6 / 8
僕と彼女とその一夜②
しおりを挟む
僕の二、三歩前を機嫌よさげな頼子さんが軽い足取りで歩いている。
手を捕まえているから安心して見守っていられるけど、酔っ払った彼女はまるで警戒心がなくてなんだか危なっかしい。
時折振り返っては僕の顔を見てにっこり笑う。つられて僕が微笑むと、さらに嬉しそうにする。
こんな懐いているふうに接してもらうと、もしかして意外と心を開いてもらえてるんじゃないか、なんて勘違いしてしまいそうになる。きっと、酔っ払ったら誰にでもこうなんだと考えて、もう下手な希望は持たないようにした。
すると、いつの間にか隣に戻っていた頼子さんがじっと僕の顔を見て、つんつんと額をつついた。
「眉間にシワできてるよ。悩み事?」
どうやら胸の内が表に出てしまっていたみたいだ。
「うーん、ちょっと……」
ちらりと横目でうかがうと、心配げな表情は普段の歳上らしい雰囲気を少しだけ取り戻している。やっぱり別人ではないんだと当たり前のことに安堵した。
「どうしたの? 聞くよ?」
そんなふうに訊ねる頼子さんは、酔いのせいで昨夜の出来事など忘れているのかもしれない。
僕が悩んでいるのはあなたのことですよ。
少し意地悪な気持ちになって、言うつもりのなかった言葉が口をついた。
「僕のこと、好きですか?」
いや、だからってこれは酔った相手に聞くべきじゃない。
でも僕はずっと不安で、もう限界だったから。
頼子さんは即答した。綺麗な微笑つきで。
「好きだよ」
桃色の唇がその言葉を紡いだ途端、たまらず僕は細い身体を抱きしめていた。加減ができなくて、腕の中から微かな悲鳴が上がる。少しだけ力を抜いた僕は小さな頭に頬ずりした。
なんかもう、これだけでいい。頼子さんが好きだって口にしてくれた事実だけで満足。酔っ払いの戯れ言だってかまわないんだ。
そう思ってしまうほど、僕の精神は参っていた。
ぎゅっと隙間なく身体をくっつけたら、彼女もおずおずと背中に手を回してくれて、触れ合ったところからちょっと駆け足な鼓動が伝わる。
熱いと思っていた頼子さんの体温はいつの間にか僕にも移って、二人で寄り添っているのがとてもとても気持ちがよかった。
彼女が応じてくれたことに舞い上がって、どうせならもっと気持ちよくなりたいなんて、浅ましいことを考えてしまう。
不埒な欲求に突き動かされた僕は、さっと抱擁を解くと彼女の手をつかんで二人きりになれる場所を一心に目指した。
頼子さんの部屋に帰りついたその足でベッドに直行する。
口付けを交わし押し倒したところで、はっと思い出した。
「コンドーム……」
タイミングよく持ってたりするわけがない。
しかもよく考えたら、酔った勢いのセックスなんて頼子さんの意思を無視することにもなるんじゃないか。
こんな千載一遇のチャンス、もう二度とないかもしれないけど、我慢……。
悲壮な決意を固めていたところで、僕の下にいた頼子さんがちょいちょいと袖を引く。
「あるよ」
「え?」
「コンドーム。昨日買っておいたから……」
まるで秘密を打ち明けるように、恥ずかしそうにベッド脇の棚を指す。ドラッグストアのレジ袋に包まれた小箱がそこにあった。
「それって……」
昨日の頼子さんには、僕とそうなるつもりがあったってこと?
――喜びでどうにかなるんじゃないかと思った。
「頼子さん」
思わず呼んだ声は、速まる鼓動のせいで上擦っていた。
「なに?」
ベッドに横たわる頼子さんが僕を見上げる。それだけで胸が熱くて燃えてしまいそうだ。
「僕のこと、好きですか?」
「……うん」
「ちゃんと言葉で言ってください」
僕がせがむと、彼女の頬の赤みがじわっと増した。
「何度も言わせないで……」
顔を隠すようにシーツを引き寄せ、それでもか細い声でまた「好き」と言ってくれた。
こんな彼女を前にして、我慢なんて無理。
僕はシーツを奪いとってベッドから落とすと、頼子さんの唇に吸い付いた。
「ん、ふっ……んぅ……っ」
ちゅっちゅっとわざと音をたてながら滑らかな唇を丹念に味わった。それから隙間に舌を差し込み、奥で恥じらうそれを絡めとる。
頼子さんの舌は薄くて柔らかかった。それに敏感。ちゅうちゅうと吸い立てると「んっ、んっ」と声を漏らして身体がピクピク震える。
彼女の色っぽい声と水音で僕の興奮はぐんぐん高まっていった。
互いの口の周りがべとべとになるまでキスを堪能して、唾液を舐め取りながら頼子さんの首筋へと降りていく。手は胸元をまさぐり、ブラウスのボタンを一つずつ外す。
「はぁ……ん、は……」
デコルテのやわやわとした触れ方は少しもの足りないらしい。もどかしそうな吐息に合わせて腰のあたりがもぞもぞ動いている。それを焦らすようにじっくりと首筋から鎖骨にかけて口付けを繰り返していると、頼子さんの両手が僕の顔を挟んだ。
「も……早く、して」
眉を下げていじらしくおねだりされたら、僕なんてイチコロに決まってる。
「分かりました」
返事をしてから、僕の行動は早かった。
頼子さんの衣服をすべて剥ぎ取り、自分もワイシャツを脱ぎ捨てる。白い肌を赤く染め、恥ずかしがる頼子さんの身体を開かせて愛撫し、キスの雨を降らせた。
その傍らで忍び込ませるように指を秘裂に差し込むと、とろりとした温かい愛液に触れて僕は嬉しくなった。指をさらに押し進めると、蜜壷は抵抗なくするりと受け入れ、さらにもっとと誘い込むようにひくひくうごめいた。
「すごい。頼子さん、ここもう入れそう」
まだ前戯を始めたばかりなのに、濡れやすいんですね。
とは口に出さなかったけれど、十分伝わったようだ。頼子さんが真っ赤になった顔を両手で押えた。
「そういうの、教えてくれなくていいからっ。オミくんも早く脱いで」
顔だけじゃなく手や肩まで赤くしているのがたまらない。
いつもクールな頼子さんがベッドではこんなにも可愛らしいなんて。彼女が望むなら、めちゃくちゃ丁寧に尽くしてあげたくなる。
そんな惚けたことを考えながら、ベルトのバックルに手をやったとき、下半身の異変に気がついた。
「あれ……?」
――勃ってない。
手を捕まえているから安心して見守っていられるけど、酔っ払った彼女はまるで警戒心がなくてなんだか危なっかしい。
時折振り返っては僕の顔を見てにっこり笑う。つられて僕が微笑むと、さらに嬉しそうにする。
こんな懐いているふうに接してもらうと、もしかして意外と心を開いてもらえてるんじゃないか、なんて勘違いしてしまいそうになる。きっと、酔っ払ったら誰にでもこうなんだと考えて、もう下手な希望は持たないようにした。
すると、いつの間にか隣に戻っていた頼子さんがじっと僕の顔を見て、つんつんと額をつついた。
「眉間にシワできてるよ。悩み事?」
どうやら胸の内が表に出てしまっていたみたいだ。
「うーん、ちょっと……」
ちらりと横目でうかがうと、心配げな表情は普段の歳上らしい雰囲気を少しだけ取り戻している。やっぱり別人ではないんだと当たり前のことに安堵した。
「どうしたの? 聞くよ?」
そんなふうに訊ねる頼子さんは、酔いのせいで昨夜の出来事など忘れているのかもしれない。
僕が悩んでいるのはあなたのことですよ。
少し意地悪な気持ちになって、言うつもりのなかった言葉が口をついた。
「僕のこと、好きですか?」
いや、だからってこれは酔った相手に聞くべきじゃない。
でも僕はずっと不安で、もう限界だったから。
頼子さんは即答した。綺麗な微笑つきで。
「好きだよ」
桃色の唇がその言葉を紡いだ途端、たまらず僕は細い身体を抱きしめていた。加減ができなくて、腕の中から微かな悲鳴が上がる。少しだけ力を抜いた僕は小さな頭に頬ずりした。
なんかもう、これだけでいい。頼子さんが好きだって口にしてくれた事実だけで満足。酔っ払いの戯れ言だってかまわないんだ。
そう思ってしまうほど、僕の精神は参っていた。
ぎゅっと隙間なく身体をくっつけたら、彼女もおずおずと背中に手を回してくれて、触れ合ったところからちょっと駆け足な鼓動が伝わる。
熱いと思っていた頼子さんの体温はいつの間にか僕にも移って、二人で寄り添っているのがとてもとても気持ちがよかった。
彼女が応じてくれたことに舞い上がって、どうせならもっと気持ちよくなりたいなんて、浅ましいことを考えてしまう。
不埒な欲求に突き動かされた僕は、さっと抱擁を解くと彼女の手をつかんで二人きりになれる場所を一心に目指した。
頼子さんの部屋に帰りついたその足でベッドに直行する。
口付けを交わし押し倒したところで、はっと思い出した。
「コンドーム……」
タイミングよく持ってたりするわけがない。
しかもよく考えたら、酔った勢いのセックスなんて頼子さんの意思を無視することにもなるんじゃないか。
こんな千載一遇のチャンス、もう二度とないかもしれないけど、我慢……。
悲壮な決意を固めていたところで、僕の下にいた頼子さんがちょいちょいと袖を引く。
「あるよ」
「え?」
「コンドーム。昨日買っておいたから……」
まるで秘密を打ち明けるように、恥ずかしそうにベッド脇の棚を指す。ドラッグストアのレジ袋に包まれた小箱がそこにあった。
「それって……」
昨日の頼子さんには、僕とそうなるつもりがあったってこと?
――喜びでどうにかなるんじゃないかと思った。
「頼子さん」
思わず呼んだ声は、速まる鼓動のせいで上擦っていた。
「なに?」
ベッドに横たわる頼子さんが僕を見上げる。それだけで胸が熱くて燃えてしまいそうだ。
「僕のこと、好きですか?」
「……うん」
「ちゃんと言葉で言ってください」
僕がせがむと、彼女の頬の赤みがじわっと増した。
「何度も言わせないで……」
顔を隠すようにシーツを引き寄せ、それでもか細い声でまた「好き」と言ってくれた。
こんな彼女を前にして、我慢なんて無理。
僕はシーツを奪いとってベッドから落とすと、頼子さんの唇に吸い付いた。
「ん、ふっ……んぅ……っ」
ちゅっちゅっとわざと音をたてながら滑らかな唇を丹念に味わった。それから隙間に舌を差し込み、奥で恥じらうそれを絡めとる。
頼子さんの舌は薄くて柔らかかった。それに敏感。ちゅうちゅうと吸い立てると「んっ、んっ」と声を漏らして身体がピクピク震える。
彼女の色っぽい声と水音で僕の興奮はぐんぐん高まっていった。
互いの口の周りがべとべとになるまでキスを堪能して、唾液を舐め取りながら頼子さんの首筋へと降りていく。手は胸元をまさぐり、ブラウスのボタンを一つずつ外す。
「はぁ……ん、は……」
デコルテのやわやわとした触れ方は少しもの足りないらしい。もどかしそうな吐息に合わせて腰のあたりがもぞもぞ動いている。それを焦らすようにじっくりと首筋から鎖骨にかけて口付けを繰り返していると、頼子さんの両手が僕の顔を挟んだ。
「も……早く、して」
眉を下げていじらしくおねだりされたら、僕なんてイチコロに決まってる。
「分かりました」
返事をしてから、僕の行動は早かった。
頼子さんの衣服をすべて剥ぎ取り、自分もワイシャツを脱ぎ捨てる。白い肌を赤く染め、恥ずかしがる頼子さんの身体を開かせて愛撫し、キスの雨を降らせた。
その傍らで忍び込ませるように指を秘裂に差し込むと、とろりとした温かい愛液に触れて僕は嬉しくなった。指をさらに押し進めると、蜜壷は抵抗なくするりと受け入れ、さらにもっとと誘い込むようにひくひくうごめいた。
「すごい。頼子さん、ここもう入れそう」
まだ前戯を始めたばかりなのに、濡れやすいんですね。
とは口に出さなかったけれど、十分伝わったようだ。頼子さんが真っ赤になった顔を両手で押えた。
「そういうの、教えてくれなくていいからっ。オミくんも早く脱いで」
顔だけじゃなく手や肩まで赤くしているのがたまらない。
いつもクールな頼子さんがベッドではこんなにも可愛らしいなんて。彼女が望むなら、めちゃくちゃ丁寧に尽くしてあげたくなる。
そんな惚けたことを考えながら、ベルトのバックルに手をやったとき、下半身の異変に気がついた。
「あれ……?」
――勃ってない。
0
お気に入りに追加
93
あなたにおすすめの小説
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
そんな目で見ないで。
春密まつり
恋愛
職場の廊下で呼び止められ、無口な後輩の司に告白をされた真子。
勢いのまま承諾するが、口数の少ない彼との距離がなかなか縮まらない。
そのくせ、キスをする時は情熱的だった。
司の知らない一面を知ることによって惹かれ始め、身体を重ねるが、司の熱のこもった視線に真子は混乱し、怖くなった。
それから身体を重ねることを拒否し続けるが――。
▼2019年2月発行のオリジナルTL小説のWEB再録です。
▼全8話の短編連載
▼Rシーンが含まれる話には「*」マークをつけています。
元カノと復縁する方法
なとみ
恋愛
「別れよっか」
同棲して1年ちょっとの榛名旭(はるな あさひ)に、ある日別れを告げられた無自覚男の瀬戸口颯(せとぐち そう)。
会社の同僚でもある二人の付き合いは、突然終わりを迎える。
自分の気持ちを振り返りながら、復縁に向けて頑張るお話。
表紙はまるぶち銀河様からの頂き物です。素敵です!
なし崩しの夜
春密まつり
恋愛
朝起きると栞は見知らぬベッドの上にいた。
さらに、隣には嫌いな男、悠介が眠っていた。
彼は昨晩、栞と抱き合ったと告げる。
信じられない、嘘だと責める栞に彼は不敵に微笑み、オフィスにも関わらず身体を求めてくる。
つい流されそうになるが、栞は覚悟を決めて彼を試すことにした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる