112 / 159
111.その作戦…ダメージ食らうの1人じゃないけど気付いて無いみたい。
しおりを挟むお茶やお菓子をつまみながら話を続ける。
エドガーの入れてくれたお茶はホッとする味でなんだか体までぽかぽかと温まるようだ。
「というわけで、てっとり早くロティを囮にしちゃ駄目…ひ!!ルーク目、怖!!」
アレックスの言葉にルークは眼力だけで魔物が倒せそうな迫力でアレックスを思い切り睨んだ。
前に私がその案を出したときにも即却下されたのだ。ルークは簡単に折れないだろう。
「囮と言ってもさ!?俺達いるじゃん!?
召喚獣出す時って魔力使うんだしさ、ルークとサイラスなら集中すれば探知できるでしょ?
その間他のメンバーはロティの側に居て守れるじゃん!」
「お前がその状況下でロティを狙うか?」
「…狙わないね!はー駄目かー。」
アレックスがソファにもたれかかるとリニが顎に手を当てながら考える仕草をしつつ口を開いた。
「アレグリアをどう見つけるかだな…。
自分が一度影から探そうか?王都内全てとなると時間がかかるとは思うけど…。」
「なんかグニーを誘き寄せるものないの?」
「………。」
アレックスの質問に私は固まってしまった。
心当たりがないでもないが、この場ではとてもじゃないが言えないのだ。
隣のルークも同じなのか表情が少し硬い。
口を開けない私達にサイラスが身を乗り出して問いただしてきた。
「何かあるんですね?ロティさん。」
「なによ、あるなら勿体ぶってないで言いなさいな!ロティ。」
「真っ赤ですが…大丈夫ですか?ロティさん。」
サイラスとノニアは早く言えと言わんばかりの状態だ。
エドガーが私の顔色を心配しているが、考えている事は大丈夫とは言い難い。
隣から短い溜息が聞こえると、ルークは真面目な顔で口を開いた。
「あの女が嫉妬すれば召喚獣は出してくる傾向がある、とだけ言っておこう。」
まさか何か言うつもりかとヒヤヒヤしたが、重要点だけを伝えてくれたのはありがたかった。
だが、サイラスは煮え切らないようで首を傾げている。
「ヤキモチですか。うーん。例えば?」
私は苦虫を噛み潰したような表情で気不味くなりながらも必死にサイラスに目配せをしながら頼み込むように話す。
「ちょっと…あの…。せめて女性陣だけにならっっ!?」
女性陣と言った時にはその3人は素早く私を捕まえて隣の部屋に一瞬で移動してしまった。
その俊敏たるや、流石勇者パーティと言うべきか。
両脇をリニとノニアに捕まれ、後ろは扉、前にはサイラスが目をぎらつかせて私の言葉を待っている。
私は後に引けない状態になってしまったのだ。
早く教えろと言わんばかりの3人の無言の圧に負け、私はおずおずと言葉を出していく。
「…前に…ルークとキスされたのを…目撃されまして。
その後すぐに召喚獣を送り込まれたり…。
後は…うっ…。あのうぅ…。
キ、キ、キスマークを見られて…。
それで召喚獣を昨日」
「ちょっとちょっと!だからこんな格好なのね!きゃー!」
「まー、愛されてますねっ!」
興奮気味に目を輝かせるノニアと顔を赤らめてにやつくサイラスがきゃあきゃあと騒ぎ立てている。
リニが静かなため、不快感でも与えたのかと顔を見ると髪の間から琥珀色の瞳が光っているのが見えた。
「これは凄い…。」
「え!狡いわ!リニ!透視を使うなんて!」
「透視!?ちょっ!それは!」
マジマジと私の首や胸元を見つめるリニ。
まさかこのキスマークの跡全て見られているのではないかと体温が数度上昇するかのように体が熱くなってしまった。
私が拒否しかけるとリニの目から光がふと消えた。目を閉じたリニの顔は髪やスカーフで覆われているためあまり見えないが、ほんのりと顔が赤い気がする。
ノニアとサイラスは直接見たいのかそわそわと落ち着かず、サイラスに至っては私に向かってそろりと手を伸ばしてきた。
「もう、リニ!さすがに許可を取りましょうね!ロティさん、ちょーとだけ確認しますよ~。」
「恥ずかしいから!!無理で!ちょ!待ってぇええー!」
柔か、いや、にやにやしたサイラスは待ってと言う私の言葉を聞かずに、首元の服をゆっくりと下げてしまったのだった。
◇◇◇
「うん、嫉妬囮作戦でもいい気がするわ!
久々に面白いものを見たわぁー!」
「うん、凄かった。」
「こちらまでドキドキしますね…。」
抵抗虚しく首元のキスマークは3人の前に思いっきり晒されてしまい、ノニアとサイラスは黄色い声を上げていた。
首のだけで胸元のものまで見られなかったのは不幸中の幸いなのだろか。
興奮冷めやらぬ3人はぐったりした私を脇に抱えてさっきの部屋に戻ったが、私の状態を見たルークが慌てて脱力気味の私をノニア達から受け取るとソファに座らせてくれた。
疲れた訳じゃないがありえないくらいのダメージは負っただろう。心に。
アレックスも顔を赤らめそわそわしながらルークと私を見つめて話す。
「…何があったのか気になるところだけど…。
とりあえず一度やってみないか?囮作戦。」
アレックスの言葉に再び顔を顰めたルーク。
溜息を吐きながらソファにもたれ掛かると私をじっと見つめながら重々しく言葉にした。
「囮は…気が進まないが…。
やるとしても問題がある。場所を何処にするか決めなくてはならないし、迎え撃つなら準備や下見も必要だろう?
