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第3章 宿敵の家と宿敵でなくなってから
第139話 オーロラちゃんがフォルスの屋敷に住むそうです
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フォルス家の当主になって忙しくなったからか、月日の流れが早く感じる。日々は特に何の問題もなく過ぎていって、穏やかな日が続いている。フォルス家当主として南側の他貴族との関係は良好だし、時間があればシアと一緒に過ごしたり、アークゲートの屋敷に足を運んだりした。
そんな変わり映えのしない毎日が続いているある日、俺の執務室に急に金色の楕円が広がった。ターニャと一緒に驚いてそちらに目を向けていれば、出てきたのは予想通りシアと、その後ろに付き従ったオーロラちゃんだった。
「こんにちは、ノヴァさん」
「シア? どうかしたの?」
特に連絡は受けていない。別に夫婦だから互いの執務室に足を運ぶのに連絡なんてなくていいんだけど、オーロラちゃんが居るという事は何か仕事に関する話だろうか。
そんな事を思いながらも、ターニャにお茶の準備をするようにお願いして、執務机から長椅子に移動した。
部屋にお茶を入れる用具はあるのに出て行くターニャを見て、きっとオーロラちゃんが来たからソニアちゃんでも呼びに行ったのかな、と考えた。
俺は長椅子に腰かけるものの、シアとオーロラちゃんは向かいに腰を下ろす。いつもはシアが隣に座るのに、今日は違うという事は……。
「急な来訪で申し訳ありません。今日はアークゲート家の当主として、ノヴァさんにお願いがあってきました」
「か、畏まるね……別にシアのお願いなら何でも聞くよ?」
正直な気持ちを述べてみれば、シアはクスクスと笑った。
「その言葉は嬉しいですが、一応形式を大事にしたいなと」
「……はぁ」
「単刀直入に申し上げると、ノヴァさんの補佐にオーラをつけて頂きたいのです」
「え? オーロラちゃんを?」
思わずオーロラちゃんの方を見ると、彼女はにっこりと微笑んで手を振った。どうやらオーロラちゃんもこの件は知っていて、了承しているらしい。
「オーラも今年で16になります。将来的には北の領地のどこかを任せようと思っていますので、今のうちに経験させておくのが良いかなと。私の補佐でも良かったのですが、どうせならノヴァさんの助けになりたいと聞かなくてですね……」
「ノヴァお兄様……ダメ?」
「いや……ダメってことはないけど……」
現在15歳のオーロラちゃんは、しばらくすると16歳になる。ノーザンプションを治めるアークゲート家はシアが当主だけど、オーロラちゃんを分家にする、みたいな感じだろう。
フォルス家でもよくある話だし、俺自身父上から領地の一部を貰っていたから珍しい話じゃない。ただ気になることと言えば。
「北と南で少し違うところはあるけど、それでもいいの?」
南のサリアと北のノーザンプション、それらは住む人も環境も違う。ある程度は参考になると思うけど、将来の事を考えるならシアの補佐の方が効果的だとは思う。
そういったことを伝えると、オーロラちゃんは腕を組んで不敵に微笑んだ。
「大丈夫よ。細かい違いなんかは後からでもなんとかなるもの。でもずっと前から、働くならお兄様の元で、って話していたでしょ? あれは結構本心なの。ダメ……かしら?」
最初は自信満々に、そして最後はやや自信なさげに俺を見つめるオーロラちゃん。
最近は成長して大人っぽくなってきていたのに、最後だけ昔のように頼むなんて、なかなかの強敵だと思わざるを得ない。完敗である。
いや別に戦ってないし、断るつもりもなかったんだけど。
「オーロラちゃんやシアが良いなら、俺は構わないよ。オーロラちゃんのような優秀な人が助けてくれるのはとてもありがたいしね」
アークゲート家の麒麟児、オーロラちゃん。彼女が優秀なのはユティさんやリサさん、グレイスさん辺りからよく聞いている。その優秀さが無理やり詰め込まれたことで身に付いたのは少し悲しいけど、それを活かして彼女が喜べるなら、それでいいと思った。
「本当!? ありがとうノヴァお兄様!」
「では近いうちにオーラの家財道具などをこちらの屋敷に送りますね。至らない点もあると思いますが、秘書のような立ち位置で使い倒してあげてください」
「いやいやお姉様、ノヴァお兄様は優しいからそんなことは――」
「うん、なるべく厳しくいくよ」
「ノヴァお兄様!?」
ガーンッという表情で俺を見るオーロラちゃんを見て、シアも俺も思わず笑ってしまった。
ちょうどそのタイミングで扉が開き、ターニャと予想通りソニアちゃんが部屋に入ってくる。別室で準備をしてきたのか、二人の持つトレーにはカップが複数乗っていた。それらをテーブルの上に並べるソニアちゃんに、オーロラちゃんは声をかける。
「こんにちはソニア、聞いて? 私、領地に関する勉強としてノヴァお兄様の補佐をすることになったの。こっちの屋敷にしばらく移る予定よ?」
「こんにちはオーラちゃん。え? そうなの? やったね! じゃ、じゃあ、オーラちゃんのお世話、してもいい!?」
「ええ! ノヴァお兄様、ソニアを貰ってもいいかしら!?」
「ここに居る間の専属侍女? のような立ち位置にってことならいいよ。ただ北で領地を貰った後に、そこに連れていくのはダメだからね」
念のために釘を刺すと、オーロラちゃんは唇を尖らせた。
「ちぇ……バレたか……」
「オーラちゃん……別にこっちに来た時は会えるから……ね?」
この二人を見ていると、どっちが年上かよく分からなくなる。どちらも成長期だからここ最近は体が大きくなってきているものの、やっぱり年齢の関係からかオーロラちゃんの成長の方が著しく、見かけ上は彼女の方が圧倒的お姉さんに見える。
けど会話を聞いていると、どっちかというとソニアちゃんの方がしっかり者のような感じが……。
まあ、オーロラちゃんもふざけているだけだろうし、あまり気にしないようにしよう。
ふとそこまで考えて、ゼロードの事件から大分時間が経ったことを思い返した。彼が事件を起こした後すぐにオーロラちゃんが15歳になったから、そんな彼女が今度は16歳になるという事で、時の流れは早いなと思う。
俺が当主になってからも同じくらいの時間が流れたという事でもあるしね。
「あっ、そう言えばノヴァさん、ここからは妻としてノヴァさんにお願い? なのですが……」
「ん? なに?」
お願いなのに首を傾げているのはどういう事なんだろうとは思うけど、シアのお願いなら承諾するつもりだった。だから続きを促してみると、彼女の口から出てきたのは思いがけない一言で。
「今度南側の貴族を中心にした婦人の交流会があるそうなのですが、それに参加してもよろしいでしょうか? フォルス家の妻として、交流会である程度目立っておくと今後良いかな、と考えまして」
「交流……会?」
その言葉を頭の中で巡らせる。確かにそんな会があるっていうのは聞いたことがあるし、文字を目にしたこともある。ただ普通の妻と違ってシアはアークゲート家の当主でもある。興味もないだろうし、忙しいだろうという事で参加しないだろうなと思っていたんだけど、シアの方は実は違ったらしい。
「シアが必要だと思うなら、全然構わないよ。それに、別に俺に許可を得なくても、参加しますっていう報告とかで全然良いのに」
当然だけど、シアがしたいことをするのに、俺は反対する気はない。
俺の言葉にシアは微笑む。
「ノヴァさんならそう言って頂けるかなと思ったのですが、念のため、です。ありがとうございます。ノヴァさんの妻の名に恥じないように頑張りますね」
「むしろ釣り合わないと思っているのは俺の方なんだけどなぁ……」
フォルス家の当主になった俺と、アークゲート家の当主であるシア。どちらも当主ではあるけど、こうなってもやっぱり、シアに近づいたとは思えても並べたとは思えないわけで。
そんなことを呟いて、俺はターニャに淹れてもらったコーヒーを一口。
そしてそのまま仕事の事を忘れて、俺達はしばらくの間他愛のない話を全員でした。
ソニアちゃんの事に関してターニャが褒めたり、それに対してオーロラちゃんが誇らしげな顔をしたり。
シアが最近リサが嘆きつつ微笑んでいてちょっと困っているって話をしたり、それに対してオーロラちゃんがわざと目を逸らしたり。
そんな面白い話を全員で笑いながらしていた。
そんな変わり映えのしない毎日が続いているある日、俺の執務室に急に金色の楕円が広がった。ターニャと一緒に驚いてそちらに目を向けていれば、出てきたのは予想通りシアと、その後ろに付き従ったオーロラちゃんだった。
「こんにちは、ノヴァさん」
「シア? どうかしたの?」
特に連絡は受けていない。別に夫婦だから互いの執務室に足を運ぶのに連絡なんてなくていいんだけど、オーロラちゃんが居るという事は何か仕事に関する話だろうか。
そんな事を思いながらも、ターニャにお茶の準備をするようにお願いして、執務机から長椅子に移動した。
部屋にお茶を入れる用具はあるのに出て行くターニャを見て、きっとオーロラちゃんが来たからソニアちゃんでも呼びに行ったのかな、と考えた。
俺は長椅子に腰かけるものの、シアとオーロラちゃんは向かいに腰を下ろす。いつもはシアが隣に座るのに、今日は違うという事は……。
「急な来訪で申し訳ありません。今日はアークゲート家の当主として、ノヴァさんにお願いがあってきました」
「か、畏まるね……別にシアのお願いなら何でも聞くよ?」
正直な気持ちを述べてみれば、シアはクスクスと笑った。
「その言葉は嬉しいですが、一応形式を大事にしたいなと」
「……はぁ」
「単刀直入に申し上げると、ノヴァさんの補佐にオーラをつけて頂きたいのです」
「え? オーロラちゃんを?」
思わずオーロラちゃんの方を見ると、彼女はにっこりと微笑んで手を振った。どうやらオーロラちゃんもこの件は知っていて、了承しているらしい。
「オーラも今年で16になります。将来的には北の領地のどこかを任せようと思っていますので、今のうちに経験させておくのが良いかなと。私の補佐でも良かったのですが、どうせならノヴァさんの助けになりたいと聞かなくてですね……」
「ノヴァお兄様……ダメ?」
「いや……ダメってことはないけど……」
現在15歳のオーロラちゃんは、しばらくすると16歳になる。ノーザンプションを治めるアークゲート家はシアが当主だけど、オーロラちゃんを分家にする、みたいな感じだろう。
フォルス家でもよくある話だし、俺自身父上から領地の一部を貰っていたから珍しい話じゃない。ただ気になることと言えば。
「北と南で少し違うところはあるけど、それでもいいの?」
南のサリアと北のノーザンプション、それらは住む人も環境も違う。ある程度は参考になると思うけど、将来の事を考えるならシアの補佐の方が効果的だとは思う。
そういったことを伝えると、オーロラちゃんは腕を組んで不敵に微笑んだ。
「大丈夫よ。細かい違いなんかは後からでもなんとかなるもの。でもずっと前から、働くならお兄様の元で、って話していたでしょ? あれは結構本心なの。ダメ……かしら?」
最初は自信満々に、そして最後はやや自信なさげに俺を見つめるオーロラちゃん。
最近は成長して大人っぽくなってきていたのに、最後だけ昔のように頼むなんて、なかなかの強敵だと思わざるを得ない。完敗である。
いや別に戦ってないし、断るつもりもなかったんだけど。
「オーロラちゃんやシアが良いなら、俺は構わないよ。オーロラちゃんのような優秀な人が助けてくれるのはとてもありがたいしね」
アークゲート家の麒麟児、オーロラちゃん。彼女が優秀なのはユティさんやリサさん、グレイスさん辺りからよく聞いている。その優秀さが無理やり詰め込まれたことで身に付いたのは少し悲しいけど、それを活かして彼女が喜べるなら、それでいいと思った。
「本当!? ありがとうノヴァお兄様!」
「では近いうちにオーラの家財道具などをこちらの屋敷に送りますね。至らない点もあると思いますが、秘書のような立ち位置で使い倒してあげてください」
「いやいやお姉様、ノヴァお兄様は優しいからそんなことは――」
「うん、なるべく厳しくいくよ」
「ノヴァお兄様!?」
ガーンッという表情で俺を見るオーロラちゃんを見て、シアも俺も思わず笑ってしまった。
ちょうどそのタイミングで扉が開き、ターニャと予想通りソニアちゃんが部屋に入ってくる。別室で準備をしてきたのか、二人の持つトレーにはカップが複数乗っていた。それらをテーブルの上に並べるソニアちゃんに、オーロラちゃんは声をかける。
「こんにちはソニア、聞いて? 私、領地に関する勉強としてノヴァお兄様の補佐をすることになったの。こっちの屋敷にしばらく移る予定よ?」
「こんにちはオーラちゃん。え? そうなの? やったね! じゃ、じゃあ、オーラちゃんのお世話、してもいい!?」
「ええ! ノヴァお兄様、ソニアを貰ってもいいかしら!?」
「ここに居る間の専属侍女? のような立ち位置にってことならいいよ。ただ北で領地を貰った後に、そこに連れていくのはダメだからね」
念のために釘を刺すと、オーロラちゃんは唇を尖らせた。
「ちぇ……バレたか……」
「オーラちゃん……別にこっちに来た時は会えるから……ね?」
この二人を見ていると、どっちが年上かよく分からなくなる。どちらも成長期だからここ最近は体が大きくなってきているものの、やっぱり年齢の関係からかオーロラちゃんの成長の方が著しく、見かけ上は彼女の方が圧倒的お姉さんに見える。
けど会話を聞いていると、どっちかというとソニアちゃんの方がしっかり者のような感じが……。
まあ、オーロラちゃんもふざけているだけだろうし、あまり気にしないようにしよう。
ふとそこまで考えて、ゼロードの事件から大分時間が経ったことを思い返した。彼が事件を起こした後すぐにオーロラちゃんが15歳になったから、そんな彼女が今度は16歳になるという事で、時の流れは早いなと思う。
俺が当主になってからも同じくらいの時間が流れたという事でもあるしね。
「あっ、そう言えばノヴァさん、ここからは妻としてノヴァさんにお願い? なのですが……」
「ん? なに?」
お願いなのに首を傾げているのはどういう事なんだろうとは思うけど、シアのお願いなら承諾するつもりだった。だから続きを促してみると、彼女の口から出てきたのは思いがけない一言で。
「今度南側の貴族を中心にした婦人の交流会があるそうなのですが、それに参加してもよろしいでしょうか? フォルス家の妻として、交流会である程度目立っておくと今後良いかな、と考えまして」
「交流……会?」
その言葉を頭の中で巡らせる。確かにそんな会があるっていうのは聞いたことがあるし、文字を目にしたこともある。ただ普通の妻と違ってシアはアークゲート家の当主でもある。興味もないだろうし、忙しいだろうという事で参加しないだろうなと思っていたんだけど、シアの方は実は違ったらしい。
「シアが必要だと思うなら、全然構わないよ。それに、別に俺に許可を得なくても、参加しますっていう報告とかで全然良いのに」
当然だけど、シアがしたいことをするのに、俺は反対する気はない。
俺の言葉にシアは微笑む。
「ノヴァさんならそう言って頂けるかなと思ったのですが、念のため、です。ありがとうございます。ノヴァさんの妻の名に恥じないように頑張りますね」
「むしろ釣り合わないと思っているのは俺の方なんだけどなぁ……」
フォルス家の当主になった俺と、アークゲート家の当主であるシア。どちらも当主ではあるけど、こうなってもやっぱり、シアに近づいたとは思えても並べたとは思えないわけで。
そんなことを呟いて、俺はターニャに淹れてもらったコーヒーを一口。
そしてそのまま仕事の事を忘れて、俺達はしばらくの間他愛のない話を全員でした。
ソニアちゃんの事に関してターニャが褒めたり、それに対してオーロラちゃんが誇らしげな顔をしたり。
シアが最近リサが嘆きつつ微笑んでいてちょっと困っているって話をしたり、それに対してオーロラちゃんがわざと目を逸らしたり。
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