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第1章 宿敵の家の当主を妻に貰うまで
第26話 オーロラちゃんの語る、シアの凄さ
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「えー! じゃあノヴァお兄様は、剣術だけなら誰にも負けないの!?」
過ごしやすいように整備された中庭で俺たち三人は丸テーブル付きの椅子に座り、話をしていた。テーブルの上にはメイドが持ってきてくれたコーヒーがあるけど、それが冷めるくらいには話し込んでいる。内容はフォルス家のことや、ほんの少しだがアークゲート家のこと。そして今は俺の剣の腕についての話になっていた。
「いや、誰にも負けないってことはないと思うけど……でもいい勝負が出来る自信はあるよ。覇気を使われると、絶対に勝てないんだけどね」
そう説明しながらも目を輝かせて見てくるオーロラちゃんを見て、俺はふと思った。シアは歴代で最強の当主と言われているし、魔法の力は凄いだろう。なら、オーロラちゃんもなのか?
「そういえば、オーロラちゃんも魔法は得意なの?」
そう聞くと、オーロラちゃんはにっこりと笑って頷く。
「ええ! 流石にお姉様ほどじゃないけど、これでもお姉様を除けばこの屋敷で一番魔法が上手いわ」
「え? そうなの?」
どうもオーロラちゃんの言っていることが信じられなくてシアを見てしまったが、頷いているので事実らしい。けどそんなことをすればオーロラちゃんだって怒るわけで。
「ちょっと! 信じてないでしょ!」
「ごめんごめん……だってオーロラちゃんまだ成人でもないのにそんなに魔法が使えるなんて……今も凄すぎて疑っちゃってるよ」
彼女の年齢は俺の6つ下で14歳だと聞いている。成人も迎えていないのにこの屋敷のシア以外よりも魔法が使えるなんて、本当に凄いと思う。
ん? シア以外の?
「ってことは、ユティさんよりもオーロラちゃんの方が凄いの?」
「戦ったことはないけど、多分勝てると思うわ。……結構ギリギリになりそうだけど」
「ほえー、オーロラちゃんはすっごいんだなぁ……」
「ふふふっ、なにそれ」
笑われてしまったが、言葉から芯が抜けるくらい俺は驚いていた。才能の塊という奴だろうか。流石にオーロラちゃん相手に嫉妬したりはしないけど、ちょっと羨ましいなと思う。彼女の才能のほんのひと欠片でもあれば……いや、それがあったら今のこの場はないか。
「でもそれだったら、成長したらシア以上の魔法使いも夢じゃないかもな。これは将来が楽しみだ」
オーロラちゃんを持ち上げるためにシアの名前を出す。シアと顔を見合わせながらそう言ったのだが。
「もうノヴァお兄様ったら、それは無理よ」
そうはっきりと言ってオーロラちゃんは椅子から立ち上がった。そうして少しだけ歩いて、何かを拾って戻ってくる。彼女が差し出した手に収まっていたのは小さな小石だった。
「例えば、これが今の私の魔力ね」
「……小石なの? もっと大きくてもいいんじゃない? 例えば……あそこの岩とか」
自分の力を小石に例えるのはどうかと思ったので庭の大きな岩を指し示したら、オーロラちゃんは「うーん」と難しそうな声を出した。
「まあ、この小石でもいいし、成長した私があの岩でもいいけど……」
そこでオーロラちゃんは手のひらを翻した。当然、小石は地面に落ちる。整備された岩の地面に、音を立てて小石は転がった。
「小石でも岩でも、こうなるでしょ?」
「? どういうこと?」
意味がよく分からなくて聞き返す。
「お姉様の魔力は、この大地みたいなものってことよ」
