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 ネヴィルが蜘蛛と格闘している間に、僕は少年の元へ駆け寄る。

 倒れている子供の縄に手をかけても、かなりギッチリと閉められているらしくて解けなかった。
 エルピスが炎で焼こうか? と言う風に口から炎をボゥッと出してくれたんだけど、子供ごと丸焼きにしそうだったので丁重にお断りしておいた。
 縄を切る前に、口を塞いでいる布で息がしづらそうだったので口元を緩めると――

「た、助けて、お願い!」

 まだ僕よりも小さな男の子は、泣きながら懇願する。
「もう大丈夫だよ」と声をかけてあげながら、短剣を鞄から取り出し、男の子の体に巻かれている縄を切っていく。
 子供の僕が太くて頑丈な縄を切るには時間がかかる作業なんだけど、この短剣はネヴィルの魔法が付与されているのでスパスパと切ることが出来る。
 後ろに回された両手首や足首、それに肩から膝まで縄でグルグル巻きにされていたのを解き……そこから出て来た少年の体を見て、僕は眉をひそめた。
 掴まってここに来るまで何度も逃げようとしたからか、よく見れば顔や体全体に何度も殴られた跡がある。

「心配しないで、君をここに連れてきた奴らはいないからさ」

 震えながら周囲を見回す男の子にそう言いながら、最後に手足の縄を切り――手を取って立たせてあげる。
 男の子は泣き腫らした目元を摩りながら立つと、体調が悪そうな感じで足元もふらついている。
 もしかしたら、ダンジョンの中に溜っている瘴気の影響もあるのかもしれない。

 鞄の中から『浄化薬』を取り出して飲ませてあげようとした時、僕の頭上に移動していた蜘蛛が静かに口を開く。
 直ぐに蜘蛛の存在に気付いた使い魔達が頭上を見て警戒音を出すも、全く気配に気付かなかった僕は「え?」と言いながら頭上を見て――蜘蛛の口から吐かれた毒液を思いっ切り顔からかぶってしまった。

「うわっぷ!」
「ひぃっ!?」

 ねばついた液体が顔から受け止め、体全体に降りかかった瞬間、熱さを感じたと思ったら視界が暗転した。
 それから直ぐに目を開ければ、咄嗟に後退りして毒液をかぶるのを逃れた男の子が、驚愕の表情で僕を見ていた。
 
「へ……え? 今、しん……光っ……え、えぇ!?」

 どうやら強力な毒で溶けたかなにかして死んだ僕を見たのに、その次に光ったと思ったら無傷の僕が再び目の前に登場して驚いたようだった。
 うん、そんなのを見たら僕でも驚く。

「ネヴィル! こっちの蜘蛛も倒しといて!」
「はいはい、少々お待ちを」

 ネヴィルは振り返りもせずに人差し指を軽く振ると、僕と男の子がいる周囲の蜘蛛達が一瞬にして真っ黒な炎に包まれて灰になり、風に流されて消えてしまう。

「まっ、 魔獣が消えた!?」
「ネヴィル~、まずは僕達の安全を第一に動いてねー!」
「まったく……注文が多いですね」

 僕の言葉に文句を言いつつも、ネヴィルは僕と男の子の近くにいる魔獣達を一掃していく。
 その光景を見てから男の子の方を見れば、あんなに具合が悪そうでフラフラだったのに、今は置かれている状況に震えながらも普通に立って辺りを見回していた。
『浄化薬』が入った瓶は僕の手の中にまだあるのに……なんで状態が良くなってるんだろう?

「ねぇ君、さっきまで凄く体調が悪そうだったけど、今は大丈夫なの?」
「え? あぁ、うん。なんか君が光ったのと同時に気持ち悪いのが治ったんだ」
「……ふ~ん?」

 なにを言っているのか意味が分からなかったんだけど、もしかしたら魔獣がひしめき合う場所に置いて行かれて、錯乱状態になっているのかな?
 僕は弱いながらも男の子に『浄化』をかけて、念のために『浄化薬』も飲ませておく。
 これで状態異常も治るでしょ。

 男の子のことを治している間に、蜘蛛を殲滅し終えたネヴィルが戻って来た。

「リアム様、これからいかがなさいますか? 攻略を続けるのならその少年は邪魔ですし置いていきますか?」
「はい!? そんなことは出来るはずないでしょ!」

 このまま少年をこんな危険なダンジョンに置いていったら、助けた意味がないじゃん。

「ある程度攻略は進んだし……この子を連れて、いったん家に帰ろう」
「かしこまりました」

 こうして僕達は一度少年を連れて家に戻ることにしたのだった。
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