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「ただいま~……あれ、誰もいない?」

 ウェルドはどこかに出かけているようだった。
 この家には誰かが中に入ってくれば、ウェルドの元へ家の人間なのか、招かれざる者が入ってきたのかという知らせが入る魔法が施されているから、もう少ししたら帰ってくるでしょ。
 半年ぶりに帰って来た我が家は、見回してみても綺麗に整頓されていた。
 二階にあるお客様用の部屋にエイベルとカミールとシリル君を案内して、各々の荷物を置いてから居間へ戻る。

 すると、制服から普段着に着替えたキーランが冷蔵庫の中を見て唸っていた。

「キーラン? どうしたの」
「……冷蔵庫の中に水と酒とつまみしか入ってないのよ。あの男、何を食べて生きてるのかしら」

 どうやら僕達三人が学園に行ったことにより、独り身になったウェルドの食生活がまた外食ばかりになっているようだ。
 食材を買いに町へ買い物へ行くと言うキーランに、エイベルが女の子同士で一緒に行こうと話し合っていた。
 夕食の時間まで時間があるから、キーランに三人でどこかに行って来たらと言われたので、僕とカミールとシリル君の三人で少し散歩に行くことにした。

 ネヴィルは「面倒なので行きません」と言われたので、お留守番してもらっている。

「わぁ……人がいっぱいいる」
「この町はいつも人で溢れてるんだよね」
「活気があるんだね」
「ねぇ、リアム。これからどこ行くの?」
「二人共、釣りに興味はない?」


 町の中を歩きながら、シリル君が興味津々といった感じで周囲を見回しているのを微笑ましく思っていたら、カミールにどこに行くのか聞かれたので、僕は「ここからそう離れていない場所に川があるから、そこで釣りをしようよ」と提案した。
 聞けば二人共釣りをしたことがないようで、魚を素手で触ったこともないようだった。
 やってみたいと言う二人を連れて釣り具屋に行き、必要な物をいろいろと購入していく。
 二人に買ったばかりの釣竿を手渡せば、どうやって使うのかと聞かれたので目的地に着くまで使い方とかの説明を一通りしながら歩いていた。
 市街地から少し歩いたところにある川辺まで来ると、僕は絶好の釣りスポットへ二人を案内する。

「この川は幅は広いけど流れが穏やかで浅いから、真夏になるとよく子供達だけで川遊びをして泳いだり、釣りをして遊んでいるんだ」
「へぇ~、じゃあ夏の長期休みはまた皆で来て、その時は泳ごうよ」
「うん、ボクも泳いでみたい」
「いいねぇ! それじゃあ次の夏の長期休みはそれで決まりだね!」

 僕達は笑いながらそう約束をしてから、釣りをする場所を決めて準備を始める。
 さすがに二人は魚の餌である虫を直接触ったことがないだろうな~って思っていたんだけど、意外と二人共への抵抗感はないようで、普通に掴んでいた。
 カミールは顔に似合わず虫や昆虫が大好きで、小さい頃は手に持っていたら虫が大嫌いなエイベルにめちゃくちゃ怒られていたんだって。
 今も釣竿に虫をさしながら「いやぁ~、手触りがツルツルしてて気持ちいいね」とか言っているし。
 シリル君の場合は、お兄さん達に小さい頃からよく虫を投げつけられていたから慣れたとのこと。
「毒虫じゃないから可愛いよね」との言葉に、ほろりと泣きそうになった。

「それじゃあ、誰が一番多く獲れるか競争だな!」

 それぞれ釣竿を手に取り、お互い間隔を開けて座って糸を川に向かって投げる。

「あっ……釣れそうかも!」
「え、もう!?」
「早っ!」

 一番最後に川に投げ入れたシリル君の釣り竿が、なぜか一分もしない内に魚が餌に食い付いた。
 三人でギャーギャー騒ぎながらなんとか釣り上げると、この川でよく獲れる『ルティ』という魚だ。
 買っておいたバケツに水を入れ、その中に魚を放す。
 見た感じ三十センチはありそうな魚を見て、また騒いでいたんだけど、そうしている内に僕やカミールの竿も引っ張られるのに気付く。

「うわっ、きたー!」
「ヤバいヤバい! 逃げちゃう!」
「ぼ、ボクも手伝うよ!」

 こんな感じで男子三人で騒がしくしながら釣りを楽しんでいると、気付けば三時間以上経っていた。
 少し大き目なバケツの中には、大小様々な魚が数匹ほど窮屈そうに泳いでいる。

 バケツの中で泳いでいる魚は焼いても煮ても美味しくなるので、あとでキーランに捌いてもらって美味しい料理にしてもらおうと思う。

 最初はぎこちない感じでお互いの名前を呼び合っていた二人も、家に帰る頃には「殿下」から「シリル君」になっていたし、シリル君も「カミール君」と気安く呼ぶようになっていた
 びしょ濡れになった僕達は、明日は何をして遊ぼうかと話し合いながら家に帰っていたんだけど……

 家に帰ったら僕達の姿を見たキーランとエイベルに「風邪を引くから直ぐにお風呂に入って来なさい」と呆れられてしまったのだった。
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