ロティは追跡の呪いが掛かっているんだ。ロティは一緒に下見には行けない。」
「場所に関してはこの間のゴーレム討伐したあたりか、もしくはそこと王都の中間あたりならどうでしょう?平原もありますし、隠れる場所も少ないところの方がいいでしょうから。ロティさんは…どうしましょう…。」
エドガーが困り眉をしながら私を見つめると次々と皆の視線が自然と私に集まってきた。
ルークの屋敷に1人でいる事も可能だが、1つ私から提案してみようとルークに話し掛けた。
「ならその間私スザンヌのところにいちゃだめ?あそこなら人が入れないでしょ?」
「…スザンヌの家か…。屋敷の方が安全度は高いのだが…。」
「折角スザンヌにお土産買えたから持って行きたいし、それに盾の腕輪もあるし、エイミの加護もあるから。ね?」
屋敷の守りは鉄壁だ。
あそこなら簡単には手出しされないのは充分承知している。
だが、また甲冑達と対決するのも避けたいし、スザンヌがあれからどうなったのかも気になっているのだ。
懇願するように言った私を見つめるルーク。
諦めたように少し苦い顔をするとふてくされたように言う。
「…わかった。なら下見をいつにするかだな。」
「善は急げで。今からじゃ都合悪いか?」
「スザンヌの所ならいつ行っても大丈夫だって言ってたので大丈夫だと思います。
もし、今から行ってみてスザンヌがいなかったら予定変更で…。」
「…まあ。一日でも早くあの女を排除したいとは思うからな…。
ならすぐにスザンヌの所にロティを連れて行く。
もし居なかったら明日以降に下見をする。」
そう言って立とうとするルークに慌ててアレックスが手で止めた。
「あ!ちょっと待って、ベムから指輪預かったんだ。はい、これ。」
ゴソゴソと自分の魔法鞄から取り出したのは緑の宝石が付いた指輪だった。
それを私に受け取って欲しいのか、アレックスは私の方に手を伸ばして指輪を渡そうとしている。
私がアレックスに手を伸ばすとアレックスの手からぽろっと指輪が私の手の中に落ちてきた。
「この指輪は…?」
「ロティさんのことをベムに相談したら攻撃魔法変換用が使えないなら捕縛ならどうですな?と、ベムが言ってまして。
使い方は一緒なので、魔力を通してみて下さい。」
サイラスにそう言われて右手の人差し指に指輪を付けた。多少大きかったものの、嵌めると私の指のサイズにぴったりと嵌ってくれた。
じわりと指輪に魔力を流すと指輪から太めの縄が勢いよく飛び出してきた。
「っ!」
触るとしっかりとした縄で簡単には切れにくそうだ。
仮にグニーを捕まえた時に魔封じの縄を上から巻いたら最強じゃないかと思ってしまう。
少し浮き立った気持ちになると縄もぐにょりと動いている。
まさかと思い、縄を動かすイメージを魔力に乗せて指輪に流すと多少ぎこちなさはあるものの、自由に動かすことが出来た。
なんと言う便利な道具だろうか。
私は顔を綻ばせてしまう。
それ見たサイラスがうっとりとした表情と声色で私の出した縄を見ながら話す。
「いざとなったらそれも役に立ちそうですね。縄の太さと長さは魔力の量次第なので、ロティさんなら前に出てきたサンドワームも縛れそうですね…!」
あれは流石に縛りたくはないと思いながらも恍惚とした表情で話すサイラスに私はたじろいで伝える事は出来なかった。
0
お気に入りに追加
678
あなたにおすすめの小説
前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る
花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。
その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。
何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。
“傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。
背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。
7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。
長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。
守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。
この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。
※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。
(C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
いつか彼女を手に入れる日まで
月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?
婚姻初日、「好きになることはない」と宣言された公爵家の姫は、英雄騎士の夫を翻弄する~夫は家庭内で私を見つめていますが~
扇 レンナ
恋愛
公爵令嬢のローゼリーンは1年前の戦にて、英雄となった騎士バーグフリートの元に嫁ぐこととなる。それは、彼が褒賞としてローゼリーンを望んだからだ。
公爵令嬢である以上に国王の姪っ子という立場を持つローゼリーンは、母譲りの美貌から『宝石姫』と呼ばれている。
はっきりと言って、全く釣り合わない結婚だ。それでも、王家の血を引く者として、ローゼリーンはバーグフリートの元に嫁ぐことに。
しかし、婚姻初日。晩餐の際に彼が告げたのは、予想もしていない言葉だった。
拗らせストーカータイプの英雄騎士(26)×『宝石姫』と名高い公爵令嬢(21)のすれ違いラブコメ。
▼掲載先→アルファポリス、小説家になろう、エブリスタ
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~
椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」
私を脅して、別れを決断させた彼の両親。
彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。
私とは住む世界が違った……
別れを命じられ、私の恋が終わった。
叶わない身分差の恋だったはずが――
※R-15くらいなので※マークはありません。
※視点切り替えあり。
※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる