上 下
63 / 78

しおりを挟む
 そんな弟からの手紙であるが、ここ二年ほどは届くまでかなり期間が空くようになった。

 最初は毎月来ていた手紙が二ヶ月に一回から、三か月に一回になり……今では半年に一回しか届かないようになった。
 私は毎月送っているのに、なぜ来ないのか心配になった。

 弟は絶対毎月手紙を書くと言っていたし、約束は守る子だったから。

 いつも私の周りにいる神官に聞けば、「学業が忙しいのでしょう」としか言われなかった。
 最初はそう思っていたんだけど、あまりにも弟が心配になった私は行動を起こすことにした。
 体調が悪いからしばらく部屋で休むからと言って、誰も部屋に入って来ないように命じてから深くフードを被って、こっそりと部屋を抜け出して街へ出る。

 持っていた宝石――貴族の病気を治した時に貰った宝石を質屋で売り、魔法師が多く集まるギルドへ行って転移が得意な魔法師を雇い、弟がいる町へと送ってもらうことにした。

 転移すると、私は弟が通っている学校へ向かうことにした。
 途中、商店街がある方へ寄って、弟が好きな固めなパンとクリームスープの材料を購入しておく。

 久しぶりに弟の好物を作って食べさせてあげたかったから。

 買い物をすませてから急いで弟がいる学校へ向かうと、ちょうど下校中の生徒がいたので声をかける。
 その子達はちょうど弟と同学年の腕章をしていたので、弟の名前を伝えてまだ校内にいるのかと聞けば、二人の男の子達はお互い顔を見合わせてから「あいつは学校に来てないですよ」と肩を竦める。
 聞けば二年前に上級貴族のグループに目を付けられて虐めに合うようになってから不登校になり、それ以来学校には来ていないと言う。

 ガツンッ! とハンマーで頭を叩かれるような衝撃が襲う。

 そんなこと、一度も手紙には書かれていなかったし、神官達からそんな重大な内容は一言も入って来ていない。
 急いで弟がいる学生寮へと向かい、寮母に弟はどこなのかと詰め寄った。
 貴女は誰なのかと不審そうに言われた時、自分の身分を言えば神殿から追手が直ぐに来てしまうから、「聖女様の侍女で、聖女様から弟様の様子を見て来いと言われて来ました」と伝えた。
 そう言えば、寮母は寮から少し離れた場所にある小屋にいると言う。
 小屋とはどういうことだと思いながら、急いで教えられた場所へ向かえば――

 朽ち果てそうにほどボロボロになった、小屋と言うのも怪しい建物が見えた。

 心臓が締め付けられるような気分になりながら建物の前に立ち、取っ手の壊れた扉を開けて中に入れば……中は想像しているものようりももっと酷いも状態だった。
 ひび割れた窓ガラスに擦り切れたカーテン、四隅には蜘蛛の巣が張っている。
 まるで生活している形跡が一切ない様子に眉を顰めながら、ふとベッドへと目を向けて悲鳴を上げた。
 腕に抱いていた食材が床に散らばるのも気にせずに走り出す。

 ベッドの上で寝ていたのは、痩せこけて見るも無残な姿になった弟だった。

「そんなっ……なぜ……どうして……」

 ボロボロと泣きながら弟の頬に手を当て――あまりにも冷たい肌にバッと手を引く。

「まさか、そんな……嘘だっ!」

 胸に耳を当てて心臓の音を聞こうとしても、なにも聞こえない。
 慌てて治癒魔法をかけるも、一瞬光って直ぐに霧散してしまう。

 治癒の魔法は死んだ人間には使えないからだ。

 一体、なにが起きている?
 私の力は弟を助ける為に目覚めたものだ。
 それなのに、どうして弟はこんな状態になるまで放置され、一人寂しくこの世を去ってしまったのか。
 二年前から不登校と言っていた子供達の言葉が正しければ、神殿の連中が「弟は忙しくしている」という言葉は嘘になる。

 なぜ、そんな嘘を?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

かつてダンジョン配信者として成功することを夢見たダンジョン配信者マネージャー、S級ダンジョンで休暇中に人気配信者に凸られた結果バズる

竜頭蛇
ファンタジー
伊藤淳は都内の某所にあるダンジョン配信者事務所のマネージャーをしており、かつて人気配信者を目指していた時の憧憬を抱えつつも、忙しない日々を送っていた。 ある時、ワーカーホリックになりかねていた淳を心配した社長から休暇を取らせられることになり、特に休日に何もすることがなく、暇になった淳は半年先にあるS級ダンジョン『破滅の扉』の配信プロジェクトの下見をすることで時間を潰すことにする. モンスターの攻撃を利用していたウォータースライダーを息抜きで満喫していると、日本発のS級ダンジョン配信という箔に目が眩んだ事務所のNO.1配信者最上ヒカリとそのマネージャーの大口大火と鉢合わせする. その配信で姿を晒すことになった淳は、さまざまな実力者から一目を置かれる様になり、世界に名を轟かす配信者となる.

異世界召喚されたと思ったら何故か神界にいて神になりました

璃音
ファンタジー
 主人公の音無 優はごく普通の高校生だった。ある日を境に優の人生が大きく変わることになる。なんと、優たちのクラスが異世界召喚されたのだ。だが、何故か優だけか違う場所にいた。その場所はなんと神界だった。優は神界で少しの間修行をすることに決めその後にクラスのみんなと合流することにした。 果たして優は地球ではない世界でどのように生きていくのか!?  これは、主人公の優が人間を辞め召喚された世界で出会う人達と問題を解決しつつ自由気ままに生活して行くお話。  

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-

ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!! 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。 しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。 え、鑑定サーチてなに? ストレージで収納防御て? お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。 スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。 ※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。 またカクヨム様にも掲載しております。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

勇者じゃないと追放された最強職【なんでも屋】は、スキル【DIY】で異世界を無双します

華音 楓
ファンタジー
旧題:re:birth 〜勇者じゃないと追放された最強職【何でも屋】は、異世界でチートスキル【DIY】で無双します~ 「役立たずの貴様は、この城から出ていけ!」  国王から殺気を含んだ声で告げられた海人は頷く他なかった。  ある日、異世界に魔王討伐の為に主人公「石立海人」(いしだてかいと)は、勇者として召喚された。  その際に、判明したスキルは、誰にも理解されない【DIY】と【なんでも屋】という隠れ最強職であった。  だが、勇者職を有していなかった主人公は、誰にも理解されることなく勇者ではないという理由で王族を含む全ての城関係者から露骨な侮蔑を受ける事になる。  城に滞在したままでは、命の危険性があった海人は、城から半ば追放される形で王城から追放されることになる。 僅かな金銭で追放された海人は、生活費用を稼ぐ為に冒険者として登録し、生きていくことを余儀なくされた。  この物語は、多くの仲間と出会い、ダンジョンを攻略し、成りあがっていくストーリーである。

処理中です...