48 / 78
3
しおりを挟む
ネヴィルが蜘蛛と格闘している間に、僕は少年の元へ駆け寄る。
倒れている子供の縄に手をかけても、かなりギッチリと閉められているらしくて解けなかった。
エルピスが炎で焼こうか? と言う風に口から炎をボゥッと出してくれたんだけど、子供ごと丸焼きにしそうだったので丁重にお断りしておいた。
縄を切る前に、口を塞いでいる布で息がしづらそうだったので口元を緩めると――
「た、助けて、お願い!」
まだ僕よりも小さな男の子は、泣きながら懇願する。
「もう大丈夫だよ」と声をかけてあげながら、短剣を鞄から取り出し、男の子の体に巻かれている縄を切っていく。
子供の僕が太くて頑丈な縄を切るには時間がかかる作業なんだけど、この短剣はネヴィルの魔法が付与されているのでスパスパと切ることが出来る。
後ろに回された両手首や足首、それに肩から膝まで縄でグルグル巻きにされていたのを解き……そこから出て来た少年の体を見て、僕は眉をひそめた。
掴まってここに来るまで何度も逃げようとしたからか、よく見れば顔や体全体に何度も殴られた跡がある。
「心配しないで、君をここに連れてきた奴らはいないからさ」
震えながら周囲を見回す男の子にそう言いながら、最後に手足の縄を切り――手を取って立たせてあげる。
男の子は泣き腫らした目元を摩りながら立つと、体調が悪そうな感じで足元もふらついている。
もしかしたら、ダンジョンの中に溜っている瘴気の影響もあるのかもしれない。
鞄の中から『浄化薬』を取り出して飲ませてあげようとした時、僕の頭上に移動していた蜘蛛が静かに口を開く。
直ぐに蜘蛛の存在に気付いた使い魔達が頭上を見て警戒音を出すも、全く気配に気付かなかった僕は「え?」と言いながら頭上を見て――蜘蛛の口から吐かれた毒液を思いっ切り顔からかぶってしまった。
「うわっぷ!」
「ひぃっ!?」
ねばついた液体が顔から受け止め、体全体に降りかかった瞬間、熱さを感じたと思ったら視界が暗転した。
それから直ぐに目を開ければ、咄嗟に後退りして毒液をかぶるのを逃れた男の子が、驚愕の表情で僕を見ていた。
「へ……え? 今、しん……光っ……え、えぇ!?」
どうやら強力な毒で溶けたかなにかして死んだ僕を見たのに、その次に光ったと思ったら無傷の僕が再び目の前に登場して驚いたようだった。
うん、そんなのを見たら僕でも驚く。
「ネヴィル! こっちの蜘蛛も倒しといて!」
「はいはい、少々お待ちを」
ネヴィルは振り返りもせずに人差し指を軽く振ると、僕と男の子がいる周囲の蜘蛛達が一瞬にして真っ黒な炎に包まれて灰になり、風に流されて消えてしまう。
「まっ、 魔獣が消えた!?」
「ネヴィル~、まずは僕達の安全を第一に動いてねー!」
「まったく……注文が多いですね」
僕の言葉に文句を言いつつも、ネヴィルは僕と男の子の近くにいる魔獣達を一掃していく。
その光景を見てから男の子の方を見れば、あんなに具合が悪そうでフラフラだったのに、今は置かれている状況に震えながらも普通に立って辺りを見回していた。
『浄化薬』が入った瓶は僕の手の中にまだあるのに……なんで状態が良くなってるんだろう?
「ねぇ君、さっきまで凄く体調が悪そうだったけど、今は大丈夫なの?」
「え? あぁ、うん。なんか君が光ったのと同時に気持ち悪いのが治ったんだ」
「……ふ~ん?」
なにを言っているのか意味が分からなかったんだけど、もしかしたら魔獣がひしめき合う場所に置いて行かれて、錯乱状態になっているのかな?
僕は弱いながらも男の子に『浄化』をかけて、念のために『浄化薬』も飲ませておく。
これで状態異常も治るでしょ。
男の子のことを治している間に、蜘蛛を殲滅し終えたネヴィルが戻って来た。
「リアム様、これからいかがなさいますか? 攻略を続けるのならその少年は邪魔ですし置いていきますか?」
「はい!? そんなことは出来るはずないでしょ!」
このまま少年をこんな危険なダンジョンに置いていったら、助けた意味がないじゃん。
「ある程度攻略は進んだし……この子を連れて、いったん家に帰ろう」
「かしこまりました」
こうして僕達は一度少年を連れて家に戻ることにしたのだった。
倒れている子供の縄に手をかけても、かなりギッチリと閉められているらしくて解けなかった。
エルピスが炎で焼こうか? と言う風に口から炎をボゥッと出してくれたんだけど、子供ごと丸焼きにしそうだったので丁重にお断りしておいた。
縄を切る前に、口を塞いでいる布で息がしづらそうだったので口元を緩めると――
「た、助けて、お願い!」
まだ僕よりも小さな男の子は、泣きながら懇願する。
「もう大丈夫だよ」と声をかけてあげながら、短剣を鞄から取り出し、男の子の体に巻かれている縄を切っていく。
子供の僕が太くて頑丈な縄を切るには時間がかかる作業なんだけど、この短剣はネヴィルの魔法が付与されているのでスパスパと切ることが出来る。
後ろに回された両手首や足首、それに肩から膝まで縄でグルグル巻きにされていたのを解き……そこから出て来た少年の体を見て、僕は眉をひそめた。
掴まってここに来るまで何度も逃げようとしたからか、よく見れば顔や体全体に何度も殴られた跡がある。
「心配しないで、君をここに連れてきた奴らはいないからさ」
震えながら周囲を見回す男の子にそう言いながら、最後に手足の縄を切り――手を取って立たせてあげる。
男の子は泣き腫らした目元を摩りながら立つと、体調が悪そうな感じで足元もふらついている。
もしかしたら、ダンジョンの中に溜っている瘴気の影響もあるのかもしれない。
鞄の中から『浄化薬』を取り出して飲ませてあげようとした時、僕の頭上に移動していた蜘蛛が静かに口を開く。
直ぐに蜘蛛の存在に気付いた使い魔達が頭上を見て警戒音を出すも、全く気配に気付かなかった僕は「え?」と言いながら頭上を見て――蜘蛛の口から吐かれた毒液を思いっ切り顔からかぶってしまった。
「うわっぷ!」
「ひぃっ!?」
ねばついた液体が顔から受け止め、体全体に降りかかった瞬間、熱さを感じたと思ったら視界が暗転した。
それから直ぐに目を開ければ、咄嗟に後退りして毒液をかぶるのを逃れた男の子が、驚愕の表情で僕を見ていた。
「へ……え? 今、しん……光っ……え、えぇ!?」
どうやら強力な毒で溶けたかなにかして死んだ僕を見たのに、その次に光ったと思ったら無傷の僕が再び目の前に登場して驚いたようだった。
うん、そんなのを見たら僕でも驚く。
「ネヴィル! こっちの蜘蛛も倒しといて!」
「はいはい、少々お待ちを」
ネヴィルは振り返りもせずに人差し指を軽く振ると、僕と男の子がいる周囲の蜘蛛達が一瞬にして真っ黒な炎に包まれて灰になり、風に流されて消えてしまう。
「まっ、 魔獣が消えた!?」
「ネヴィル~、まずは僕達の安全を第一に動いてねー!」
「まったく……注文が多いですね」
僕の言葉に文句を言いつつも、ネヴィルは僕と男の子の近くにいる魔獣達を一掃していく。
その光景を見てから男の子の方を見れば、あんなに具合が悪そうでフラフラだったのに、今は置かれている状況に震えながらも普通に立って辺りを見回していた。
『浄化薬』が入った瓶は僕の手の中にまだあるのに……なんで状態が良くなってるんだろう?
「ねぇ君、さっきまで凄く体調が悪そうだったけど、今は大丈夫なの?」
「え? あぁ、うん。なんか君が光ったのと同時に気持ち悪いのが治ったんだ」
「……ふ~ん?」
なにを言っているのか意味が分からなかったんだけど、もしかしたら魔獣がひしめき合う場所に置いて行かれて、錯乱状態になっているのかな?
僕は弱いながらも男の子に『浄化』をかけて、念のために『浄化薬』も飲ませておく。
これで状態異常も治るでしょ。
男の子のことを治している間に、蜘蛛を殲滅し終えたネヴィルが戻って来た。
「リアム様、これからいかがなさいますか? 攻略を続けるのならその少年は邪魔ですし置いていきますか?」
「はい!? そんなことは出来るはずないでしょ!」
このまま少年をこんな危険なダンジョンに置いていったら、助けた意味がないじゃん。
「ある程度攻略は進んだし……この子を連れて、いったん家に帰ろう」
「かしこまりました」
こうして僕達は一度少年を連れて家に戻ることにしたのだった。
95
お気に入りに追加
250
あなたにおすすめの小説
ダンジョン発生から20年。いきなり玄関の前でゴブリンに遭遇してフリーズ中←今ココ
高遠まもる
ファンタジー
カクヨム、なろうにも掲載中。
タイトルまんまの状況から始まる現代ファンタジーです。
ダンジョンが有る状況に慣れてしまった現代社会にある日、異変が……。
本編完結済み。
外伝、後日譚はカクヨムに載せていく予定です。
ゲーム中盤で死ぬ悪役貴族に転生したので、外れスキル【テイム】を駆使して最強を目指してみた
八又ナガト
ファンタジー
名作恋愛アクションRPG『剣と魔法のシンフォニア』
俺はある日突然、ゲームに登場する悪役貴族、レスト・アルビオンとして転生してしまう。
レストはゲーム中盤で主人公たちに倒され、最期は哀れな死に様を遂げることが決まっている悪役だった。
「まさかよりにもよって、死亡フラグしかない悪役キャラに転生するとは……だが、このまま何もできず殺されるのは御免だ!」
レストの持つスキル【テイム】に特別な力が秘められていることを知っていた俺は、その力を使えば死亡フラグを退けられるのではないかと考えた。
それから俺は前世の知識を総動員し、独自の鍛錬法で【テイム】の力を引き出していく。
「こうして着実に力をつけていけば、ゲームで決められた最期は迎えずに済むはず……いや、もしかしたら最強の座だって狙えるんじゃないか?」
狙いは成功し、俺は驚くべき程の速度で力を身に着けていく。
その結果、やがて俺はラスボスをも超える世界最強の力を獲得し、周囲にはなぜかゲームのメインヒロイン達まで集まってきてしまうのだった――
別サイトでも投稿しております。
道具屋のおっさんが勇者パーティーにリンチされた結果、一日を繰り返すようになった件。
名無し
ファンタジー
道具屋の店主モルネトは、ある日訪れてきた勇者パーティーから一方的に因縁をつけられた挙句、理不尽なリンチを受ける。さらに道具屋を燃やされ、何もかも失ったモルネトだったが、神様から同じ一日を無限に繰り返すカードを授かったことで開き直り、善人から悪人へと変貌を遂げる。最早怖い者知らずとなったモルネトは、どうしようもない人生を最高にハッピーなものに変えていく。綺麗事一切なしの底辺道具屋成り上がり物語。
僕の兄上マジチート ~いや、お前のが凄いよ~
SHIN
ファンタジー
それは、ある少年の物語。
ある日、前世の記憶を取り戻した少年が大切な人と再会したり周りのチートぷりに感嘆したりするけど、実は少年の方が凄かった話し。
『僕の兄上はチート過ぎて人なのに魔王です。』
『そういうお前は、愛され過ぎてチートだよな。』
そんな感じ。
『悪役令嬢はもらい受けます』の彼らが織り成すファンタジー作品です。良かったら見ていってね。
隔週日曜日に更新予定。
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
【完結】おじいちゃんは元勇者
三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話…
親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。
エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…
レベル“0”ですが、最強です。
勇崎シュー
ファンタジー
突如勇者として転移された鹿羽琢真。
ステータスを確認したところ、何と彼のレベルは1ではなく“0”だった!
それ故戦力外と判断され王国から追放されるが……。
琢真はレベルが一切上がらない代わりに、本来習得出来ない強力な“剣召喚”スキルを手に入れていた!
追放されたのなら好き勝手に生きます。
どんな相手も最強の剣でやりたい放題!
広大な世界を旅するソードファンタジー。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる