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第3章 宿敵の家と宿敵でなくなってから
第158話 ユティさんとの、片付けのある日
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「……っていうことがあったんです」
ある日、俺はアークゲート家の屋敷を訪れていた。今日訪問した目的はユティさんの部屋の片づけの手伝いだ。結構久しぶりに彼女の部屋を訪れたけど、時間を空けただけあって少し散らかっていた。それを指摘するとユティさんは恥ずかしそうにしていたけど。
ちなみにアークゲート家の屋敷の人には、『片付けで旦那様の手を煩わせるなんて』って言う人もいるんだけど、俺自身ユティさんと話せるから別に構わないと思っている。彼女と世間話をすることも出来るし、片付け自体、結構好きだったりするからだ。
そんなわけで俺は今ユティさんと一緒に片づけをしているけれど、ちょうど話題に上げたのはアランさんとセシリアさんの件だった。
「なるほど……お二人にそんなことが……」
どうすればいいのか悩んでいるのもあって話に出して見ると、ユティさんは思い当たる様子で呟いていて。
「あれ? アランさんと関わりありましたっけ?」
と思わず聞いていた。シアやフォルス家の屋敷で一時生活していたオーロラちゃんはともかく、ユティさんとアランさんの接点はなかった筈だけど。
そう聞くと、ユティさんはいえ、と呟いた。
「直接お会いしたことはありませんが、南側の大貴族フォルス家の当主であるノヴァさんに近い人物ですから、色々と知っていることはあるといいますか……」
「なるほど……」
流石はシアの補佐をしているユティさん。貴族界隈の時事についても詳しいという事か。彼女の、というよりもアークゲートの情報網は凄いなぁ、と思うばかりだ。
ひとしきり納得して、俺は話の続きを口にした。
「セシリアさんが言うには、アランさんはどこか影があるみたいなんです。その影に関しては俺も彼との話の中でたまに感じたりします。特に夫婦の関係について……それはおそらくアランさんの父と母の関係に何か思うところがあったのではと考えているんですけど。
ただ……どうすればいいのか分からないんですよね。俺としてもアランさんとセシリアさんはお似合いだし、結ばれて欲しいとは思うんですけど」
正直な意見を述べると、ユティさんはふむ、と言って少し考え込む。
やがて彼女は片付けの手を止めて、俺の方を見た。
「まず、ノヴァさんが今思っているであろうアラン様の影……これについては概ねノヴァさんの想像通りです」
「……え?」
突然の言葉に驚いて声を出してしまう。それはつまり、アランさんは家族関連で何か暗い過去があるという事だろうか。仮にそうだとして、ユティさん、そこまで調べきっているのか……。
驚く俺を他所に、ユティさんは話を続ける。
「ただ、あくまでも私から見てですが、それは暗すぎる影ではないと思います。私はセシリアさんとは会ったことがありますが、彼女なら問題なく受け入れられて、そして彼を愛することが出来るとそう考えます」
「…………」
ユティさんの言葉は、これまで悩んでいた俺に安心感をくれた。
「そして大事なのはきっかけです。最終的に決めるのはアラン様とセシリアさんですが、ノヴァさんはそのきっかけになれるのでは、と思いますよ」
「……きっかけ」
「お二人と近しいのは、ノヴァさんですからね」
シアを思い出させるような笑顔を浮かべられて、俺はそうか、と感じた。最終的にどうにかするのは二人だけど、きっかけになら俺にもなれるかもしれない、と。
今後、俺が出来るであろうことをある程度心の中でまとめていると、ユティさんは微笑んだまま俺に言った。
「やり方はお任せしますが、ノヴァさんの場合は直接アラン様に聞くのが良いと思います。今の彼ならノヴァさんには話してくれると思いますし」
「直接聞いてみる……分かりました。ありがとうございます」
「いえいえ」
お礼を述べると同時に、今日ここにきて良かったと思った。多くの事を知っているからこそ、ユティさんは背中を押してくれた。そんな彼女に感謝だ。
「ところで」
そう思っていると、不意にユティさんが俺に尋ねてきた。彼女の笑顔は穏やかなものに切り替わっている。
「ノヴァさんはどうなんですか?」
「え? 俺ですか?」
尋ねられている内容がよく分からなくて、思わず聞き返してしまった。
するとユティさんは穏やかな顔のまま、続きを口にする。
「今や大貴族フォルス家の当主になったノヴァさんは、普通なら正室の他に側室も持つ立場です。多くの貴族ならそれが普通ですが、ノヴァさんはそれについてどう考えているのかな、と」
「ああ……なるほど……」
ようやくユティさんの言いたいことが分かり、俺は頷いてから考える。
そのことをこれまで考えなかったわけじゃない。貴族として側室を持つ場合もある。けど、俺は。
「……俺は、正直側室を持とうとは考えていません。どうしても、俺はシア以外を愛する自分が思い浮かばないんです。それは側室になる人にも悪いことだと思います。
もちろん、今後事情が変わって側室を持たなければならない、という状況になれば話は変わってきますが……」
そう、例えば世継ぎが望めないとかになると流石に問題だけど、それ以外の要因で側室を作る気にはあまりなれなかった。
そうユティさんに告げると、彼女は穏やかな笑みのまま頷いた。
「心配しなくても、当主様に全く問題はありません。今は魔法で抑え込んでいますが、それを解除すれば世継ぎに恵まれるでしょう。それこそ今の時点で子宝に恵まれる未来は確定と思っていいですよ。……まあ、当主様ほどの方なら問題ないのも当然ですが」
「……ユティさんの口から、それを聞いて安心しました」
実際、シアにも側室を取る気にあまりなれないということについては話している。その時は。
『じゃあ私がノヴァさんとの子供を多く産み、そして育てなければなりませんね』
なんて微笑んで言っていたから心配はしていなかったけど、色々なことを知っているユティさんからしても、心配は要らないらしい。
ここでも少し安心したところで、ユティさんは口を開く。
「あの子の事をそこまで愛して頂いてありがとうございます。本当……あの子は幸せ者ですね」
「……ユティさん」
シアの補佐ではなくシアの姉として、ユティさんはそう言った。
彼女はいつもそうだ。いつもオーロラちゃんやシアの事を考えている。考えてくれている。
そのことに感謝を告げようとしたとき、ユティさんは穏やかな顔のまま俺の方を向いて、そして。
「私は、ノヴァさんの事が好きですよ」
そう、言った。
「…………」
言われたことが急すぎて俺は混乱する。ユティさんは今、俺の事が好きだとそう言ったのか?
驚いて言葉どころか動きを止めてしまった俺は何も返せずにいた。そこへユティさんの言葉が耳に届く。
「レティシアやオーラ、二人だけでなく色々な人を大切にしてくれて、そして優しいノヴァさんの事を好ましく思っていますから。これからも、そのままのノヴァさんで居てくださいね」
「え……あ……は、はい……」
ユティさんの言葉を聞いてそういうことか、と俺はちょっとだけ恥ずかしくなった。話の流れ的にそういう事かと思ってしまったけど、実際にはそれとはちょっと違ったことだった。勘違いしたことが恥ずかしくて、苦笑いでごまかしてしまう。
「それよりありがとうございます。本の片付けが終わったら、今日もまた最高級のお茶を用意しますよ」
「本当ですか!? 嬉しいです。残りも片付けちゃいますね」
そう言って俺は本の片づけを再開する。
床に散らばる本を片付けるのに集中していたから、俺は気づかなかった。
ユティさんがそんな俺を少し寂しそうに、けれど少しだけ納得したような顔で見ていたことには、気づかなかった。
ある日、俺はアークゲート家の屋敷を訪れていた。今日訪問した目的はユティさんの部屋の片づけの手伝いだ。結構久しぶりに彼女の部屋を訪れたけど、時間を空けただけあって少し散らかっていた。それを指摘するとユティさんは恥ずかしそうにしていたけど。
ちなみにアークゲート家の屋敷の人には、『片付けで旦那様の手を煩わせるなんて』って言う人もいるんだけど、俺自身ユティさんと話せるから別に構わないと思っている。彼女と世間話をすることも出来るし、片付け自体、結構好きだったりするからだ。
そんなわけで俺は今ユティさんと一緒に片づけをしているけれど、ちょうど話題に上げたのはアランさんとセシリアさんの件だった。
「なるほど……お二人にそんなことが……」
どうすればいいのか悩んでいるのもあって話に出して見ると、ユティさんは思い当たる様子で呟いていて。
「あれ? アランさんと関わりありましたっけ?」
と思わず聞いていた。シアやフォルス家の屋敷で一時生活していたオーロラちゃんはともかく、ユティさんとアランさんの接点はなかった筈だけど。
そう聞くと、ユティさんはいえ、と呟いた。
「直接お会いしたことはありませんが、南側の大貴族フォルス家の当主であるノヴァさんに近い人物ですから、色々と知っていることはあるといいますか……」
「なるほど……」
流石はシアの補佐をしているユティさん。貴族界隈の時事についても詳しいという事か。彼女の、というよりもアークゲートの情報網は凄いなぁ、と思うばかりだ。
ひとしきり納得して、俺は話の続きを口にした。
「セシリアさんが言うには、アランさんはどこか影があるみたいなんです。その影に関しては俺も彼との話の中でたまに感じたりします。特に夫婦の関係について……それはおそらくアランさんの父と母の関係に何か思うところがあったのではと考えているんですけど。
ただ……どうすればいいのか分からないんですよね。俺としてもアランさんとセシリアさんはお似合いだし、結ばれて欲しいとは思うんですけど」
正直な意見を述べると、ユティさんはふむ、と言って少し考え込む。
やがて彼女は片付けの手を止めて、俺の方を見た。
「まず、ノヴァさんが今思っているであろうアラン様の影……これについては概ねノヴァさんの想像通りです」
「……え?」