ニッコリと笑ってそう宣言したオーロラちゃん。
いやいや、流石にそれは、と思ってシアを見れば、彼女は困ったように笑っていた。どうやら流石にそこまでではないらしい。でもそれはそれで微笑ましいことだ。自分の大好きな姉を大きく見せたいということだろう。オーロラちゃんがシアの事を好きなのは見ていて分かるし、物事を大きく言いたがるのは子供にはよくあることだ。
特にオーロラちゃんは図書室での一件を見るに、ちょっと悪戯好きみたいだし。
「そっか……やっぱりシアは凄いんだな」
「ええ、とっても凄いのよ」
「でもオーロラちゃんだって凄いよ」
「えへへ、ありがとう!」
オーロラちゃんは椅子に座ると、今度は何かを思い出したように両手を叩いた。
「そうだ! ノヴァお兄様に渡したいものがあったの!」
そう言ってオーロラちゃんが差し出してきたのは、便箋だった。ただシアがくれた黒がベースのものとは違って、可愛らしい桃色の便箋だった。
「お姉様からもう貰っていると思うけど、良ければ私のも受け取って!」
20枚ほどの便箋を受け取る。よく見ればアークゲート家の家紋が刻印されていた。
「ああ、ありがとう」
「ええ、これでいつでも連絡が取れるわね!」
貰った便箋を大切にポケットに入れる。これでシアとオーロラちゃんの二人とはいつでも連絡が取れるようになった。
「オーロラちゃんもこの魔法の便箋を作れるの?」
「元のがあれば、魔力を込めるだけでいいからね。これ、そこまで多くの魔力を必要としないから」
にっこりと笑うオーロラちゃんだが、シアは苦笑いをしながら補足説明をしてくれた。
「いえ、正確にはオーラとユティは、ですね。他の人だと魔力が足りなくて作れませんね」
「あー、そうかも。あんまり考えたことなかったけど」
シアの姉妹だけあって魔力の量も桁外れということだろう。こんな些細なことでも、二人が普通とは違う特別強い力を持っているのがよく分かった。
「そういえば、オーロラちゃんはゲートの魔法は使えるの?」
楽をさせてもらっているシアの魔法。ひょっとしたらアークゲート家の麒麟児であるオーロラちゃんなら使えるのかと思ったのだけど。
「無理無理。どうすれば発動するのかは分かるけど、ゲートを維持するどころか、通るのに十分な大きさにする魔力すら足りないわよ」
テーブルに肘をついた両手で頬を包み、足をぶらぶらとさせるオーロラちゃん。どうやらゲートの魔法は要求される魔力の量が一段階上らしい。
「……シアって……本当に凄いんだなぁ……」
「……ちょっと照れてしまいますね」
恥ずかしそうに頬を指で掻くシア。そんな彼女をすごいなという目で見ていると、横から視線を感じた。オーロラちゃんが、俺とシアを交互に見ていた。
「オーラ?」
「ノヴァお兄様が戦っているところ、見てみたい」
「……え?」
突然何を言い出すんだと思ったけど、オーロラちゃんは目を輝かせていた。
「お姉様が言うには、お姉様が唯一勝てない相手がノヴァお兄様らしいわ! ねえねえ、よければ二人でちょっとだけ戦ってみて欲しいかも!」
「お、オーロラちゃん……」
彼女が何の勘違いをしているのか分からないけど、俺がシアに勝てるわけがない。彼女はアークゲート家の当主で、国の英雄だ。対して俺は剣の名家フォルス家の出身とはいえ、覇気も使えない訳で。
「オーラ、あまりノヴァさんを困らせてはいけませんよ」
シアも同じことを思ったのか、止めてくれている。
「ノヴァさんに、私が勝てるわけないじゃないですか。無理ですよ」
と思ったけど、シアはシアで俺の考えとは全く逆の事を言ってきた。え? どういうこと?
疑問が頭の中に満ちてきて、思わず聞いてしまった。
「えっと……どういうこと?」
「以前話したと思うのですが、私の魔力はノヴァさんに一度叱られたことで、ノヴァさんに服従しているんです。だからどんな魔法でも、おそらくはノヴァさんを傷つけることは出来ないかと」
「えぇ……?」
確かにそんな話を聞いたけど、本当にそうなのだろうか。例えばものすごい威力の魔法を使われたらなす術なくやられそうだけど。
「……あの、それならやってみますか? 模擬戦」
「え?」
「その、なんか気になっているというか、試してみたい表情をしていたので……」
どうやら顔に出ていたらしい。確かにシアの魔法が俺に通用するのかどうかも気になるけど、それ以上に国の英雄とまで言われたシアに俺の剣技がどこまで通じるのか、というのも気になっていた。
「そ、その……じゃあお願いしても良いかな? 模擬戦を」
「おー! お姉様とノヴァお兄様の模擬戦ね!」
戦いが見れるのが嬉しいのか、子供のようにはしゃぐオーロラちゃん。実際に子供だった、って思っていると、彼女は急にはしゃぐのを辞めて、シアを見た。
「あ、でもお姉様、人に使う魔法にしてくださいね。ここら辺一体吹き飛ばすとか無しですよ」
いやいや、いくら何でもそんな魔法は使えないだろ、と思って苦笑い。
「分かっていますよ。模擬戦ですからね」
そう言って、呆れたようにシアはオーロラちゃんに返していた。
……え? そんな魔法使えるの?
早くも模擬戦を頼んだことを後悔し始めていた。
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「そういえば、オーロラちゃんも魔法は得意なの?」
そう聞くと、オーロラちゃんはにっこりと笑って頷く。
「ええ! 流石にお姉様ほどじゃないけど、これでもお姉様を除けばこの屋敷で一番魔法が上手いわ」
「え? そうなの?」
どうもオーロラちゃんの言っていることが信じられなくてシアを見てしまったが、頷いているので事実らしい。けどそんなことをすればオーロラちゃんだって怒るわけで。
「ちょっと! 信じてないでしょ!」
「ごめんごめん……だってオーロラちゃんまだ成人でもないのにそんなに魔法が使えるなんて……今も凄すぎて疑っちゃってるよ」
彼女の年齢は俺の6つ下で14歳だと聞いている。成人も迎えていないのにこの屋敷のシア以外よりも魔法が使えるなんて、本当に凄いと思う。
ん? シア以外の?
「ってことは、ユティさんよりもオーロラちゃんの方が凄いの?」
「戦ったことはないけど、多分勝てると思うわ。……結構ギリギリになりそうだけど」
「ほえー、オーロラちゃんはすっごいんだなぁ……」
「ふふふっ、なにそれ」
笑われてしまったが、言葉から芯が抜けるくらい俺は驚いていた。才能の塊という奴だろうか。流石にオーロラちゃん相手に嫉妬したりはしないけど、ちょっと羨ましいなと思う。彼女の才能のほんのひと欠片でもあれば……いや、それがあったら今のこの場はないか。
「でもそれだったら、成長したらシア以上の魔法使いも夢じゃないかもな。これは将来が楽しみだ」
オーロラちゃんを持ち上げるためにシアの名前を出す。シアと顔を見合わせながらそう言ったのだが。
「もうノヴァお兄様ったら、それは無理よ」
そうはっきりと言ってオーロラちゃんは椅子から立ち上がった。そうして少しだけ歩いて、何かを拾って戻ってくる。彼女が差し出した手に収まっていたのは小さな小石だった。
「例えば、これが今の私の魔力ね」
「……小石なの? もっと大きくてもいいんじゃない? 例えば……あそこの岩とか」
自分の力を小石に例えるのはどうかと思ったので庭の大きな岩を指し示したら、オーロラちゃんは「うーん」と難しそうな声を出した。
「まあ、この小石でもいいし、成長した私があの岩でもいいけど……」
そこでオーロラちゃんは手のひらを翻した。当然、小石は地面に落ちる。整備された岩の地面に、音を立てて小石は転がった。
「小石でも岩でも、こうなるでしょ?」
「? どういうこと?」
意味がよく分からなくて聞き返す。
「お姉様の魔力は、この大地みたいなものってことよ」
ニッコリと笑ってそう宣言したオーロラちゃん。
いやいや、流石にそれは、と思ってシアを見れば、彼女は困ったように笑っていた。どうやら流石にそこまでではないらしい。でもそれはそれで微笑ましいことだ。自分の大好きな姉を大きく見せたいということだろう。オーロラちゃんがシアの事を好きなのは見ていて分かるし、物事を大きく言いたがるのは子供にはよくあることだ。
特にオーロラちゃんは図書室での一件を見るに、ちょっと悪戯好きみたいだし。
「そっか……やっぱりシアは凄いんだな」
「ええ、とっても凄いのよ」
「でもオーロラちゃんだって凄いよ」
「えへへ、ありがとう!」
オーロラちゃんは椅子に座ると、今度は何かを思い出したように両手を叩いた。
「そうだ! ノヴァお兄様に渡したいものがあったの!」
そう言ってオーロラちゃんが差し出してきたのは、便箋だった。ただシアがくれた黒がベースのものとは違って、可愛らしい桃色の便箋だった。
「お姉様からもう貰っていると思うけど、良ければ私のも受け取って!」
20枚ほどの便箋を受け取る。よく見ればアークゲート家の家紋が刻印されていた。
「ああ、ありがとう」
「ええ、これでいつでも連絡が取れるわね!」
貰った便箋を大切にポケットに入れる。これでシアとオーロラちゃんの二人とはいつでも連絡が取れるようになった。
「オーロラちゃんもこの魔法の便箋を作れるの?」
「元のがあれば、魔力を込めるだけでいいからね。これ、そこまで多くの魔力を必要としないから」
にっこりと笑うオーロラちゃんだが、シアは苦笑いをしながら補足説明をしてくれた。
「いえ、正確にはオーラとユティは、ですね。他の人だと魔力が足りなくて作れませんね」
「あー、そうかも。あんまり考えたことなかったけど」
シアの姉妹だけあって魔力の量も桁外れということだろう。こんな些細なことでも、二人が普通とは違う特別強い力を持っているのがよく分かった。
「そういえば、オーロラちゃんはゲートの魔法は使えるの?」
楽をさせてもらっているシアの魔法。ひょっとしたらアークゲート家の麒麟児であるオーロラちゃんなら使えるのかと思ったのだけど。
「無理無理。どうすれば発動するのかは分かるけど、ゲートを維持するどころか、通るのに十分な大きさにする魔力すら足りないわよ」
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「オーラ?」
「ノヴァお兄様が戦っているところ、見てみたい」
「……え?」
突然何を言い出すんだと思ったけど、オーロラちゃんは目を輝かせていた。
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「えぇ……?」
確かにそんな話を聞いたけど、本当にそうなのだろうか。例えばものすごい威力の魔法を使われたらなす術なくやられそうだけど。
「……あの、それならやってみますか? 模擬戦」
「え?」
「その、なんか気になっているというか、試してみたい表情をしていたので……」
どうやら顔に出ていたらしい。確かにシアの魔法が俺に通用するのかどうかも気になるけど、それ以上に国の英雄とまで言われたシアに俺の剣技がどこまで通じるのか、というのも気になっていた。
「そ、その……じゃあお願いしても良いかな? 模擬戦を」
「おー! お姉様とノヴァお兄様の模擬戦ね!」
戦いが見れるのが嬉しいのか、子供のようにはしゃぐオーロラちゃん。実際に子供だった、って思っていると、彼女は急にはしゃぐのを辞めて、シアを見た。
「あ、でもお姉様、人に使う魔法にしてくださいね。ここら辺一体吹き飛ばすとか無しですよ」
いやいや、いくら何でもそんな魔法は使えないだろ、と思って苦笑い。
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