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アルフィー君との会話

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 ネヴィルとそんな話をしながら買い物をしている時、どこかで「リアム君!」と自分の名前を呼ばれた。

 声がした方へ振り向けば、大通りからアルフィー君が手を振りつつこちらへと向かって来るのが見えた。
 アルフィー君はあの後、ウェルドが創設した学校に直ぐに入ることになった。
 聞いた話だと最初はかなり大変な思いをしたようだったんだけど、ある時から頭角をメキメキと現し――去年『医学科』を最年少で卒業したらしい。
 ウェルドの話だと医者になる為の学科はかなり授業レベルが高く、入学は出来ても卒業するまでかなり時間がかかる場合があるんだって。

 その中でアルフィー君は医学科がある専門の学校に入学するや否や、『睡眠』『食事』『入浴』の時間以外の全ての時間を勉強に当てて、血のにじむような努力をしてきた。
 もちろん、周りは自分より年上の人達ばかりだし、孤児という理由だけで馬鹿にされたり見下されたりもしたようだけど、最後は実力で黙らせたんだって。
 かっこいいよね!

 そんなアルフィー君は、医者の卵として町の端にある個人病院に勤めながら経験を積んでいる最中だ。

「久しぶり、アルフィー君! あれ、今日はお仕事休みなの?」
「今日は診療所の定休日なんだけど、いつも来院しているおばあちゃんが、足が痛くて来るのが大変だって言ってたから、家に直接行って診てこようかなって思ってるんだ」

 往診が終わったら時間もあるし、近場のダンジョンに入って薬の原料になる薬草を取りに行く予定なんだって爽やかに笑うアルフィー君。
 出会った頃はヒョロヒョロの体で風が吹けば倒れてしまいそうな感じだったのに、今では筋肉が付いたがっちりとした体を持っている。
 お医者様というより、冒険者と言った方が似合う外見をしていた。
 ただ、一人でダンジョンに行けるくらい強くなったアルフィー君であるが、今だにネヴィルのことは苦手なのか、なるべくネヴィルと視線を合わせないようにしている。

 途中まで一緒に歩きながら、最近の出来事やいろんなことを話していて――ふと気になることを耳にした。

 なんでも、ここ一~二年くらいの間で周辺の町や村から失踪者がかなり出ているんだとか。
 まだ出ていないが、失踪者が今後も続くようなら新聞に載るのではとのこと。

「失踪って……誘拐とかなにかなのかな?」
「それはまだ分かってないんだ。ただ、誘拐にしても身代金の催促もないみたいだし」
「そうなんだ……早く見つかるといいよね」
「うん」

 医療を携わる者としてこういう情報がアルフィー君の元にもいろんなところから入ってくるらしく、毎年行方不明者はいるにはいるが、ここ数年でその数がかなり跳ね上がったらしい。
 え、怖いな。
 歩きながら辺りを見れば、子供達だけで遊び歩いていたり、一人でおつかいでお店に買い物に来ている子供が見える。
 もしかしたら、失踪が増えていることが大々的に報じられたら、こういった光景もしばらくは見れなくなるのかもしれない。

「務めている先の先生が言うには、こういった不可解な行方不明者が大量に出る時は、いつの時代も悪魔召喚に使う生贄にされることが多いって言ってたんだよね」
「……悪魔召喚……生贄」

 うおぉぉ……その言葉を耳にしてから、なんか嫌な予感がヒシヒシとしてきたんですが!

「あ、あのさ? ちなみに、どのあたりで人が多く消えてるかアルフィー君は聞いてた?」

 しどろもどろになりながらアルフィー君を見ると、アルフィー君はう~んと思い出すようにしながら顎に手を当てる。
 
「確かな情報かはまだハッキリしないんだけど、ここから南側にある国境付近や、その周辺に位置する過疎化した農村部の被害が多いって言ってたと思う」
「……そうなんだ」

 アルフィー君の話を聞いて、さらに僕の背中に冷や汗が流れる。
 そうこうしている内に、寄るところがあったんだと言うアルフィー君と別れ、またネヴィルと歩き出す。
 僕の肩で町中を楽しそうに眺める使い魔達であるが、僕とネヴィルはしばらく無言で歩いていた。
 だけど、僕が「ねぇ、ネヴィル」と言いながら横を向けば、「はい、なんでしょう」と僕を見降ろす。

「あのさ、さっきアルフィー君から聞いた話で思うところがあって」
「はぁ」
「ネヴィルはさ……ネヴィルを召喚した時に使った召喚陣が今どうなってるか分かる?」

 僕がそう聞けば、ネヴィルは何で今頃そんなことを聞くのかというような顔をしてから、こう言った。

「そうですね……『私を呼ぶための召喚陣』は消滅したようですが、あの場所で『新たな悪魔を呼ぶ召喚陣』が作動している気配はしますかね」
「えっ!? ネヴィルの召喚陣とは……違う召喚陣?」

 嫌な予感は当たったようだ。
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