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包丁
三
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些細な話だった。まるで死んでしまったことを忘れたかのように、クラスメイトのこと、いじめられる母のこと、うるさい父のこと、それから大好きな姉のこと。私が怖い時に手を握りしめてくれた。姉としたように、私を安心づけようとしてくれた。
それなのに、私は自分の身を案じてばかりだった。彼に捕まえられるのを恐れていた。
私はその時初めて気がついた。思わず立ち止まって、胸を抑える。心臓はない。だから鼓動もない。けれど思い出せそうだった。体温を、生の痛みを、心臓の音を、それから、誰かを……。
彼を犠牲にしてでも、消えたくないと思っていたのだ。
「お母さん……お父さんっ」
走り出す。胸中からなにかが沸き起こってくる。がむしゃらに走り、目をつぶった。
思い出ショッピングから母の愛を感じ取って、葛藤ミキサーから父の真意を確かめたくなっていた。
私はいつも他人の声を聞こうとはしなかったのだ。聞きたくてたまらなかったのに怖くて、出来なかった。
ふとなにかに躓いて、視界が不安定になった。勢いよく前転し、足を掴まれ、止まる。
それなのに、私は自分の身を案じてばかりだった。彼に捕まえられるのを恐れていた。
私はその時初めて気がついた。思わず立ち止まって、胸を抑える。心臓はない。だから鼓動もない。けれど思い出せそうだった。体温を、生の痛みを、心臓の音を、それから、誰かを……。
彼を犠牲にしてでも、消えたくないと思っていたのだ。
「お母さん……お父さんっ」
走り出す。胸中からなにかが沸き起こってくる。がむしゃらに走り、目をつぶった。
思い出ショッピングから母の愛を感じ取って、葛藤ミキサーから父の真意を確かめたくなっていた。
私はいつも他人の声を聞こうとはしなかったのだ。聞きたくてたまらなかったのに怖くて、出来なかった。
ふとなにかに躓いて、視界が不安定になった。勢いよく前転し、足を掴まれ、止まる。
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