自殺写真家

中釡 あゆむ

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最終章

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「あのお母さんも、お父さんも、修との触れ合い方がわからないんだ。修は昔から何を考えてんのかよく分かんない奴だったらしい。だから……」 


「そんなの、愛情が欲しいだけに決まっているわ」 


 菊の言葉に、秋が振り向いた。菊は満面の笑顔で、自信に満ち溢れた瞳で言い放つ。 


「子どもでも気難しい子はいるけど、みんな愛情が欲しいのは変わらない。お母さんに許容して欲しくて、お父さんに守ってもらいたいものよ」 


 秋は咄嗟に、亡き父と、心配ばかりかけてしまう母を思い出した。幼い頃、たくさん勉強を強いられた。母は時折庇ってくれ、ほとんど崩壊しかけていた家庭。それでも、父が家族サービスをしてくれた時の幸福感が蘇った。楽しかった。 


 秋は慌てて菊から顔を背けた。あれ、怒ったかな、と心配した声が後ろから聞こえたが無視した。目頭が熱い。感情がこみ上げてくる。 


 褒められれば嬉しかった。憎いとさえ思ったけど、父が自分を守ってくれている限り、何も怖くないとさえ思えたし、悪い点数をとっても母が許してくれた。次頑張ろう、と。不完全で、歪で、けれど一つの家庭の形。 
 涙をこらえ、秋は振り返った。出来るだけ平静を装うと菊が安心した表情をする。馬鹿な奴、と今度は心の中で唱え、違う言葉を言った。 


「よし、探そう。修がどこへ行ったか、その手がかりを」 


「でも……」 


 菊は躊躇した。秋は仲良いからいいだろうが、菊は元々赤の他人だ。そんな人間が勝手に彼の部屋を漁っていいのだろうか。 
 秋が勉強机から移動し、本棚の前で屈んで本を睨みつけ始める。そのままの姿勢で言い放った。 


「なにを躊躇ってるんだ。あんた、修に会いたいんだろ。……目的はわかってる、修が……死ぬのを止めたいんだろ」 


「君、それを知っていて……」 


 口を噤んだ。秋が振り返り、真摯な瞳で菊を映す。困惑した菊の顔が何となく可笑しくて小さく笑った。 


「ああ、あんたを手助けするってことはあいつを裏切ることになる。だが、あいつは……今のあいつは、たぶん死にたくないはずだから」 


 自分にとっての父が守ってくれる存在であったように、絶対的に与えられる死という終わりを自ら終わらせられる術を修は知ってしまった。それは悟りで、許容で、最終手段だ。それさえ持っていれば修は自分を守ることが出来ていた。 
 けれどそれはある瞬間に簡単に壊れるのだ。菊が意を決してなにかを探し始めたのを見届け、秋は本棚と向かい合った。 
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