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 それからいろんな出来事がありながらも、学園に入学してから早くも一ヶ月が経った。

 この頃になると、だいたいの学園での人間関係などが分かって来るようになってきた。
 僕達の二学年上と三学年上には皇子様方が在籍している。
 皇位継承順位としては低いらしいけど、彼らの母親が他の側室よりも力が強い侯爵家や公爵家であるため、他の皇子や皇女よりも注目される人物のようだ。
 人当たりが良く、どんな階級の人達にも親切に接するのを見ていると出来た人物だと思っていたんだけど、ネヴィルの話によれば、なかなか腹黒い方々のようである。
 表と裏の顔が正反対らしく、自分達の手を汚さないように上手く周りの人間を操っているとのこと。
 エイベルとカミールにも遠回しに皇族の先輩方やその取り巻き達にはなるべく近付かないように言われてたから、必要最低限のこと以外はなるべく出会いたくないな。

 そんな中で、僕達三人は穏やかと言えるのか分からないような学園生活を送っている。

 まず、悪魔であるネヴィルとキーランは人外と言えるような美貌を持っているのもあり、入学早々学生達による『親衛隊』なるものが発足していた。
 ネヴィルには主に女子生徒の親衛隊が、キーランには男子生徒と一部の女子生徒の親衛隊が存在する。

 ちなみに言うまでもないが僕の親衛隊はいない。

 だけど、使い魔であるフォールティアとエルピスには『フォールティアちゃんとエルピスちゃんを愛でる会』なるものがあるらしい。
 まぁ、うちの使い魔達は可愛いから愛でる会があっても不思議じゃないけど、愛でる会の会員の方からよく二匹におやつの差し入れが入る。

 親衛隊なんて凄い組織が出来上がるなんて、もしや魔法を使って記憶を弄るかなにかしてるんじゃないかと思っていたんだけど、「悪魔はそこまでして人間に好かれたいとは思っておりませんよ」とヤレヤレと首を振られた。

「まぁ、私達レベルの顔を持っていないリアム様には、分からないことでしょうが」と言われ、ムカッとしたけど「疑ってごめん」と謝っておく。
 聞けば、どうやらここ数年ほど前から、学生達の間で『親衛隊』というものを作るのが流行っているらしい。
 皇室とかにある本格的な『護衛部隊』とかそういう重苦しいものではなく、人気のある学生を密かに愛でる会――まぁ、熱烈なファンのようなものらしい。
 今の若い子って凄いな……

 しかも悪魔が自ら動かなくてもいろいろな情報が親衛隊の皆様から入ってくるらしく、さらにはして欲しいことを言えば働き蟻のごとくせっせと動いてくれるんだって。

 それって本当に……大丈夫なのか?
 怖いんで二人には親衛隊にいる子供達に悪いことを命じないように、と言い含めておいた。

 ちなみに、僕のクラスには今年入学してきた第六皇子様がいる。

 何度か見たことのある上の学年にいる第四、第五皇子様は背も高く、魔法騎士を目指しているのもあってガッシリとした体格をしているが、第六皇子様はそれとは真反対で、体が小さくてひょろっとしている。
 同年代だと思うけど小さくて細い体を見ると、まだ十歳未満にしか見えない。
 ただ、クラスで隣同士の席(ネヴィルとキーランは僕の前後の席)になので、今では仲良く会話が出来るほどの仲になっている。
 最初は皇子様だし話しかけるのは不敬に思われるかな? って思っていたんだけど、忘れ物をした時に教科書を見せようかと話しかけたら、ビックリしたような表情をしてから凄く嬉しそうな顔をした。

 第六皇子――シリル君は、話せば全然普通の子供と変わらず、皇族だからと高圧的な態度になることもない。

 どちらかと言えば引込思案な性格で、他の皇子様方とは違っていつも下を向いており、自信がなくビクビクしているような感じだった。
 いろいろと情報を集めているネヴィルの話によれば、シリル君がこうなった原因は出生にあるのではないかとのこと。
 シリル君の他の兄弟のお母様達は、皇族、他国の王族、高位貴族の方々なのに対し、シリル君のお母様は力もなにもない下級貴族で立場的に弱い位置にいるんだって。

 だからなのか、シリル君は他の兄弟やその他の人達から今まで虐められて過ごしてきたらしい。

 魔法適性がかなり高いので本当は攻撃魔法系のクラスに行けるはずなのに、クラスの人数が少なく極力目立たないようにしようとこのクラスに入ったようだ。
 攻撃魔法が使えるのに、浄化の能力も持っているなんてある意味天才なのでは?
 頭も他の兄弟姉妹より飛び抜けて良いらしいけど、それで目を付けられても困るから頭が悪い振りをしているらしい。

 それなのに、低い立場だからと実力を発揮出来ないでいるなんて酷い話だと思いながら、それなら学園にいる間は心穏やかに過ごして欲しいと思う。
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