突然の言葉に驚いて声を出してしまう。それはつまり、アランさんは家族関連で何か暗い過去があるという事だろうか。仮にそうだとして、ユティさん、そこまで調べきっているのか……。
驚く俺を他所に、ユティさんは話を続ける。
「ただ、あくまでも私から見てですが、それは暗すぎる影ではないと思います。私はセシリアさんとは会ったことがありますが、彼女なら問題なく受け入れられて、そして彼を愛することが出来るとそう考えます」
「…………」
ユティさんの言葉は、これまで悩んでいた俺に安心感をくれた。
「そして大事なのはきっかけです。最終的に決めるのはアラン様とセシリアさんですが、ノヴァさんはそのきっかけになれるのでは、と思いますよ」
「……きっかけ」
「お二人と近しいのは、ノヴァさんですからね」
シアを思い出させるような笑顔を浮かべられて、俺はそうか、と感じた。最終的にどうにかするのは二人だけど、きっかけになら俺にもなれるかもしれない、と。
今後、俺が出来るであろうことをある程度心の中でまとめていると、ユティさんは微笑んだまま俺に言った。
「やり方はお任せしますが、ノヴァさんの場合は直接アラン様に聞くのが良いと思います。今の彼ならノヴァさんには話してくれると思いますし」
「直接聞いてみる……分かりました。ありがとうございます」
「いえいえ」
お礼を述べると同時に、今日ここにきて良かったと思った。多くの事を知っているからこそ、ユティさんは背中を押してくれた。そんな彼女に感謝だ。
「ところで」
そう思っていると、不意にユティさんが俺に尋ねてきた。彼女の笑顔は穏やかなものに切り替わっている。
「ノヴァさんはどうなんですか?」
「え? 俺ですか?」
尋ねられている内容がよく分からなくて、思わず聞き返してしまった。
するとユティさんは穏やかな顔のまま、続きを口にする。
「今や大貴族フォルス家の当主になったノヴァさんは、普通なら正室の他に側室も持つ立場です。多くの貴族ならそれが普通ですが、ノヴァさんはそれについてどう考えているのかな、と」
「ああ……なるほど……」
ようやくユティさんの言いたいことが分かり、俺は頷いてから考える。
そのことをこれまで考えなかったわけじゃない。貴族として側室を持つ場合もある。けど、俺は。
「……俺は、正直側室を持とうとは考えていません。どうしても、俺はシア以外を愛する自分が思い浮かばないんです。それは側室になる人にも悪いことだと思います。
もちろん、今後事情が変わって側室を持たなければならない、という状況になれば話は変わってきますが……」
そう、例えば世継ぎが望めないとかになると流石に問題だけど、それ以外の要因で側室を作る気にはあまりなれなかった。
そうユティさんに告げると、彼女は穏やかな笑みのまま頷いた。
「心配しなくても、当主様に全く問題はありません。今は魔法で抑え込んでいますが、それを解除すれば世継ぎに恵まれるでしょう。それこそ今の時点で子宝に恵まれる未来は確定と思っていいですよ。……まあ、当主様ほどの方なら問題ないのも当然ですが」
「……ユティさんの口から、それを聞いて安心しました」
実際、シアにも側室を取る気にあまりなれないということについては話している。その時は。
『じゃあ私がノヴァさんとの子供を多く産み、そして育てなければなりませんね』
なんて微笑んで言っていたから心配はしていなかったけど、色々なことを知っているユティさんからしても、心配は要らないらしい。
ここでも少し安心したところで、ユティさんは口を開く。
「あの子の事をそこまで愛して頂いてありがとうございます。本当……あの子は幸せ者ですね」
「……ユティさん」
シアの補佐ではなくシアの姉として、ユティさんはそう言った。
彼女はいつもそうだ。いつもオーロラちゃんやシアの事を考えている。考えてくれている。
そのことに感謝を告げようとしたとき、ユティさんは穏やかな顔のまま俺の方を向いて、そして。
「私は、ノヴァさんの事が好きですよ」
そう、言った。
「…………」
言われたことが急すぎて俺は混乱する。ユティさんは今、俺の事が好きだとそう言ったのか?
驚いて言葉どころか動きを止めてしまった俺は何も返せずにいた。そこへユティさんの言葉が耳に届く。
「レティシアやオーラ、二人だけでなく色々な人を大切にしてくれて、そして優しいノヴァさんの事を好ましく思っていますから。これからも、そのままのノヴァさんで居てくださいね」
「え……あ……は、はい……」
ユティさんの言葉を聞いてそういうことか、と俺はちょっとだけ恥ずかしくなった。話の流れ的にそういう事かと思ってしまったけど、実際にはそれとはちょっと違ったことだった。勘違いしたことが恥ずかしくて、苦笑いでごまかしてしまう。
「それよりありがとうございます。本の片付けが終わったら、今日もまた最高級のお茶を用意しますよ」
「本当ですか!? 嬉しいです。残りも片付けちゃいますね」
そう言って俺は本の片づけを再開する。
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