直前で、鷹瑛を駆り立てていた淫靡な責め苦がぴたりとやんだのである。

「え……」

 寸止めを食らった哀れな男の分身を無情なほどあっさりと見捨てた雪乃は、ベッドの上に伸びた硬い脚の上に座り込んだ。柔らかな尻が膝に乗る。
 そして誘惑するように顔を傾けた。

「欲しいですか?」

 鷹瑛は目を見開いた。
 欲しい、と反射で動きかけた口を慌ててつぐむ。

 彼女の狙いに気づいて愕然とした。関係の終わりを望む鷹瑛から身体を求めさせようとするなんて、なんと意地の悪いことを思いつくのだ。

「いや……」

 その欲求をこらえるには、とてつもない努力を要した。
 雪乃が真意を探るように顔をのぞきこんできた。

「本当ですか?」
「ああ」

 意志の力をかき集めて最大限にそっけなく頷くと、彼女の瞳に一瞬だけうろたえるような色が浮かんだ。けれどもすぐに口を引き結ぶ。
 そして当然のように自身の服に手をかけたので、鷹瑛はぎょっとした。

「ちょっ……なにやって」

 ほっそりとした手がブラウスのボタンを上から一つずつ外していく。信じられない気持ちで凝視した。

「脱いでます」

 少し強ばった声には意地のようなものが滲んていて、やめさせなければと思った。しかし、両腕は背中の後ろで縛られ、両脚は雪乃の下だった。

 手が出せないでいるうちに腕から引き抜かれたブラウスがベッドの下に落とされて、次いでスカート、タイツが重なった。
 最初はスムーズだった脱衣には、徐々に恥じらいが見え始める。

「雪乃、やめろ。そんなことしなくていいから」

 なんとかなだめようとする。だが彼女は恥ずかしがっているくせにやめようとはしない。

 頬を染め、こちらをちらちらと窺いながら自ら下着を取り去る姿は、堂々とされるよりもよほど男をよからぬ気分にさせる。無自覚なのだろうが、鷹瑛の視線を避けようとする仕草は色っぽさがあって無性にどきまぎさせられた。思いとどまらせるべきなのに、その魅惑的な光景に吸い寄せられる視線をどうにもできなかった。

 雪乃の身体は、控えめな胸から細いウエスト、柔らかなヒップまでの曲線が美しく、実に自分好みなのだ。白い肌には昨夜付けた赤い印がところどころに散っていて、罪悪感というスパイスをまとった色香がまた鷹瑛を誘惑してやまない。

「鷹瑛さん……」

 一糸まとわぬ姿になった彼女が恥ずかしさに震える声で名を呼ぶ。潤んだ瞳で見つめられて、ごくりと喉を鳴らした。
 身体に腕を巻き付けて大事な部分を隠そうとするポーズが、今すぐ食べてしまいたいくらいに愛らしい。露出させられた熱は先を期待して硬くみなぎっている。

 雪乃が望んでいる言葉は分かっている。「雪乃が欲しい」、その一言を言わせるためだけにここまでしているのだ。それさえ言えば、鷹瑛が求めるものは与えられるのだろう。だからこそ、それを口にするわけにはいかなかった。

 膝の上の尻がもじもじと揺れる。

「まだ、欲しくない……ですか?」

 すがるように訊ねられてたじろぐ。

 襲われているのは鷹瑛なのに、自分がいじめている側のような気分にさせられるのはどうしてだろう。身体を拘束されてたまらない辛抱を強いられているのに、泣き出しそうな彼女を前にして別の興奮が湧いてくるのは?

 頭を振って、煩悩を振り払おうとした。

「君が望む言葉を、僕が言うことはない」

 半ば自分に言い聞かせるように告げると、雪乃はきゅっと唇を噛んだ。
 諦めてくれと心の底から願った。

 それなのに今度は、脚の上に座り込んだまま自分の両膝を立て、その奥を見せつけようとするものだから、鷹瑛はたまらずに叫んだ。

「なんでそこまでするんだ!」

 彼女はびくりと肩を揺らしたが、怯えることなくこちらをにらんだ。

「そんなの」

 固く握られた雪乃の拳が震えている。

「あなたのことが、好きだからに決まってます!」

 怒りのあまりにか躊躇いのなくなった動きで大胆に脚が開かれる。濡れた秘部が目の前にさらされた。赤く色づいた襞がひくついていて、男の熱いものを欲しがっている。

 ぞくりとする興奮が背筋を駆け上がった。彼女に触れたい。その秘裂に指を這わせて舐めあげたい。腕を自由に動かせなくてこれほど口惜しいことがあるだろうか。

 雪乃は自身の指でおそるおそるそのあわいに触れて、小さな口から艶めかしい息をこぼす。

「はぁ……んっ……」

 鷹瑛と視線を絡めながら自分を慰める。

 男の前でこんなことをしたことはないのだろう、頬どころか耳も身体も赤く染まっている。その中でもとりわけ濃い赤に彩られた部位に自分の指を挿し込んで快感に身悶えしている。視線を下におろしてとろとろにほぐれた秘所をじっとりと見つめられると、彼女の性感はとりわけ高まるようだった。

 視姦されてさらに感じるなんて雪乃は異常なのではないだろうか。それで苦しいくらいに興奮している鷹瑛も同じくらい異常だ。

 濡れた襞の間に息づく快楽の芽に細い指が伸びる。指先で弾くたびに、身体をびくびく跳ねさせる。呼応するようにこちらの呼吸もまた荒くなる。下半身の熱は触れられてもいないのに、透明な液体をだらだらとこぼしていた。限界だった。

「雪乃、頼むから。ほどいてくれ……っ」

 焦らされすぎてつらい。とにかく出したい。これほど煽られて自分で扱くことすらできないなんて、とんでもない拷問だ。
 自慰にふける彼女も滾る剛直を熱く見つめていて、中に欲しいに違いないのだ。互いに焦らしあって苦しんでいるなんで意味がわからない。

 けれども雪乃はまだ首を横に振る。

「だめ……っ、ちゃ、んと言ってくださ…………んっ」

 なんて強情なんだ!

「雪乃が欲しい……! 入れさせてくれ!」

 心の中で毒づきながら、鷹瑛はやけくそで叫んだ。
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