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とある悪魔と人間の会話(閑話1)

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 人々が行きかう街中を歩きながら、ウェルドは心の中で笑いが止まらなかった。

 つい数日前までは革命軍に捕まり、断罪されて処刑されそうになっていたのに、今の自分は処刑もされずに年老いた体から二十代中頃くらいの若々しい姿になっている。
 人間、老いれば誰しも若い頃に戻りたいと思うものだろう。
 若い頃とは違い、思考能力の低下であったり、疲れやすく、思うように動かない体に何度歯痒い思いをしたことか。

 魔法や召喚使・召喚魔の力を借りて若い姿で過ごす者も稀にはいるが、魔力が膨大じゃなければ出来ない芸当だ。

 なので、そのような姿を保っているのは大魔法師レベルでなければ、そんなことを出来る人間はいない。
 皺のない肌に艶がある髪、掠れた声は若々しいハリのあるものになり、頭の中も冴え渡っている。

 ウェルドはトスカーテラ国内の貴族の私生児として生まれたが、大人になるまでに様々な悪事に手を染めていた。

 町の悪ガキ達をお金をばら撒いて従え、素行の悪い貴族の次男坊以下を捕まえては悪い道へと引きずり込み、弱みを握ったりしては脅し、その家の情報を引き抜いて自分にとって有利に動かすことを行っていた。
 そして私生児とはいえ家の嫡子を押し退けて後継者となり、それから政界に進出して宰相という地位にまで上り詰め――高齢になった頃には裏の権力者として王と同等の権力を振るっていた。
 ただ、自身が富むためには領民もある程度豊かでなければならないということを良く分かっていたので、他の領地よりは比較的良心的な税率にし、輸入の縛りなども取り入れてはいなかった。
 なので領民からの評価は良い方だったと言える。

 ここまま何事もなく行けば何の問題もなく自分の意のままに国を動かせたのに、あの馬鹿王が若い娘を側妃に迎えてから事情が変わり始めた。

 溺愛する側妃の言うままに動くようになった王は次第に自分の言う言葉に耳を貸さなくなり、側妃が望むままに動く傀儡へとなっていった。
 自分の手下に裏切られたのもあったが、まさかあんな小娘に負けるとは思ってもみなかった。

 しかし、負けたことによって思いもよらない方向から『幸運』がやってきたのだ。

 笑わずにはいられない。
 富・名声・名誉・身分などの全てを失ったとはいえ、今まで培ってきた知識や知恵、それに交渉術などいろんなものがそのままの状態でこの若い体の中に残っている。

 リアムが受けた女神の祝福が、自分にも振って来たのではないだろうかと感じてしまう。


 家を出てから目的地へ行くのに路地裏を選んで歩いていると、後ろから声をかけられた。
 振り向けば、家にいたはずのネヴィルが立っている。
 ネヴィルは没落貴族であるリアムの執事――という設定の為、いつも執事が着るような黒い光沢のない燕尾服を着用している。
 美しい顔を持ち柔和な笑顔で騙されそうになるが、その本性は私よりも残忍で冷酷だ。
 ちなみに執事という設定にしているので常に敬語で話してはいるが、リアムと話している最中、所々本性が出ている。

「急に呼び掛けて悪いねヘイスティングス」
「いえ、ネヴィル様。どうしましたか?」
「あぁ、君に一つ頼みたいことがあってね」
「頼みごとですか?」
「えぇ。リアム様がなるべく多く死ぬよう、ギルドに手を回して欲しいんですよ」
「……リアム様が死んでもよろしいのですか?」

 基本、悪魔は契約した契約主を手にかけることが出来ないようになっている。

 ただ悪魔本人が契約主を直接殺せないくらいで、間接的に……誰かに殺させるよう唆したり手を回すことは出来なくもない。
 なので悪魔と契約する人は、悪魔が自分を絶対に殺さないよう、又は殺そうとする人物が近付いたら排除するよう最初に契約の中に入れるか、命令をする。
 だけどリアムの場合自分が死んでも生き返るからか、またはそのことを失念していたのか、知らなかったのかは分からないが、そのことを契約にもネヴィル本人にも命じなかったようだ。

「リアム様は本当に平々凡々な人間なので、死んでもゴミカスくらいの力しか私に入って来ないので鬱陶しいだけだと思っていたんですよ。ですが……リアム様が言う女神の祝福が関係しているのかは分かりませんが、リアム様が死ぬと私の力が一時的にではなく永続的に上がるんです」

 上がる力は塵に等しいくらい極々少数だが、塵も積もれば山となると言うネヴィルは、だからリアムを殺す回数を多くしてくれと美しく笑う。
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